第81話・コータ、依頼を受ける
「気を付けるのよ。町の近隣だと大丈夫でしょうけどね」
「はい。行ってまいります」
翌朝、夜明けと共にお屋敷を出ることにした。ゲル君たちと依頼を受けるためにだ。
アナスタシアさんがわざわざ門まで見送りに出てくれた。少し心配そうだけど大丈夫だよ。夕方までには帰るから。
同行してくれるのは今日も仔フェンリルたちとスレイプ君に精霊様たちだ。
「おっす! ちゃんと遅れないで来たな」
「おはよう。眠くない?」
「おはようございます。お待たせして申し訳ない。朝は強いので大丈夫ですよ」
冒険者ギルドの前でゲル君たちと待ち合わせなのだが、彼らのほうが先に待っていた。失敗したな。人数が少ない私が待たせないように、五分前には待ち合わせ場所に到着するべきなのに。
ただこの時代だと時計がないから、約束もアバウトなんだよね。夜が明けたら冒険者ギルドに集合というものだ。
お屋敷からここまでは結構距離がある。彼らは何処に泊まっているんだろうか?
「混んでいますね」
「朝はこんなもんだよ。さっさと依頼受けようぜ」
魔法使いのターニャちゃんが外で待っているというので、仔フェンリルたちとスレイプ君をお願いした。ギルドの中は混雑していて、彼らだと危ないからね。精霊様たちも半分は残るようで、半分が私と一緒に中に入ってくる。
ゲル君が慣れた様子で混雑するギルドに入って掲示板の方にするすると進んでいく。
「おう、コータじゃねえか。今日は早いな」
「おはようございます。今日は彼らと一緒に依頼を受けようかなと思いまして」
基本的に私は人混みが苦手だ。どんくさいというか要領が悪かった前世の影響だろう。なんとかゲル君たちの後を付いて行くと、先日のオーガ退治の時にいた冒険者の人と出くわした。
確かBランクだったかな。サーズさんという拳闘士という職業の人だ。武道をしている人らしく筋肉質の男性になる。
「そういや、お前。新人だっけか。ワルキューレは忙しいのか?」
「いえ、一人で依頼を受けるのも経験なので」
ゲル君たちはびっくりしている。ベテラン冒険者の人たちは慣れた様子で新人とゲル君たちとは違うからね。私はアナスタシアさんたちのおかげでベテランさんの顔見知りが多い。
「ああ、それがいい。たまにお前みたいな恐ろしい才能の奴がいるが、意外とつまらんことでミスるからな。ただ森の奥には行くなよ。オーガの余波でまだ安定してねえんだ」
「はい。そうします」
オーガ退治のあともワルキューレのみんなやベテランさんはオーガの影響で生息域が変わった森の調査や危険な魔物の退治をしている。もっとも森の大精霊様であるシルヴァさんによると大きな問題はないらしいけど。
私やゲル君たちのような初心者や経験の浅い人たちが、危なくないようにと動いているらしい。
「コータって、ワルキューレだもんな。しかも強いし。昨日の仕事とか見ていると忘れそうになるけど」
この町に限ればワルキューレの名前は重い。侯爵様のお嬢様のクランだからね。あまり意識していなかったんだろう。改めて思い出したようで、ゲル君が少し複雑そうな顔で見ていた。
「凄いのはアナスタシアさんたちと精霊様だからね。私は一人だと多分ゲル君よりモノを知らないし、使えないよ」
女神さまの力がないと、ただの要領の悪い子供になってしまうのは明らかだ。自慢じゃないが、要領が悪いと言われたことは何度もある。
「いや、お前、その剣を使っても強いだろ」
うーん。でも女神さまのスキルとか加護って言えないんだよね。絶対騒動になる。
「まあ、いいじゃないの。知らないなら勉強すれば。さあ、依頼を決めましょ」
どう返答するか少し悩むと、私が困ったのを察したマリーちゃんが話を戻してくれた。この子も頭がいいなぁ。
「森はまだ駄目だしな。ウルフでも狩るか? 奇襲さえ受けなきゃやれるだろ」
「でも数が多いと危ないわよ?」
いろんな依頼があるなぁ。この時間に来たことないから知らなかった。ゲル君が好きな討伐依頼、私がよくやった雑用依頼。あとは採取依頼とか護衛の依頼もあるね。
「こーた、これいいよ」
「それは……」
精霊様たちの中で文字が読めるのは知識の精霊様だ。知識の精霊様は掲示板を見ていて、ひとつの依頼を勧めてくれた。
「あら、キラービーの討伐やりたいの? ちょっと私たちには荷が重いわ」
マリーちゃんは私の依頼を見ている依頼を見つつ、少し難しい顔をしている。キラービーってなんだろう?
