第89話・コータ。休日に困る
いち、に、さん……。
朝の日課はラジオ体操だ。精霊様たちとスレイプ君、仔フェンリル君たちと一緒にみんなでやる。もちろんスレイプ君たちは出来ない体操が多いから、真似ているだけだけどね。
見上げると気持ちのいい青空だ。今日も元気に働こうと意欲が湧いてくる。ただ、今日はダンジョン行きもお休みだし、パリエットさんに私も休むように言われたんだよね。
休みだとなると掃除と洗濯がしたくなるのは前世の習慣だろうか? 残念ながら掃除は毎日お屋敷のメイドさんがしているし、洗濯もしてくれる。繕い物もないしなぁ。
ラジオ体操のあとは鉈剣で素振りだ。こういう毎日コツコツとやることは嫌いじゃない。最近はレベルが上がることもないので、上達したか分からないけど楽しい。
少し汗ばむくらい動くとお腹が空く。朝食も用意してくれるなんて、本当に感謝しかない。しかも美味しいんだ。
「おはよう」
ちょうど食べ始めているとパリエットさんが起きてくる。今日はのんびりするらしい。私はどうしよう。
うーん。前世だと、家事か休日しか出来ない用事を済ませるくらいしかしていない。年齢を重ねると疲れから寝ていることも増えた。いざ、休みだと言われてもなにをしていいか思い浮かばない。
「こーた、あそぼ」
「おいしいものつくろう?」
自由気ままな精霊様たちは今日も元気だ。そうだなぁ。とりあえず、荷物の整理でもしようか。いろいろ溜まっているんだよね。
精霊様たちとお話をしながら、アイテム鞄となっているリュックの中身の整理をする。
相変わらずメニュー画面というのは慣れないからなぁ。ただ、最近は新しい使い方を覚えた。メニューからリュックやクーラーボックスの中身が確認出来るんだ。リストとして表示されているので、足りないものや欲しいものが分かりやすいんだよね。
シルバーボアのお肉もまだある。ちょっと日にちが過ぎたので確かめてみるけど、鮮度に問題はないようだ。ワイバーンのお肉なんてまだ二匹分が手付かずだ。美味しいんだけど下処理に時間が掛かるからなぁ。
木の実とか薬草の類とかいっぱいある。お店で売れるらしいんだけどね。幸いにしてお金には困っていない。
「ああ、これはどうしよう」
そういえば精霊様たちが集めるものは草花だけではない。鉱石の類もある。あんまり珍しい鉱石はないらしいけどね。これは売ってもいいかな。
まてよ。自分で精錬とか出来るんだろうか? ちょっとやってみたいかも。
まあ、それはおいおい考えよう。さて、調味料とかは……。カレールーが少ないな。キャンプスキルで注文しておこう。砂糖も結構、使うんだよなぁ。一袋注文だ。精霊様たちのお菓子もいる。どれが好みかまだ把握していないから、ちょっとずつ買っておこう。
「よし、あとは少し薬を作ろうか」
「はーい!」
荷物の整理が終わった。薬草や木の実なんかが多いので薬とポーションを作る。日頃大人しい錬金の精霊様が嬉しそうに駆けてきた。
丁寧に心を込めて作る。なんといっても人が飲むものだからね。間違いがあってはならない。
「あら、お仕事かしら」
幾つか失敗しながらもポーションを作っていると、シスターのマリアンヌさんが部屋にやってきた。マリアンヌさんも今日はお休みらしい。
「いえ、荷物の整理をしていたら薬草がたくさんあったので作っておこうかなと」
「働き者ね。一段落したら、ちょっと町に付き合ってくれないかしら」
「はい。すぐ終わりますよ」
お仕事なのか? 言われるまで気付かなかった。個人的になにかしているほうが落ち着くんだよね。
道具を片付けたら、マリアンヌさんのお供だ。荷物持ちでもなんでもどんとこいだ!
マリアンヌさんのお供としてきたのは洋服店のようだ。ただし既製品というのはないようで、採寸して作る店だ。高級店なんだろうか? それともこの辺りではこれが普通なんだろうか?
日本でも少し古い時代になると、既製品の服はなかったはずだし、後者かもしれないね。
「ほうほう、なるほど。していかほどの生地を使いましょう?」
「このくらいでいいわ」
あれ? なんで私が採寸されているの?
「あの……、マリアンヌさん。私、服はありますので……」
「いいから、任せて」
日常で着る服も、女神様が見繕ってくれたものが幾つかあるんだ。基本、寝間着くらいにしかしていないけど。
結局、マリアンヌさんに押し切られてしまった。
洋服店を出ると少し歩く。
「コータの服、よく見ると目立つのよ。いい品物よ。むしろ、良すぎるの。しかもデザインも作りもこの辺りの物じゃないわ。用心に越したことがないから、みんなでプレゼントすることにしたの。前々からご馳走してもらっているお礼よ」
説明されてハッとする。そんなに目立つかな? 地味で特徴のない服だけど。女神様シリーズとかは見た目から違うから分かるんだけど。
「日常で着たりするなら、ちょうどいい服だから貰ってね」
「はい。ありがとうございます」
好意を無にすることもしたくない。素直に嬉しい。でもね。そういう気遣いが出来ない自分が恥ずかしい。
「るりーなさま、にげんのくらしくわしくない」
「はりきりすぎたんだよね」
私の肩や頭に乗る精霊様がそんな話をしている。確かに元の世界でもブランド品とか派手に身に着けていると目立つしね。あれどこの品だろうと噂をする姿は見たことがある。
こういう日常から気を付けないと駄目なのか。
その後、靴職人さんのところで、日常で履く靴と、ちょっといいところに出向く時の靴も作ってもらうことになった。
冒険者はそこまで普通はそこまで気を使わないらしいけどね。私の場合はアナスタシアさんの面目があるから、恥ずかしい格好は出来ない。
しかし、町を歩くと面白い。いろんな人がいて、それぞれにどんな生活をしているんだろうと想像すると楽しい。
でも……。
「皆さん、私のこと知っているのは何故でしょう?」
「うーん、町を助けるくらい強い人の噂はすぐに広まるわ。それに貴方のその剣と服は独特だから」
気になったことを尋ねてみると、またしても自分が迂闊だったことを思い知る。
少し前までワルキューレの首飾りを隠すとバレなかったんだけど。今日はどう考えても町の人が私を知っているのが分かるんだ。
マリアンヌさんがいるからかなと思ったけど、初対面の洋服屋さんとか靴職人さんも私の名前を知っていたからさ。
変装とか変身魔法ってないのかな? 目立つのあんまり得意じゃないんだけど。
「コータ。おかしなこと考えないほうがいいわよ。人は隠すと暴きたくなるものだから」
ああ、マリアンヌさんには私の考えが読めるらしい。
困ったなぁ。
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