第73話・コータ薬草取りに来てのんびりする。
「こーた、やくそうあったよ~」
「ありがとうございます。少しお茶にしましょうか」
冒険者ギルドに登録して数日が過ぎた。今日は精霊様たちとホワイトフェンリルのアルティさんとスレイプ君と一緒に近くの森に来ている。
薬草取りの依頼を受けたんだよ。薬草は精霊様たちも一緒に集めてくれたのですぐに予定量が集まった。取り過ぎはよくないだろうし、もう十分だろう。
今日は少し日差しが強いのでタープを張って日よけとして、周囲を探索して薪になりそうな枯れ枝を拾う。
「こーた、てつだうよ?」
「大丈夫ですよ。このくらいすぐに終わるので」
拾った枯れ枝を適度な大きさに折ったり鉈剣で割っていく。コンロもあるんだけどね。時間もあるし、のんびりと作業するのも悪くない。
火を付けるのは炎の精霊様がやってくれた。瞳を輝かせてオレの出番だと張り切っていたからね。
適度に薪が燃えたらコッへルでお湯を沸かす。パチパチと燃える炎はなんか落ち着くな。コッヘルからコトコトと音がすると、みんなに紅茶を淹れてあげる。
ふと見渡せば仔フェンリルたちとスレイプ君は久々の自然を楽しんでいる。町での生活も問題ないみたいだけど、自然の中のほうが本来の住む世界だからね。のびのびしている気がする。
「こーた、おかしたべたい!」
「あまいものがいいなぁ」
精霊様たちは草むらに座わり楽しげにお茶を飲んでいたが、茶菓子がほしいらしい。うーん。どうしようか。
貴重な薬草とかよく持ってきてくれるし、精霊様たちが普通に働けば、私なんかと比較にならないほどすぐにお金が貯まる。これは美味しいものを食べさせてあげよう。
「そうですね。パンケーキでも焼きましょうか」
「わーい!」
「ぱんけーきすき!」
確か前に買ったホットケーキミックスがあったはず。鉄のフライパンを熱して、バターを溶かし、ホットケーキミックスを牛乳と卵で混ぜて焼くだけだ。
バターの焼ける匂いと、パンケーキが焼けていいく匂いに精霊様たちや仔フェンリルたちとスレイプ君が瞳を輝かせてフライパンを覗き込んでいる。彼らに焼けたパンケーキを配りつつ、私は新しいものを焼く。
モグモグと口いっぱいに頬張り笑顔になるみんなを見るのが幸せだ。おっと蜂蜜もあったね。みんなのお代わりの分からは蜂蜜も垂らしてあげよう。
食後は風に当たりながらみんなとのんびりとしていると、精霊様たちが誰か人がやってくると教えてくれた。
「なんだ。煙が見えたから誰かと思えば子供か」
やってきたのは知らない五人組の人たちだ。多分冒険者だろう。特に危険な感じもしないようで、精霊様たちも仔フェンリルたちとスレイプ君も警戒する様子はない。
「こんなところでひとりで危ないって言いたいとこだが、余計なお世話らしいな」
「この子が噂のフェンリルとスレイプニル連れの冒険者か~。フェンリルなんて初めて見たよ。しかも女だけのクラン、ワルキューレに加わった唯一の男の子だっていうんだから羨ましいね」
「ウルフより毛並み良さそう」
「お前ら、言葉に気を付けろよ。ホワイトフェンリルは人の言葉を話してドラゴンすら単体で狩るって噂だ」
なんだろう。悪い人ではないが、気持ちのいい人たちではない。まあ野次馬のような感じだし、気にするだけむだなんだろうけど。
ホワイトフェンリルのアルティさんが少し不快そうに視線を向けると、リーダーらしい男が仲間を諫めるように注意してくれた。根は悪い人じゃないらしいね。
「一応聞くが、オーガを狩ったか? オレたちはオーガの討伐に来たんだが。この奥にいるって聞いたんだが」
「オーガですか?」
リーダーらしい男は大人しくなった仲間にやれやれと言いたげな表情をしてオーガのことを聞いてきた。オーガってなんだっけ? 前に聞いた気が?
「オーガはここから奥にいる。お前たちでも二時間も歩けば着くだろう。ただしオーガの子もいる」
「ちっ、子持ちかよ」
すぐにピンとこなかった私の代わりにアルティさんが答えてくれたが、その言葉に冒険者たちは顔色が変わる。
「リーダー、オーガの子がいたらまずいの?」
おお、ちょうどよく私と同じ疑問を持った人が冒険者たちの仲間にもいたらしい。いい質問だ。
「いい加減勉強しろ。だから未だにお前はDランクなんだよ。子持ちのオーガはより一層狂暴なんだぞ。参ったな」
でも冒険者には常識らしい。叱りながら説明している。なるほど。子供がいれば魔物の親も狂暴になるのか。
「いっしょにごぶりんもいるよね?」
「うん。にじゅうひきくらい?」
ころころと草むらで転がって遊んでいた精霊様たちのうち、森と風の精霊様が何気ない様子で一緒にゴブリンもいると教えてくれたが、それも教えたほうがいいのかな?
「一緒にゴブリンもいるようですよ。どうぞお気を付けて」
「……坊主。それ本当か?」
「ええ。たぶん」
「リーダー。あたしらの手に負えないよ」
大変そうだし、アルティさんに視線を向けると教えても良さげな顔をしたので教えてあげたが、冒険者たちの顔色がより一層悪くなる。
「しかたねえ。お前はギルドに知らせろ。オレたちは偵察だけでもしてくる。こっちに来るようだとシャレにならなん」
オーガってどのくらい危険なんだろう。手助けしてもいいんだけど、知らない人と一緒に依頼を受けるのは危ないって聞くし、常識がないからアナスタシアさんたちにも止められている。
「坊主。サンキューな。こんど会ったらおごるぜ」
「またね。坊や」
「助かった。ありがとう」
「お気を付けて」
オーガの偵察に行った冒険者たちを見送ると周囲はまた静かになる。
「あの人たち大丈夫でしょうか?」
「無理をしなければ問題あるまい」
ちょっと心配になるが、彼らの仕事を奪っても問題なんだよね。アルティさんもあまり気にした様子はないからいいか。
「こーた。いっしょにたけとんぼ、とばそう!」
「ええ、いいですよ」
精霊様たちに至っては心配のしの字もない。先日暇そうにしていた精霊様たちのために作った、竹とんぼをみんなで飛ばして遊んでいる。
よくよく考えたら奇跡を起こす精霊様たちにはつまらないかなと作ってから思ったが、どういうわけか楽しそうによく遊んでいるんだ。
次はコマでも作ってみようかな。こういう昔ながらの遊び道具を作るのは得意なんだよね。
ちょうど薪にするために拾った木がまだある。材料として使えそうなものをいくつか持って帰ろうか。
喜んでくれるといいけどなぁ。
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