第79話・コータ、町の外の依頼を受ける
「ちぐはぐだね」
今日も天気がいいね。ラジオ体操をしていると、ベスタさんに誘われて一緒に戦闘訓練をすることになった。
実質初心者だ。言われるままに鉈剣を振ったが、ベスタさんは腕組みしたまま悩むように考え込んでしまった。
うーん。なにがちぐはぐなんだろう。鉈剣の素振りは毎日しているんだけどな。
それにしても、若い体っていいね。動いてもあちこち痛くならないし、軽い。精霊様たちやホワイトフェンリルのアルティさんに、仔フェンリル君たちとスレイプ君が見守る中で鉈剣を振っていく。
「コータがおかしいのは、今に始まったことじゃない」
そこに現れたのはパリエットさんだ。寝癖がついていますよ?
「こりゃ、もっと基礎的な経験を積ませる必要があるね」
うーん。なにがおかしいんだろう? ベスタさんが深いため息をついた。
「なにが駄目なのか教えてください」
わからない時は素直に聞くに限る。背筋を伸ばして頭を下げた。
「コータ、あんた最近まで魔物とか狩ったことないんだろ?」
「はい」
しまった。おかしい理由は女神さまからもらった能力か? どうしよう。嘘は付きたくないが、どこまで話していいのかわからない。
「人一倍、才能だけはある子供なんだよ。アンタは。精霊が助けなきゃ死んでたね」
「ぼくたちがんばったもんね!」
「こーたはりょうりがじょうずなの」
「ちょっとにぶいよね」
「ルリーナさまとおなじ。てんねん」
ああ、直すところ以前に素人だということか。精霊様たちもベスタさんの言葉に反応してそれぞれに意見を教えてくれる。
うーん。人生は甘くない。前世で格闘技とかやっていれば違ったのかなぁ。
「普通はねぇ。痛い思いしながら経験を積んでいくんだけど……」
「精霊と会話が出来るメリットがそこ。精霊が助けてくれる。しかもコータの精霊はいっぱいいる。普通はエルフでさえも会話なんて出来ない。精霊と気持ちを通じるまでに長い時間がかかる」
「なるほど。コータは人間ってより、精霊の常識のほうが詳しそうだね」
ベスタさんとパリエットさんは私の長所と短所を語りつつ、どうするべきか考えてくれているようだ。
「師匠からなにか言われなかったかい?」
「えーと、世界を見て楽しんで来いと」
「変わった師匠だね」
師匠って、いないんだよね。この世界に導いてくれたルリーナ様がそれに近いか? のんびりキャンプでもして旅をすればいいと言ってくれているだけだ。
パリエットさんは一度ルリーナ様に会っているので察してくれたようだ。でもなんとも言えない顔をされたのはなんでだろう?
「少し町の外の依頼を受けてみたらどうかしら?」
悩むのか言葉が途切れた代わりにアイデアを出してくれたのは、元シスターのマリアンヌさんだった。
町の外にはたまに出ている。精霊さまたちとか仔フェンリル君たちやスレイプ君の散歩に。ただ魔物は避けている。精霊様たちは基本的に争いを好まないからね。
依頼は町の中のものしか受けていないなぁ。依頼内容は雑用だけど、いろんな人と出会い働くのが楽しいんだよね。前の世界では体を動かす仕事だったし。
「普通は若い奴らは魔物を狩りたがるんだけどね。コータは雑用が好きなんだろ?」
「はい」
若い冒険者といえば、ここに来るまで少し一緒だったゲル君たちを思い出す。先日、偶然町で会った。新しい武器を買いたいって頑張っていたよ。
私のことを有名になって羨ましいと言っていたけどね。正直、申し訳ない気持ちになったくらいだ。
「……でも、少し町の外の依頼を受けてみます」
「それがいいね。何事も経験だよ」
「やり過ぎてはいけない。町の近くの魔物の討伐からすること。あのマジックアイテムは当面禁止」
真剣に私のことを考えてくれる皆さんの意見に従おうと思う。パリエットさんからはいろいろと制約が付けられたけど。
朝食を頂いて冒険者ギルドに行く。
冒険者ギルドの依頼は基本的に早い者勝ちらしい。割のいい依頼は早くなくなるので、冒険者の朝は早いみたい。
とはいえ私はお屋敷の皆さんやワルキューレの皆さんと一緒に朝食を頂くので、そんな人たちがいなくなってから行くのが日課だ。
それに冒険者ギルドにはガラの悪い人もいる。あまり揉め事を起こすとワルキューレの皆さんに迷惑をかけるので、なるべく人が減った時間に行くことにしている。
朝はラジオ体操と剣の素振りをして教会にお祈りにいくからね。
「おはようございます」
「コータ君。おはよう」
ギルドの建物に入ると受付のお姉さんに挨拶をして、依頼が張られている掲示板を見る。いつものように雑用からみて行くが、今日はちょうど雑用の依頼がないなぁ。ここのところ毎日働いたからだろうか。
「この畑の巡回とはどんな依頼ですか?」
さっそく今日は町の外に出てみようと思い、簡単な外の依頼を探す。目に付いたのは畑の巡回だった。
「ああ、それ? 町の周りに畑があるでしょ? そこにウルフとか土モグラが出るのよ。それを追い払う依頼ね。依頼料が安いでしょう? とりあえず巡回していればいいだけだから簡単なのよね」
近くにいてこちらを見ていた、ちょっとケバい受付のお姉さんに仕事内容を聞いてみる。
畑とはあれか。前に子供たちと一緒に少し働いたところか。確かに子供たちにとってはウルフは危ないね。
「これ私が受けていいですか?」
「構わないわよ。初心者向けだから。コータ君、向けかもね」
よし。この依頼を受けよう。これなら精霊様たちとか仔フェンリル君たちも楽しめるはず。
「坊主、気をつけな。その姉ちゃん坊主みたいなガキを食っちまうぜ」
「ガハハハッ。女なんて顔と金で選ぶからな!」
「うるさい! この飲んだくれども! 働け!!」
依頼を受けて行こうとしたが、隣接する酒場で朝から飲んだくれている中年冒険者の人たちがヤジるように声を掛けてきた。
私は愛想笑いで誤魔化すが、いつもニコニコとしていたお姉さんが、人が変わったように睨んで怒鳴ったよ。
ガラの悪い人結構いるしね。このくらい強くないとやっていけないんだろう。この世界にセクハラ禁止とかないっぽいし。
「コータ君。あんな大人になったらダメよ」
「はい。行ってきます」
凄い。まるで別人のように笑顔に戻って私を送り出してくれた。日本だとここまであからさまに変える人はいなかったなぁ。
女は強しだね。
ちょっと別れた元妻を思い出した。
私がもう少し彼女のことを理解してやれたら、彼女とも本当の家族になれたんだろうか? 元気にしているだろうか? あの妙に覚えている夢のようなことになっていないといいけど。
過ぎたことをいつまでも恨んでも、何も得るものはない。もう恨みはないんだ。関わりたくはないけど、どこかで幸せになって、少しでいい。反省してくれていたらいいけど。
「こーた、きょうはどこにいくの?」
「今日は町の外の畑ですよ。畑の見回りです」
「わーい! たのしみなの!」
さて、ギルドにの建物を出て、外でお座りしてまっていた仔フェンリル君たちとスレイプ君と合流した私たちは町の外に歩いて行く。
精霊様たちはやっぱり町の外に行くのが好きらしい。自然が好きなのかな?
頑張って働こう。早く人に迷惑をかけないようにならないと。
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