第50話・コータ、誤解されたと苦悩する。
たまには異世界の料理もいいね。
海鮮をふんだんに使っていたし、香辛料とかも使われていて美味しかった。
食後はワルキューレのみんなが過去にこなした依頼の話となった。
ダンジョンという場所での探索や、たくさんの冒険者と協力して亜竜を倒したことなど話は尽きない。
ゲル君たちは瞳を輝かせて聞いている。なんというか未来に希望ある子供たちは見ていて眩しく感じる。私にもそんな時期があったなぁ。
大人になるときっといいことがある。努力したら報われると信じていたっけ。
「コータ、器用ね」
私は先ほどから、そんな話を聞きながら繕い物をしている。
ソフィアさんの靴下に穴が開いていて、困っていたんでやってあげているんだ。この世界では靴下も簡単には捨てない。布が結構貴重らしい。
町には繕い物をしてくれるお店なんかがあるらしいが、今は旅の途中だからね。私は独り暮らしが長いのでこのくらいは出来る。
「こーた、ぼくたちのふくもつくって!」
「こーたのふくがきたい」
チクチクと穴を塞いで繕い物を終えると、精霊様たちが瞳を輝かせて新しいお願いをしてくる。
「いいですけど、精霊様の服は普通の布じゃないですよね?」
作ってあげたいのは山々だが、精霊様の服は普通の人間には見えもしないし触れもしない布だ。
普通の布で作ると、服だけが歩いているように見えるという幽霊のような姿になる気が……。
「はーい、れんきんじゅつでつくれるよ!」
困っていると錬金の精霊様が元気よく自分の出番だと教えてくれる。でもそのまま知識の精霊様が教えてくれた必要な素材に、アナスタシアさんたちが頭を抱えている。
「それ全部手に入れるの大変よ。自分で探して取ってくるしかないけど……」
「エルフの里にもないものばかり」
どうも貴重な素材ばかりらしくてお金じゃ買えないものらしい。パリエットさんいわくエルフでも持ってない素材ばっかりなんだとか。
なかなか手に入らないと知った精霊様たちは、残念そうに落ち込んでしまった。
うーん。女神様に相談しようか。
どこで手に入るかだけでもわかれば、私でもなんとかなるかも。この旅が終わってひとりになったら、精霊様たちの服を作る旅に出るのもいいかもね。
夜も更けるとみんな寝室で休むことになった。
私は精霊様たちとスレイプ君と一緒に就寝だ。ターニャちゃんがスレイプ君と一緒に寝たいようだったが、スレイプ君は私を選んでくれた。
悲しそうな少女に困った顔のスレイプ君が印象的だったね。
そのままみんなでベッドに横になって窓から見える月を眺めていると、ふと前世のことを思い出してしまう。
寒い冬の日、冷たい布団に入って寝ようとするが、寒くて眠れない日がよくあった。
聞こえるのは時を刻む時計の音と、外を走る車の音だけだったな。
子供や孫に囲まれて幸せそうな人を見ると羨ましかった。多くを望んだわけではない。
ただ、共に生きて父や母から受け継いだ血を後世に残したかっただけなんだ。
そのまま私は精霊様たちとスレイプ君の温もりで少しウトウトしていたが、精霊様たちとスレイプ君のほうが先に眠ってしまったらしい。
あれ? 精霊様たちって寝ないんじゃなかったけ? 完全に寝ているように見えるんだけど。
まあいいか。
いい夢が見られるといいな。
朝だ。窓から差し込む朝の陽射しに目が覚めた。朝の日課は精霊様たちとスレイプ君と一緒のラジオ体操だ。
女神様がラジオをくれたので、今ではラジオに合わせてラジオ体操が出来る。でもスレイプ君には出来ない動きが多い。お願いだから無理に真似しようとしないで。見ていてハラハラするよ。
ラジオ体操をした後はマリアンヌさんと一緒に教会にお祈りにいく。
最初の時はお祈りをしたら女神様のところに行ったけど、あれ以来そんなこともなく普通にお祈りして終わりだ。
女神様も忙しいらしい。
「ちょっと魚を買いたいんですが」
「いいわよ。付き合うわ」
教会の帰りに朝早くから露天市を開いている場所を見つけたので、マリアンヌさんと一緒に寄り道する。
なんかお姉ちゃんと弟みたいな感じかな? 完全にひとりにしたら危ないと思われている。確かにこの世界の常識には疎いけどさ。そんな問題は起こさないのに。
「いろいろありますね。おっ、イカだ。あっちはなんだろう。サバか」
昨日の夕食でも見たが、魚の種類はそこまで違いはない。多少違う模様だったりはするが、名前も味も同じだ。
ただ、この前の電気ウナギ君のように魔物の魚になると違うらしいけどね。
「おう、らっしゃい。坊主、いい彼女連れてるな。これなんか精がついていいぞ」
「彼女なんて……。お世話になっているだけですよ。でもこの牡蠣はいいですね。ここにあるもの全部ください」
朝から結構な人で賑わっているせいか、いつの間にかマリアンヌさんが迷子にならないようにと手を繋いでいたので、魚を売っていたおじさんにからかわれてしまった。
「全部!? 坊主、金は大丈夫か?」
「はい。ちょっと臨時収入があったので。その代わり、そこの宿屋に届けてくれませんか?」
マリアンヌさんは顔を真っ赤にして手を放してしまったが、私はこのくらいのことで動揺する歳じゃない。
みんなよく食べるから牡蠣は多めに買っておこう。
「おおっ、任せとけ。だけど坊主、もしかしてどっかの貴族様か?」
「いえ、私はただの旅人ですよ」
この世界の人はなにかと誤解するよね。最初はエルフと間違えられたし、今度は貴族様に間違われるのか。
まあいい。魚貝類をたくさん買っておこう。今日のお昼は海鮮バーベキューかな。
「あら、コータとマリアンヌ」
そのまま魚貝類を大人買いしていると、アナスタシアさんとばったりと出くわす。彼女は昨日見つけた少年少女たちを騙した冒険者の死亡の届け出をしてきたみたい。
せっかくなんで一緒に買い物に同行することになった。
「坊主、お前……」
「あっ、おじさん。さっきはどうも」
しばらくあれこれと買って宿屋に運んでもらうように頼んでいると、牡蠣を売っていたおじさんと再会した。
だけどおじさんの様子がちょっとおかしい。マリアンヌさんとアナスタシアさんを見たあとに私を見ると、羨ましそうに見ている。
「坊主。お前凄かったんだな」
「なんのことですか?」
「聞いたぜ。その年で六人も彼女がいるんだって? しかもエルフや侯爵様のお嬢様まで……」
「???」
なんか急によそよそしくなったおじさんは、とんでもないことを言いだした。
ちょっと待って、いろいろと誤解がある。
「ゲルとかいう生意気そうなガキが言ってたぜ。坊主は凄いモテモテなんだって」
おお、ゲル君。君はなんてことを。
「誤解ですよ。お世話になっているだけなので」
「誤解……? じゃねえだろう。どう見ても」
おじさん。なんでそんなことを? しかもアナスタシアさんとマリアンヌさんを見て誤解じゃないってどういうこと? ああ、アナスタシアさんとマリアンヌさんも否定してよ。ここはアナスタシアさんの実家の領地なんでしょう?
駄目だよ。そんな根も葉もない噂は。
「コータ。いくわよ」
「そうね。いきましょう」
ちょっと? アナスタシアさんもマリアンヌさんも否定することもなく、笑顔でおじさんに会釈して話を終えちゃった。
噂って怖いんだよ。私は前世で根も葉もない噂で苦労したからわかるんだ。
精霊様。助けて!
「コータ、おなかすいた!」
「ごはんまだ?」
ああ、精霊様に噂の危険性は理解出来ないのか。
仕方ない。一旦宿屋に帰って、あとでおじさんに事情を説明しに行こうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます