第57話・意外な再会
正妻さんが来たことで、アナスタシアさんのお父さんと正妻さんは改めて畏まった様子で大精霊様に深々と頭を下げた。うん。神様クラスの扱いが普通らしい。
でも肝心の大精霊様たちは仔フェンリル君とスレイプ君と戯れてほのぼのとしている。
「今の私たちは世を忍ぶ仮の姿。どうぞ頭をお上げください」
「そうね。仰々しい扱いは嫌だわ」
「はっ、ではそのように……」
大精霊様たちはそんな扱いに少し面倒くさそうな顔をした。女神様といい精霊様たちといい、堅苦しいのとか好きじゃないんだろうなぁ。
ワルキューレのみんなは慣れたらしく普通にしている。パリエットさんはまだ少し緊張するらしいが。
「これが盗賊の財宝か、あちこちが動くわけだな」
挨拶がひと段落したことで侯爵家の応接間でゴルバの財宝をアイテム袋から財宝を出して侯爵様と正妻さんに見せていく。
その品々に侯爵様たちも驚くが、少し気になることを口にした。
「お父様、やはり動いていますか?」
「ああ、お前の迎えに兵を出そうかと思ったほどだ。エルフ殿と幻獣殿がいるというので自重したがな」
親ばかっぽい侯爵様だが真面目な話の時は大丈夫みたいだ。出来る男みたいでかっこいい。
それにしてもどうしてこうお金や財宝は欲深い人たちの目を曇らせるんだろうな。怖いね。
「とりあえず鑑定させる。そのあとリストを作るから、欲しいものを選ぶといい。換金は任せろ。元の持ち主がいれば礼金もたっぷり取ってやるぞ」
侯爵様に財宝の後始末を頼んだし、今回の目的は終わりだ。
この後どうするんだろう。換金が終わるまで、ここでお世話になるのかな。どっか近隣にキャンプに行ったらダメかな?
うん。なんとなく止められるね。私だってそろそろ学習してきたよ。
「さて、仕事は終わったし、コータ勝負だ!! 私はこれでも若いころは冒険者をしていたんだ。家督を継がなければ、もう少しでSランクまで行けたんだぞ!」
結局私は出された高そうな紅茶でまったりしつつ精霊様たちと遊んでいたが、一通り話が終わった侯爵様がまた困ったことを言いだした。
そもそも私は勝負なんてしたことがない。忘れてください。
「アナタ。こんな若い子に無茶なことを言うものではありません」
「だがな、こいつはアナスタシアの……」
「いいではありませんか。私もこんな可愛らしい息子が欲しかったのです」
「アドリエンヌ! お前もか!!」
なんか雲行きが怪しいな。やっぱり私は町の宿屋にでも……。駄目だ、精霊様たちでさえ御馳走を楽しみにして動く気がない。
しかし、いい歳をした老人だから可愛らしいと言われても全然嬉しくないなぁ。
「わーい、お客さんなの!」
「大精霊様がいるの!」
「どこから来たの?」
なんとなく居心地がよくないなと感じつつ大人しくしていると、どこからともなく見知らぬ五体の精霊様たちがやって来た。
うん? 言葉の発音が少し私と一緒の精霊様たちよりしっかりしている。ちょっと大人の精霊様たちなんだろうか?
「私はここから少し離れた森よ」
「私は海ね」
「ぼくたちはこーたとたびをしてるんだよ」
大精霊様と精霊様たちは、新しく姿を見せた精霊様たちと楽しげに挨拶している。ただ、よくある光景ではある。旅をしているとその土地の精霊様たちと出会い、一緒に食事をしたり遊んだりしながら旅をしているからね。
「本当にぼくたちの声が聞こえているの?」
「ええ、聞こえていますよ。初めまして、コータと申します」
「すごいの。こんな人間さん初めてなの」
「キャリーも聞こえないのに……」
精霊様たちと挨拶を済ませた見知らぬ精霊様たちは私に興味を持ったようで、興味津々な様子で話しかけてきた。
話かけられたので当然答えたが、その反応に驚かれた。でもキャリーさんとは誰だろう?
