第82話・コータ、ゲル君たちの戦闘を見学する
私とゲル君たちはサーズさんと町を出た。
ゲル君たちは少し緊張気味だ。見知らぬ強い冒険者というだけで、彼らには恐い存在なんだろう。出会った時には一度先輩冒険者に騙されているからね。
「サーズさんは、ずっとひとりで冒険者をしていたんですか?」
「いや、始めた頃は相棒がいたな。魔法も使えねし、武器を買う金もなかった。ふたりで拳闘士になろうって、村を飛び出したんだ」
ちょっと空気が重いので、私がゲル君たちとサーズさんを繋いでやらないと。これでも歳だけはとっているんだ。そのくらいは気遣いが出来る。
そんな私の意図を理解したのか、サーズさんは少しニヤリと笑って自身の過去を教えてくれた。
「素手って、怖くないんですか? 痛そうですけど」
「そりゃあ怖かったし、痛かったさ。でも村にやってきた人が凄くてな。素手で大岩も砕いていたんだ。コータは知っているんじゃねえか? 鉄腕のジルって人だ。今はフルーラの街のギルマスやっている。あの人に憧れて拳闘士になったんだ」
サーズさんの話に意外な人物が出て来てびっくり。フルーラの街のギルドマスターかぁ。スキンヘッドをしていて見た感じは山賊かという人だ。
あの人は精霊様たちも強いと言っていたほどだ。体育会系というか荒っぽい人生を送ってきたんだなと感じる人。私は少し苦手かもしれない。
「ああ、あの人ですか」
「あの人がな。強くなりたければ、とりあえず殴れって教えてくれたんだ。いい加減なもんだろ?」
うわぁ。マリーちゃんとターニャちゃんが軽く引いている。そんなノリで冒険者になれるんだと思う反面、駄目だろうと思うんだろう。
場所にもよるが、冒険者ギルドではもっと丁寧に教えてくれるらしい。日銭の稼ぎ方から基本的な戦い方までいろいろと。とりあえず殴れなんて当然ないんだろう。
「おっと、ゴブリンが三匹か。コータとお前らは見学だ」
そんな話にゲル君たちも食いついて少し打ち解け始めた頃、町の周囲の畑を抜けると草原に差し掛かっていた。
精霊様たちがゴブリンがいると真っ先に教えてくれたので、ゲル君たちとサーズさんに教えると、サーズさんの顔が引き締まる。
「くーん?」
「お前らだと腹ごなしの運動にもならんだろうが。ゲルたちには強敵だ。どのくらいやれるか見てやるからやってみろ」
私と一緒に見学を言い渡された仔フェンリル君たちとスレイプ君はなんでと首を傾げていたが、サーズさんは少し苦笑いをして理由を教えてくれた。
「はい! 行くぜ!!」
「ちょっと、ゲル! ひとりで突っ込まないでよ!」
仔フェンリルたちとスレイプ君もその言葉に納得たのか、ちょこんとお座りして見学体制になった。
当然のことながらゲル君はやる気になって突っ込むが、マリーちゃんが慌てて止めている。本来は敵を受け止める重戦士のバーツ君は出遅れていて、魔法使いのターニャちゃんも一歩遅れて魔法の準備に入った。
「先手必勝!!」
現在私たちが滞在するサランズの町で買ったという剣を、昨日自慢していたからなぁ。先頭にいたゴブリンに斬りかかった。
「ああ、だめだよ! きみひとりだとかてないよ?」
「げるって、あたまよくないよね」
仔フェンリル君たちとスレイプ君と一緒に精霊様たちも見学体勢だ。真っ先に突っ込むゲル君に慌てるような精霊様もいるが、危険はないと判断したのか冷静な精霊様もいる。
私もゴブリンってあんまり戦ったことないなぁ。女神さまグッズにゴブリンポイポイがあるから。
「バーツ! ゲルをお願い! ターニャ! ふたりが離れたら魔法で攻撃して!」
うん。彼らの司令塔は見習い僧侶件弓使いのマリーちゃんらしい。自身はゲル君が囲まれないようにとゴブリンに狙いを付けつつ、仲間たちに指示を出している。
「ギギィ!」
「この! ゴブリンめ!」
ああ、ゲル君の剣とゴブリンの剣がぶつかり勢いが殺されると囲まれそうだ。ゴブリンの剣はぼろぼろの錆びている剣だけど、ゲル君だと切断するでもなく止められてしまった。
「おりゃ!!」
それでも怯まずゲル君はゴブリンの一匹を切り裂くが、すでに両脇を囲まれている。
「ゲル!」
危ない! と思ったが、重戦士のバーツ君がゲル君を引っ張ると後方に下がらせて、自身の盾でゴブリンの攻撃に備えた。
「やらせないわ!」
「ファイアーアロー」
バーツ君がゴブリンとの間合いを作った隙を、マリーちゃんとターニャちゃんは逃さなかった。マリーちゃんの弓矢とターニャちゃんの魔法が命中すると、ゴブリンはダメージを受けて怯む。
「総攻撃だ!」
うん。まだまだ元気なゲル君とバーツ君がそこに攻めに転じてゴブリン二匹を倒していた。
「若いな。羨ましいぜ」
良かったと一息つくマリーちゃんと勝ったと喜ぶゲル君の対照的な姿に、サーズさんは頬をポリポリと掻いて見ていた。確かに若いなと思う。
「まずはゲル! お前、仲間の動きを見ろ! 背後に敵でもいたらどうすんだ? 全員殺されちまうぞ」
「マリー、お前の指示はいいが、弓と回復魔法と指示の三役は多いぞ。中途半端だ」
「バーツ。お前は遅い。装備が重いのはわかるが、もう一歩動きを早くできないなら装備が邪魔なくらいだ」
「ターニャ、本当はお前が指示を出すべきだ。それと最後方にいるお前は逃げ道と背後を常に気を付けて考えておけ」
凄い。的確なアドバイスを全員に出した。精霊様たちもパチパチと拍手している。ワルキューレのみんなと旅をした時は、魔物に襲われるなんてなかったしなぁ。
スレイプ君とフェンリル君たちがいると襲って来ないって聞いたね。もっともは魔物が逃げないように気配を隠すことも出来るらしく、今なんかはそんな状態らしいけど。
「こーたもあんまりたたかいうまくないよね」
「げるとおんなじ。ちゃんとかんがえないとだめだよ」
他人事というわけではないが、サーズさんに指導を受けて神妙にしているゲル君たちを仲がよくていいなと微笑ましくみていたら、精霊様たちに私の欠点を指摘された。
確かにそうだ。私は女神さまの力がないとゲル君たちにも劣るんだ。
「うん。コータどうした?」
「いや、私もちゃんと考えて戦わないとなと……」
私も勉強しないとみんなに迷惑をかけてしまうと反省していたら、サーズさんに不思議そうに声を掛けられた。
「精霊魔法使いは精霊と共にあるんだろ? 精霊の意思に耳を傾ければいい。エルフなんかはそうしているって聞くぜ」
「さーず、わかってる~!」
「ぼくたちにまかせるの!」
「こーたはぼくたちがまもるよ!」
サーズさんのアドバイスは的確だった。精霊様たちは嬉しいのか喜び踊りだす。
「なんだ?」
「精霊様たちがサーズさんの助言に喜んでいます」
精霊様たちの踊りにより周囲が優しい光に僅かに包まれると、さすがのサーズさんも驚くが、私がその理由を教えるとニヤリと笑みを浮かべた。
こんな厳しい世界で生きている人はやっぱり違うんだなぁ。
私は出遅れているが、一歩一歩を進しかない。
ひとりじゃないんだ。もう。
「当たり前だろ。さあ、行くぜ」
ちょっと照れたサーズさんは、本来の目的であるキラービーの討伐のために歩き出した。
ゲル君たちも落ち込んでなんかいない。アドバイスを生かすんだとやる気に満ちている。
私も負けてられないね。頑張ろう。
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