「キラービーってどんな魔物なんです?」
「お前、そんなことも知らないのか? 蜂だよ。蜂の魔物」
「ああ、そうでしたか。精霊様はこれがいいというもので」
知らないのでゲル君に教えてもらうが、なんで知識の精霊様が勧めるかわかった。蜂蜜だ。知識の精霊様は甘いものが好きだからね。
「きらーびーのはちみつおいしいよ」
「うん、あれおいしい。こーたのパンケーキにかけるともっとおいしい」
「あれにしよう!」
やっぱり。精霊様たちが蜂蜜に騒ぎだした。でもマリーちゃんとゲル君は無理だと言いたげだ。
「お前ら、キラービーの依頼受けるのか?」
「いえ……」
「そう言えば、コータ。お前精霊魔法使えたな? ならありかもしれん。キラービーは探すのが大変なんだ」
いつの間にか、さっき話していたサーズさんが後ろにいた。なんでだろう?
「危ないのはやりませんよ」
「何言ってんだ。オーガに正面から突っ込んだ癖に。と言ってもそうだな。知らん魔物は怖いよな。そうだ。俺が同行してやる」
ゲル君たちがいるんだ。危ない依頼は受けません。ただ、サーズさんはなにか考えがあるようで突然ついてくると言い出した。
「悪いですよ。それに今日は彼らと一緒なんです」
「精霊魔法使いを騙すほど嘘なんて上手くねえよ。それにお前になんかするとアナスタシアに地の果てまで追われるだろうが。キラービーは倒し方を覚えるとお前らでも楽勝だ。探すのが大変なだけで。ついでに教えてやるよ。報酬は人数割りでいい。どうだ?」
サーズさんはやる気だ。でも私には判断出来ない。
「キラービーの蜜は確かに高価なんですよね。でもいいんですか? 私たちはコータとは違います。本当に初心者と変わりませんよ」
困ったなとゲル君たちを見ると、マリーちゃんが控えめにサーズさんと交渉を始めた。
「知っているよ。まとめて面倒みてやる」
「コータ。アナタがいいなら私たちは構わないわ。サーズさんはこの町でも名の知れている人よ。正直、お金を払って同行をお願いしてもいいくらいだもの」
マリーちゃんもゲル君も異論はないらしい。精霊様たちも特に反対意見はないみたい。危ない人だと教えてくれるんだよね。
「ついでだ。ウルフとゴブリンも受けて行こうぜ。適当に狩れる」
サーズさんにお願いすると、キラービーとウルフとゴブリンの依頼を持って受付に行く。
「あら、サーズさん。一人じゃないなんて珍しいと思ったら……。キラービーですか。まあコータ君がいれば悪くない依頼ですね。相変わらず要領がいいといいますか、なんと言いますか」
「心配すんな。やることはやる」
「コータ君もみんなもこの人、こう見えて優秀だから、しっかり教えてもらうといいわよ」
サーズさんが当てにしているのはキラービーを探すことらしい。多分、仔フェンリルたちか精霊魔法を期待されているんだろう。
エルフは精霊と通じ合えるので、魔物を探したりすることが得意だとパリエットさんに聞いたことがある。それを期待されたか。
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