「おお、キャリー。来たか。大精霊殿がおいでだぞ」
まるで珍獣を見るかのように瞳を輝かせて私を見ている精霊様たちだが、部屋の扉が開くと入ってきた大人のエルフさんの下に駆けていく。
パリエットさんと同じ緑の髪をしているが、見た目は二十歳くらいの大人だろうか。ただ年齢はわからない。エルフ族には年齢は秘密にする仕来りがあるとかでパリエットさんも教えてくれないんだ。
パリエットさんと一緒の精霊様たちが言うには人間とは歳の取り方が違うらしく、見た目通りではないらしいが。もっとも精霊様たちに年月という概念はない。
ずっと一緒だとか、たくさん昼と夜を共にしたとかそんな感じだが。
「久しぶり」
「久しぶり、お姉ちゃん」
うん? 今なんて言った? 侯爵様が紹介するように呼ぶと部屋に入ってきた大人のエルフさんだが、パリエットさんと目を合わせると淡々とした表情で挨拶を交わしたんだけど。
「……キャリーよ。お前の妹なのか?」
「うん。妹」
侯爵様も驚いている。もちろんアナスタシアさんも。
「初めまして、私はアルーサの森のエルフ。キャリー」
ただ当の本人は驚くこともなく淡々と私たちに挨拶をしてくれた。
「ようこそ大精霊様、なんなりと申しつけください」
そして仔フェンリル君たちとスレイプ君と遊んでいた大精霊様たちの前に跪くと、まるで映画のように片膝をついてまるで臣下のように振舞っている。
「みんながね。ここのお城を見物したいんだって。あとで案内してくれる?」
「喜んで」
森の大精霊様は大人のエルフであるキャリーさんにお城の案内を頼んでいた。さっきから諦めずに探検に行きたいって騒いでいる精霊様が何人かいるんだよね。
「キャリー様、ただいま戻りました」
「うん。元気そうでなにより」
そのままキャリーさんはアナスタシアさんと再会の挨拶をしている。
ちょっと待てよ。アナスタシアさんのこの対応は……。もしかしてこの大人の美人エルフさんも侯爵様の奥さんのひとりか? そういえばアナスタシアさんのお母さんと正妻さんという複数の奥さんがいるなら……。
「……この子はアナスタシアさんのお婿さん?」
「残念ながら。片思いというところでしょうか」
少し考え込んでいたら、いつの間にかキャリーさんが私の前に来ていた。
まるで何かを見通すような澄んだ瞳をして見つめてくる。というかアナスタシアさん、また侯爵様が睨んでいますからそういう冗談はやめてください。
「私がもらっていい?」
「ダメです」
ちょっとどうしていいかわからず戸惑っていると、この人も真顔で冗談を返すとは。なかなかやるな。
アナスタシアさんとパリエットさんが揃って即座に否定しているのが面白い。キャリーさんはそんなふたりに少し残念そうにしてみせつつ笑みを見せた。
「ところでキャリー。お前の妹なのか?」
「そう。私は十二人姉妹の三女でパリエットは末っ子」
「そうか。妹か。なんとも奇縁だな」
一方侯爵様は私を軽く睨みつつ、キャリーさんとお話ししている。侯爵様にとってもパリエットさんは義理の妹になるのか。
「そういえばパリエットさん、お姉さんが侯爵様のところにいるなら教えてくれたらよかったのに」
「そうね。まさかキャリー様の妹だったなんて」
睨む侯爵様から視線を逸らすように私はパリエットさんに声を掛けると、アナスタシアさんも驚いた様子でキャリーさんのことを先に話してくれたらと笑っている。
「私も初めて知った。キャリーお姉ちゃんが冒険者になると里を出て以降は会ったのも初めて」
「えっ? 結婚する時に会わなかったんですか?」
「私は会ってない」
ただ、どうもパリエットさんも知らなかったらしい。
キャリーさんの結婚式には両親は参加したらしいが、パリエットさんはエルフの里の掟で出られず相手が誰かも知らなかったんだって。
人間が相手で強い人間だとか聞いていたらしいが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます