第54話・綺麗な……
西の空がオレンジ色に染まる頃。野営地では夕食の時間となっていた。
炊き出し用の大きな鍋に作ったカレーは何人前あるんだろう。精霊様たちも結構食べるしね。餓狼野郎さんたちもさっきからベスタさんが一緒にお酒を飲んでいる。彼らにもおすそ分けが必要だろう。
見た目は凶悪そうなのに中身は普通の冒険者よりいい人らしい。精霊様たちがいい人だって言うくらいだからね。
「うむ、いつもすまぬな」
「いいんですよ。この前のお礼です」
せっかくなんでホワイトフェンリルのアルティさんと仔狼たちも呼んだ。みんなで宴会だ。少年少女たちはターニャちゃん以外が目を丸くしているね。
「くーん?」
「クンクン?」
仔狼たちは小さくなったスレイプ君に誰だ誰だと興味津々で、一緒にいたターニャちゃんが仔狼たちに瞳を輝かせている。ほんとに動物好きだね。
「なんだこりゃ?」
「カレーという料理ですよ。よかったらどうぞ」
ワルキューレのみんなに手伝ってもらい、カレーだ、カレーだと喜ぶ精霊様たちとワルキューレのメンバーや少年少女たちに餓狼野郎さんたちに配っていく。
少年少女たちと餓狼野郎さんたちは見た目の色からかギョッとした顔をしているが、嬉しそうなワルキューレのみんなや大精霊様の姿に美味いものなのかと興味を持ったみたい。
「ビッグクラブが入っているな。いいのか?」
「ええ。どうぞ」
今日はシーフードカレーだ。ワイバーンの肉は普通にから揚げにした。どうせみんなお酒飲むんだろうしね。つまみにいいだろう。
「うふふ。シルヴァちゃんの言った通りね」
「でしょう?」
あれ、いつの間にか森の大精霊様がいる。今日は一応人間に擬装しているみたいだけど。当たり前のように海の大精霊様と並んでカレーを食べているよ。
「なあ、坊主。あの人いつからいたんだ?」
「えーと、さっき皆さんがビッグクラブに驚いていた時ですかね」
「そうだったか?」
「まあ、いいじゃねえか。怪しい気配はないし美人だしよ」
餓狼野郎さんたちは突然現れた森の大精霊様に気付いたみたいだけど、深く追及しないでくれた。
少年少女たち? 彼らはカレーに夢中で気付いてないよ。
召喚契約って呼んでなくても来るんだ。女神様みたいに来る前にメールしてほしいなぁ。ワルキューレのみんなが少し困った表情を見せているし、パリエットさんは信じられないと言いたげな顔をしてこちらを見ている。
そういえばパリエットさんに言ってなかったっけ? 大精霊様と契約したこと。後で怒られそうだなぁ。
「こーた。おいしいの」
「びっぐくらぶかれーだ!」
精霊様たちは口の周りにカレーを付けている精霊様もいる。私は食べながら彼らの口を拭いてあげたりと忙しい。
具はビッグクラブとイカとホタテだ。イカとホタテは今朝買ったものを使った。東南アジアのカレーを意識して、ちょっとスパイシーなカレールーを使ったけど正解だったみたい。シーフードのダシが出ていて絶品だ。
でもカニのカレーなんて贅沢なカレーだなぁ。辛いのが苦手な人のために辛さは抑えたけど、まるでお店のようなカレーだと思う。
ああ、ご飯とよく合う。
早く食べないとみんながお代わりを要求して食べる時間が無くなる。
それにしても肝心のビッグクラブは、日本で食べたカニより味が濃くて美味しいかも。ただ、私はそんな高価なカニを食べたことないから絶対とは言えないけど。
キャンプスキルでもカニは買えるんだよね。今度味くらべでもしたら面白いかも。
「凄いですね。このお酒」
「そうだろ? 体がカアっと熱くなるだろ? 北方ではこれで凍えるような寒さを耐えるんだ」
大量に作ったカレーが、また余らなかった。幸い女神様への差し入れの分は最初に確保してある。貢物ではないけど、お仕事大変そうだしあとで温めなおして食べてほしい。
食後はみんなで後片付けをすると、餓狼野郎さんたちからもらった火酒というお酒を飲ませてもらうが、これウオッカじゃないかな。
前世の若い頃に一度だけ飲んだことがある。元々お酒はほとんど飲まないから自信はないけど。
つまみと出したワイバーンのから揚げは喜んでくれた。まさかワイバーンだと思わなかったらしく驚いていたが。
見上げると星が綺麗だ。
「お前さん、珍しいな。オレたちこんな容姿だから、若い奴は大抵怖がって近寄ってこねえのによ。あいつらみたいにな」
「確かに。顔で損したことはあっても得したことねえな」
精霊様たちにも火酒をちょっとずつあげながら餓狼野郎さんたちと話していると、ふたりは少し落ち込むようにため息をこぼして、私が珍しいと口にした。
それは激しく同意する。人は決して平等ではないからね。
正直、餓狼野郎さんたちは見た目が私でも怖い。
少年少女たちは今でも怖いのか、あまり関わらないようにしている。ワルキューレのみんなとパリエットさんは普段と変わらないけど。
「ふふん。コータは精霊使いなのよ! そんじょそこらの男とは違うわ!!」
あのソフィアさん、あまりそれは大声で言いふらさないほうがいいことでは?
「精霊使いか。エルフ以外で初めて見たぜ」
「そういえばエルフも俺たちを怖がらねえな」
ふたりの表情が驚きに変わった。やっぱりそんな感じなんだね。相当珍しいらしい。
「あなたたちは精霊に好かれている。エルフはそんな人間を怖がったりしない」
話がエルフに及んだことで黙々とから揚げを食べていたパリエットさんが口を開いたが、実はそうなんだ。精霊様たちが彼らを気に入って側で騒いでいる。
無論彼らには見えないらしいが。
一方の少年少女たちは嫌っているわけではないが、あまり興味を示さないんだ。
「精霊か」
「そういや、何度か危ないところを、奇跡みてえに不思議な光が助けてくれたことあったな」
「それは精霊が、あなたたちを助けたのかもしれない」
精霊と聞いた餓狼野郎さんたちは、ふと以前に経験した不思議な体験を教えてくれた。
若い頃から容姿のせいで仲間に恵まれずふたりで行動していたらしいが、何度か危ないところを不思議な光によって窮地を脱したとのこと。
パリエットさんがそれは精霊が助けたんだと確信をもって口にした。
精霊の陣だろうか? ウチの精霊様も放っておくと踊ってよく奇跡を起こすし。今は奇跡を起こさないように頼んでいるから遊んでいるだけだけど。
「あなたたち、以前に精霊を助けたんじゃない?」
「えっ、そんなことはねえが……」
ここで唐突に話に入ってきたのは森の大精霊様だ。なにか知っていそうだな。
「森の木々を火事から救ったとか、していない?」
「……昔そんなこともあったな。森を焼いた馬鹿盗賊がいてな。立派な木が焼けそうだったんだ。なんか見捨てられなくてな」
「それが原因ね。精霊は心ある者の味方よ。そして受けた恩はどこに行っても仲間の精霊が返すわ」
なるほど。餓狼野郎さんたちは過去に精霊様を助けていたのか。
精霊様の加護とか持ってそう。
「困ったらエルフの里に行くといい。精霊の友はエルフの友。かならず力になってくれる」
うん。ウチの精霊様たちが餓狼野郎さんたちを友達だと認識しているみたい。
周りで遊びながら困ったら助けるから任せてと胸を張っている。
あいにくとパリエットさんにもそんな精霊様たちの声が聞こえないらしいが、パリエットさんは感じることができたようだ。
エルフの里か。いつか行ってみたいな。
たくさん精霊様たちがいるんだろうか?
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