第74話・コータ、オーガ討伐に参加する
「こーた、なにつくってるの?」
「お腹が空いた時に食べられるように、事前に準備しているんですよ」
今日は朝からワイバーンの肉の下処理をしている。ちゃんと下処理すると美味しいんだけどね。時間が掛かるのが難点なんだ。
時間のある時にやっておいて、クーラーボックスに入れておくと腐らない仕様だから出先でも美味しい食事が食べられる。
相変わらず楽しげにしている精霊様たちを見つつ、お屋敷の料理人さんと情報交換して有意義な時間を過ごしていると、アナスタシアさんに呼ばれた。
今日はなんにも怒られることしてないけどなぁ。
「オーガですか? そういえば昨日、森で会った人たちが倒しに行くとか言っていましたね」
お屋敷のサロンにはすでにワルキューレのみんながいた。なんかあったのかなと思ったら、町の近くにオーガが集落を造ろうとしているようで、討伐に参加するかという相談だった。
「戦力的にどうなんだい?」
「少し厳しいそうよ。駄目ならお父様が出るとも言っているけど」
ベスタさんは剣の手入れをしつつアナスタシアさんに詳細を確認していた。どうも冒険者ギルドに頼まれたらしいね。
サロンには美味しそうな果物が置かれている。精霊様たちが食べたいと言うので、アナスタシアさんの許可をもらって皮を剥いて切り分けてあげながら話を聞く。
前々から気になっていたけど、この世界では治安維持を冒険者に頼る部分がある。貴族などの統治者は町や村の治安維持と街道がせいぜいだ。
今回の場合も町や村への危険性次第で侯爵様や領軍が出るらしい。
「いいんじゃない? ガツンと一発かましやってやろうじゃないの!」
「もりはもやしちゃだめだよぉ」
ソフィアさんはやる気だ。でも森の精霊様が相変わらずソフィアさんは危険だと少し不安そうだ。前に森を燃やしかけたことを忘れていないらしい。
「コータ、パリエットさん。ふたりはどうする?」
「行く。コータも経験を積むべき」
最後にアナスタシアさんは私とパリエットさんに問い掛けたが、パリエットさんは悩む間もなく決めた。オーガ。昨日ホワイトフェンリルのアルティさんに教えてもらったが、鬼の魔物らしい。
アルティさんにとってはそんなに強くないけど、人間にとっては脅威だと言っていた。私もお手伝い出来るならするべきだろうね。
翌日、私たちはオーガ退治に向かうことになった。アルティさんは侯爵様のお屋敷でお留守番らしい。代わりに二匹の仔フェンリル君たちとスレイプ君はやる気満々で同行してくれる。
「おい、あいつか。ワルキューレをハーレムにしたガキは……」
「よせ、殺されるぞ。怒らせるとフェンリルが来るって噂だ」
集合場所である冒険者ギルドに出向くと、知らない冒険者たちに妙な噂をされていた。根も葉もない噂なのに……。
「あら、坊やも参加するのね」
「うふふ、アナスタシアに飽きたらいつでもいらっしゃい」
困ったなと思っていると後ろから突然抱き着かれてびっくり。先日会ったエッチな二人組。確かアイリーン姉妹だったか。
「私はリースよ」
「私はリーネ」
アナスタシアさんたちと火花を散らしている中、気にした素振りもなく自己紹介された。
「コータです。よろしくお願いします」
「うんうん。礼儀正しい子は好きよ」
ソフィアさんと斥候のアンさんが強引に私と二人を引きはがしにかかった。これがモテるということなんだろうか?
人を見た目で判断しては駄目ですよ。私は中身が老人だ。もっとお互いに知ることを優先するべきじゃないかな。
「えーと、説明を始めていいか?」
困ったなと思っていると、止めてくれたのは眼鏡をした線の細い男性だった。
「構いませんわ。ギルド長」
この人がこの町のギルド長なのか。なんか意外だ。フルーラの町のギルド長はムキムキのスキンヘッドだったのに。
アナスタシアさんがアイリーン姉妹から視線を離すと周りに軽く会釈して、ギルド長はようやく説明を始める。
「子持ちのオーガはゴブリンを従えて集落を作っている。オーガの討伐が第一目標だ」
集まった冒険者は二十名ほど。これでも代表者だけのところもあるので、実際の仕事にはもっと人が増えるんだとか。
オーガという魔物は森の奥にいるらしく、そこまで行くのも大変らしい。当然途中で魔物に遭遇する危険もある。失敗した場合は撤退が必要だが、それも含めて作戦を練るらしい。
「ねえ、噂のホワイトフェンリルの親はどうしたの?」
皆さん真剣に意見出し合っているが、あいにくと私には出来ることはない。と思ったらエッチなお姉ちゃんのひとりのリースさんがまた後ろから抱きついてきて話しかけて来た。
この人たちのことって、精霊様たちが警戒しないんだよね。改めて考えると、そういう意味では悪い人じゃないんだと思う。
アルティさんに会いたかったのか。もふもふだしね。二匹の仔フェンリル君たちがお母さんになんか用? とでも言いたげに見ている。
「ああ、お屋敷でお留守番をするそうです」
「ふーん。魔人が出たっていうし、それも仕方ないか」
「関係あるんですか?」
「なきゃないで問題ないけど、魔人ってのは魔物を操るって聞くしね。警戒して損はしないでしょ」
へえ。アルティさんが来なかったのはそんな理由があるのか。大精霊様も海の大精霊様のシーアさんは残っているんだ。森は得意じゃないんだって。実は必要になったらいつでも召喚出来るから、何処にいても一緒なんだけど。
ところでそろそろ離れてくれませんか? 周りの視線が痛いです。
オーガ討伐はどうなったかというと、私たちとアイリーン姉妹とほかにふたつほどのパーティーが一緒にいくことになった。
全体として見ると三チームほどに分かれて、別々のルートでオーガのところに行くんだそうだ。
すぐに出発ということで、私たちは町を出て森に入る。
というか女性の比率多いです。ほかのパーティーも女性が半分ほどいるパーティーだからだろう。
「こーた、こーた、やくそうあったよー」
「おやつまだ?」
精霊様たちは相変わらずだ。半分以上、依頼というものを理解していないみたいだ。
小型化しているスレイプ君と二匹の仔フェンリル君たちも楽しげにお散歩中。でも彼らは目的を理解しているっぽい。
「ゴブリンがいたぞ!」
「やるぞ!」
「いくわよ!」
森に入ってすぐにゴブリンと出くわした。案内役は先日森の中で会ったオーガ狩りに行くと言っていた冒険者たちだ
露払いとしてオーガのところまでは彼らが案内しながら戦うらしい。精霊様にお願いすれば魔物に会わないルートもあるんだけどね。あまり手の内は明かすことはよくないんだそうだ。
オーソドックスな慣れたやり方が一番無難ということなんだろう。
私の場合も女神さまシリーズのアイテムの使用は禁止されたし、精霊様へのお願いもなるべくしないように言われている。
一般的な冒険者たちの戦いを学ぶいい機会だ。よく見て勉強しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます