第71話・冒険者登録。保護者付き
「いち、にい、さん……」
気持ちのいい朝だ。精霊様たちとスレイプ君とホワイトフェンリルの仔たちと一緒に朝のラジオ体操をする。
あれから三日が過ぎた。この三日間は、みんなが心配するので念のため休養した。おかげで今は体調が万全だ。
昨日には侯爵様が帰ってきたが怒っていた。誰か知らないが宣戦布告と同じことをされたのだと言い、侯爵様は例のゴルバの財宝の一件を積極的に動くと宣言した。
「おはよう。コータ」
「おはようございます」
まだ夜が明けたばかりの時間にもかかわらず、マリアンヌさんが起きてきた。一緒に教会に祈りに行くのが最近の日課だ。
侯爵様は王都に使者を出していろいろ動いているが、私にはすることはない。ただ侯爵様のお屋敷に滞在する期間は延びそうな感じだけどね。
「コータ。今日はどうするの?」
「冒険者ギルドにでも登録してみようかなと。老後の資金も貯めたいですし」
教会でお祈りを済ませるとお屋敷で朝ご飯となる。その際にアナスタシアさんに今日の予定を聞かれた。
実は冒険者ギルドに登録しようと思っているんだよね。仕事に関してはポーションや薬を作って侯爵様に買いとってもらうことがあるんだけど、ここにしばらくお世話になるなら今のうちに今後の仕事のために冒険者ギルドに登録しようと思うんだ。
パリエットさんも冒険者ギルドの会員らしいし、周りで所属してないのは私だけなんだよね。
ゴブリン退治なんかは一番多い仕事の部類らしいが素材が魔石しかとれなくて、ギルドの褒賞金がないと採算がとれないらしい。
嫌になったらいつでも辞められるらしく依頼を強制することとかもないようで、私のような住所不定の人間が働くにはちょうどいいらしい。
ちなみにギルドは冒険者ギルド以外にも薬剤師ギルドや錬金ギルドなど、いろいろなギルドがあるらしいが、とりあえず稼ぐには冒険者ギルドがいいかなって。
ワルキューレの皆さんと一緒に仕事ができるしね。今までは私が手伝っても私の分の褒賞金が貰えてなかったからさ。
「あの、一人で大丈夫ですよ」
さあ出かけようとしたら、パリエットさんとアナスタシアさんが付いてくると言い出した。子供じゃないんだけどなぁ。
うん。拒否権はないらしい。ほかにも精霊様とスレイプ君とホワイトフェンリルのアルティさんと仔フェンリル君たちも来るらしいので、みんなでいくことになる。
「これはアナスタシア様、ようこそいらっしゃいました。本日のご用件はなんでございましょう」
ギルドは朝の混雑が終わった頃に来たので空いていた。
受付の綺麗なお姉さんがすぐにアナスタシアさんのところにご用件を聞きにきた。こうしてみるとやっぱりアナスタシアさんは貴族のお嬢様なんだよね。
ただお姉さんはアルティさんたちを見て驚いている。冒険者ギルドでもやっぱり珍しいんだろうね。
「この子を登録したいの」
「畏まりました。では別室にご案内いたします」
うん。明らかに特別扱いだね。ふかふかのソファーがある個室に案内されると、紅茶まで出てきたよ。
いろいろ説明してくれた。会員にはSからFまでのランクがあって、そのランクに合わせて褒賞金が決まったり受けられる依頼に違いがあるらしい。
ほかにはギルドの不備を訴える仕組みとかもいろいろ教わった。
なんというか派遣会社みたいな感じだね。
「精霊魔法使いであるコータさんは、ギルドランクがDランクから始められます。いかがしますか?」
「えーと、普通にFランクからでお願いします」
パリエットさんのランクはCランクらしい。あまり仕事は受けてないので上がってないと言っていた。アナスタシアさんはAランクだ。
職業やスキルによって初期ランクに違いがあるらしく、希少職業である精霊魔法使いは優遇されるらしい。ちなみに精霊使いは最初からCランクになるらしいが。厄介事も舞い込む可能性があるというので隠すことにした。
個人的に優遇は要らないなぁ。いろいろ知らないこと多すぎるし、常識がないとたまに怒られるほどだ。
ちなみに普通に登録すれば適性検査とか模擬試験があるらしいが、侯爵様の紹介状があるとパスできるみたい。アナスタシアさんが最初に渡していて驚かれた。
力加減がまだ下手なんで、模擬試験とかするのは危ないからと侯爵様が紹介状を書いてくれたんだ。
「あとこのふたりもワルキューレの所属になるから、そちらの手続きもお願い」
「はい。少々お待ちください」
手続きは簡単な書類にサインをして終わりだ。続けてパリエットさんと私がワルキューレの所属するクランに参加する手続きをすることになる。
これはさっき話した時に決めたことだ。ひとりでもいいが、クランに所属するとギルドの扱いも変わるそうだ。パリエットさんも加わるというから私もお願いした。
でもワルキューレって女性だけのクランだったような。まあ反対意見がなかったからいいんだろうか。
「久しぶりに森に来ると気持ちがいいですね」
そのまま私たちは近くの森に来ていた。最近は町に籠りっぱなしだったので、ちょっと散歩とギルドの依頼をこなすために来たんだ。
受けた依頼は薬草採取。私も薬を作る材料が欲しかったので一石二鳥だからね。
侯爵様の依頼は原料を用意してくれるが、いつ旅を再開してもいいように薬のストックは増やしておきたい。
森の浅いところは地元の駆け出しの冒険者たちが利用するというので、私たちは奥へと入っていく。
精霊様たちが楽しげに薬草や食べられる木の実を持ってきてくれるので、回収するのがお仕事です。なんか簡単すぎて悪い気もするけど、精霊使いはこんなものらしい。ただし私の場合は連れている精霊様の数が違うので、回収だけで十分になってしまうが。
「にんげんさんがいる!」
「冒険者さんかな? まさか盗賊?」
しばらく森の奥で採取をしていると精霊様たちが人の存在に気付いたらしい。アナスタシアさんいわく森の奥に来るのは冒険者か盗賊くらいだというので、警戒して様子を見に行く。
精霊様たちは悪い人じゃないというが、価値観が違うので一応確認のために。
「……」
非常に気まずい。見に来なきゃよかった。
「なにしてるの?」
「こうびだよ。にんげんさんは、ああやってこうびするんだ」
精霊様たちは特に気まずさはないらしい。
夢中なのか気付かれてないので、そっとその場を離れる。若いカップルさんだった。周りが見えないほど愛し合うのは危ないと思うんだけどな。
「よくあること」
「そうね。若いと普通はね」
パリエットさんとアナスタシアさんは、意外に気まずさは感じてないらしい。特によくあることと語る冷静なパリエットさんは私より大人っぽい。
でもなんでふたりは私を見てため息をついたんですか? 失礼ですよ。確かにポンコツ爺と前世では言われてましたが。
「敵だぞ」
「やっちゃえ!」
「ヒヒーン!!」
おっ、今度は敵だ。オークが二匹。気を取り直して戦闘だ。強敵……のはずなんだけど、仔フェンリル君とスレイプ君が瞬殺しちゃった。軽い運動をしたという感じで満足げな様子だ。
結局私たちは血抜きをして持って帰るだけだね。ちなみにオークの肉も食べられるらしいが、これも臭みがあってあまり美味しくないらしい。
これは美味しくなる調理法を見つけろという試練だろうか?
「コータ。あなたやる気になるポイントが人と違うわね」
「そうですか? どうせ食べるなら美味しく食べたいじゃないですか」
どうやって調理しようと考えていると、アナスタシアさんに不思議そうな顔をされた。
解せぬ。
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