第86話・コータ、ダンジョンに行く
「私も行く」
翌朝、今日はゲル君たちと一緒にダンジョンに行く約束があるんだが、お屋敷で朝食を頂いているとパリエットさんに唐突に一緒にくると言われた。
「私は構いませんけど……」
「アナタは危うい。ダンジョンでなにかやらかしそう」
モグモグと朝食を頬張る精霊様たちと一緒に見ていると、理由を教えてくれた。今日はゲル君たちと一緒だし大丈夫だと思うんだけど。
「ひまなんだよ」
「ぱりえっと、おやすみにあきたの」
ただ、パリエットさんといつも一緒にいる精霊様たちが、私と一緒の精霊様たちから朝ご飯を分けてもらいつつ、そんなことを教えてくれた。
他のワルキューレのメンバーは、侯爵様たちが留守の間に侯爵家の仕事を手伝っているアナスタシアさんをのぞいて、ギルドから依頼を受けたりしていているけどね。パリエットさんはお姉さんと一緒にのんびりしていたんだ。
まあゲル君たちも反対しないだろう。一緒に行こう。
「エルフ様。私たちは大歓迎ですが……」
「パリエット。エルフ様はやめて」
パリエットさんと仔フェンリル君たちとスレイプ君と一緒に待ち合わせ場所である冒険者ギルドに行くと、ゲル君たちは少し戸惑ってしまった。リーダー各のマリーちゃんが代表をして話すが、パリエットさんは呼び名で少し困った顔をした。
「コータといると、凄い人と一緒になるな」
思わず本音を口にするゲル君。彼らの故郷では、エルフって偉いとかそんな扱いなのかな?
「じゃあ、行きましょうか」
「ああ、待って。ダンジョンまでは馬車が出ているわ。それに乗っていきましょう。私たちコータ君ほど体力ないし。申し訳ないけど」
「ああ、それはいいですね」
ここに来るまで少し一緒に旅をしたので、パリエットさんとゲル君たちは顔見知りだ。パリエットさんはあまり口数が多くないので、直接話したのは初めてだと思うけど。
ここは私が気を利かせて話を先に進めるが、マリーちゃんの提案で馬車に乗って行くことになる。どうもマリーちゃんたち、早めに冒険者ギルドに来てダンジョンの情報を下調べしていたらしい。
馬車はギルドの前から出ている。割と初心者から中堅くらいの冒険者たちが先に乗っていて、私たちが乗ると定員に達したようで出発する。
私たちの周りや馬車の幌の上には精霊様たちが乗っている。轍がある道を馬車がガタゴトと進んでいく。
「パリエットさん、ダンジョンってどんなところなんですか?」
暇だったので経験者であろうパリエットさんにダンジョンについて聞いてみる。昨日、サーズさんにも教えてもらったが、いまいちわからなかった。
洞穴の中を探索するということと、中が広いということはわかったんだけどね。
「ダンジョンは特殊な空間。ダンジョンは生きていると言った人がいたと聞いたことがある」
「生きているんですか」
なんかまた難しい説明だなぁ。
「えーと、パリエット様。今までどこのダンジョンに入られたことがあるんでしょうか?」
「様も要らない。パリエットでいい。私はエルフの村の近くにあったところに入ったことがある。遺跡型のダンジョンだった」
マリーちゃんはパリエットさんとの距離感を図りつつ、情報収集に余念がない。ゲル君たち男の子は武器を磨いていて、魔法使いのターニャちゃんは仔フェンリル君とスレイプ君を撫でてご満悦な様子だからね。
彼女の苦労が偲ばれる。
「ダンジョンって酸素は大丈夫なんですかね?」
「……酸素?」
洞窟の探検なんだろうと思うが、気になるのは空気なんだよね。ただパリエットさんとマリーちゃんに首を傾げられた。酸素じゃ通じないのか。
「えーと、空気のことです。新鮮な空気がないと苦しくなりませんか?」
「それなら大丈夫。ダンジョンは苦しくならない。鉱山とかとは違う」
なんか昔見た探検物の映画を思い出すが、だいぶ違うらしい。
「おっし! 冒険だ!!」
馬車が到着したのは、ちょっとした村のようなところだった。冒険者とか旅人のような武器を持った人が何人も見える。
ゲル君はワクワクが止まらないと言いたげな表情だ。
「ちょっとゲル! 受付しないとダメなんだからね!!」
マリーちゃんもなんだかんだ言いつつ楽しげだ。
私たちはそのままダンジョンの管理事務所に行く。冒険者ギルドの出張所のようだ。
職員の人から説明を聞くが、ここは入るのにお金が掛かるらしい。その代わり中で得たものは探索した人のものになるそうだ。ダンジョンは場所によって仕組みが違うから注意するようにと言われた。
「えっと、一通り用意してきたんだけど……」
次にマリーちゃんはギルドの売店で品物を見ていた。ダンジョンで必要になる道具を確認しているらしい。
明かりとなる松明やポーションという回復薬や解毒剤など、結構いろんなものがいるらしいね。
いよいよ私たちは受付で貰った許可書を見せてダンジョンに入る。
「広いですね」
驚いたのは結構広くて明るいことだ。まあ明るいと言っても薄暗い程度だけど、光源はないのになんで明るいんだろう?
広さは車が二台すれ違えるほどだ。この中で馬車とか使う人はいないと思うけど。トロッコとか使っていたのかな?
「コータは魔法を禁止。ここのモンスターは危険はない」
仔フェンリル君とスレイプ君はダンジョンが初めてらしい。精霊様たちはダンジョンを知っている精霊様もいれば、知らない精霊様もいるらしい。その精霊様によってさまざまみたい。
私はパリエットさんにさっそく魔法を禁止された。
「洞窟そのものですね」
ダンジョンとやらは洞窟と見た目は変わりない。
「ここはそんなダンジョンなだけ。他に行くといろいろある」
ゲル君たちは敵がいつ襲って来てもいいようにと、真剣な顔つきで進んでいる。私とパリエットさんは後方の見張りと警戒の分担なんだけど、精霊様たちと仔フェンリル君たちが反応しない限りやることはない。
「くーん」
「こーた、あっちでにんげんさんとまものがたたかっているよ」
ダンジョンに入って十五分くらい過ぎただろうか。仔フェンリル君と精霊様が反応した。
「行かなくていい。ダンジョンでは助けを求められるまでは人の戦いに介入してはダメ。獲物を横取りすると思われると殺し合いになる」
助けに行くべきかとパリエットさんに相談しようとしたが、パリエットさんも精霊様の声は聞こえなくても様子でわかるらしい。
うーん。他の人と協力とかあまりしないのかぁ。なんか殺伐としているなぁ。
「一階だと人が多いからモンスターもなかなか出くわさないって聞いていたけど……」
そのまま歩けど出会うのは初心者らしき冒険者ばかりだった。モンスターより冒険者のほうが多いんじゃないだろうか。
精霊様たちと仔フェンリル君たちが飽き始めている。ここには森もないから景色も変わらないし、面白くないらしい。
「パリエットさん、二階に降りてみたいと思うんですがどうでしょう?」
「いいと思う。私とコータがいるから問題ない」
ダンジョンは広く奥も深かった。とはいえ奥から戻って来る初心者もいる。これ以上奥に入っても無駄だと判断したマリーちゃんの提案で、地下二階に降りることになった。
なんか私もワクワクしてくるな。宝箱とかあるかな?
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