第47話・ギャップ

 結局少年少女たちのことは手ごろな町まで送っていくことになった。


 冒険者ギルドにもいろいろあるらしい。あまり大きい町だと冒険者ギルドも人が多いので新人をいちいち気にかけないんだそうだ。


 その点フルーラの町は町の規模も手ごろで、ギルドマスターがしっかりしているので新人から中堅までが働きやすいんだそうだ。


「この人たちです!!」


 旅は道連れ世は情けということで少年少女たちと一緒に旅を再開したが、しばらく進むと精霊様たちが血の匂いを感じて現場に来てみると、そこでは意外な再会があった。


「この傷はウルフだね」


 少年少女たちを騙していたと思われる冒険者たちのご遺体だ。


 もっとも魔物のご飯になったようでスプラッターなご遺体だったが、装備や頭部が識別出来るものがいくつもある。


 どうも逃げた先でウルフの集団に囲まれて全滅したらしい。


「ざまあみろ!」


「死んで当然よ!!」


 ゲル君とマリーちゃんが彼らのご遺体を前に怒りを爆発させているが、マリアンヌさんはご遺体を集めると祈りを捧げている。


 さすがにもとシスターだ。マリーちゃんも見習い僧侶らしいが、許せないようで祈る気はないらしい。


 そうそう、神官とシスターは教会の役職なんだそうだが、僧侶はそれ以外の回復魔法が使える民間の職業らしい。


 マリアンヌさんも今は僧侶にあたるんだって。


 ご遺体は放置でもいいが、魔物が寄ってきたりアンデッド化したりするみたい。


「埋めてあげましょう」


 マリアンヌさんが埋めてやりたいというので、キャンプ用スコップで穴を掘る手伝いをするか。


「まかせて!」


「あっ……」


 さあ、穴を掘るぞと意気込んでみたものの、土の精霊様が張り切って協力してくれた。


 クルクルと回りながら踊ると、大きな穴が一瞬で空いた。


 助かるんだけど、穴を埋める土がないよ? 穴の分の土はどこにいったんだろう。


 結局私とワルキューレのみんなでご遺体を穴に入れると、周囲から土を削って埋めていくことになった。


 土の精霊様? 精霊様は一仕事を終えたと満足げで喜んでいるよ。まだ、未熟なんだろうね。




 少年少女たちが拠点としていた町に到着したのは、夕方になった頃だった。


 結構大きい町だ。フルーラの町よりも大きい。海沿いの主要な街道沿いにあって、サウスランド侯爵領でも発展した町だそうだ。


 スレイプ君はどこに行っても目立つね。本人は精霊様たちと物珍しげに町を見ながら歩いている。


「すげぇ……」


「ここ入ったことないわ」


 今日の宿屋は、少年少女たちがあまりの驚きに委縮するほどの立派な宿屋だった。


 町でも一二を争うほどの宿屋で、入り口は兵士の人が固めている。


「あの、私はもっと普通のところでいいので……」


「私たちも……」


 うん。少年少女たちばかりではない。私もこんな宿屋はちょっと落ち着かない。前世でもこんな高級そうなところは行ったことないんだ。


 どうせ明日には出発するんだ。私はもっと普通の宿屋でいい。


 明日の朝待ち合わせすればいいし、どっか別の宿屋に行こうと言おうとしたら少年少女たちが全力で頷いて同意している。


 お金が心配なんだろうなぁ。なんとなくわかる。


「心配しなくても宿代は出すわよ」


「マジ!? ラッキー!」


「……いいんですか?」


 別の宿屋を探そうとしていた私と少年少女たちだが、少年少女たちはアナスタシアさんが宿代を出してくれるというと一変する。


 特にゲル君の変わり身は早かった。マリーちゃんもほかの子たちも素直に喜んでいる。


「じゃあ、私は明日の朝に来ますから……」


 仕方ない。私だけで別の宿を探すか。


「駄目。アナタひとりにすると、また問題を起こす」


 あれ? 私に選択の自由は? パリエットさんに駄目と言われた私は、半強制的に高級宿屋の中に連行されて行く。お金もったいなくない?


「あのお客様。スレイプニルの従魔はさすがになかには……」


「あら、ごめんなさいね」


 ただ、ここでひとつの問題が起きた。


 スレイプ君が一緒に豪邸のような宿屋に入ろうとしたんだ。どうやら自分も中に入りたいらしい。


 フルーラの町ではワルキューレの拠点の庭で自由にしているからなぁ。スレイプ君、馬小屋はあんまり好きではないんだ。


「……」


 自分だけ仲間外れにされると感じて、ウルウルと悲しそうな目で見つめてくるスレイプ君にアナスタシアさんも宿屋のメイドさんも困り顔だ。


「ぼくたちのでばんなの!」


「まかせて!」


 どうしようかと相談するワルキューレのみんなだが、ここで動いたのは精霊様たちだった。


 久々に全員で配置につくと踊りだす。私の魔法力もいくらか使うみたい。でも何をする気なんだろう?


 パリエットさんだけはなにかを感じたらしく不安げにしているが、そんなパリエットさんが止める間もなくスレイプ君がスルスルと縮んでいくではないか。


ポカーンとする一同を前に、子犬サイズまで縮んだスレイプ君はこれならどうだといわんばかりに精霊様たちと一緒にパカパカと宿屋の中に歩いていく。


「……あれでどうかしら?」


「はっ、はい。結構でございます」


 一瞬またかという表情を見せたアナスタシアさんだが、努めて平静を装い宿屋のメイドさんに許可をもらうと結局みんなでスレイプ君に続く。


 少年少女たちやメイドさんには精霊様たちは当然見えないので、スレイプ君が自分で縮んだように見えたんだろう。


 ワルキューレのみんなとパリエットさんは精霊様たちの仕業だと理解するが、騒ぎになるので黙っているみたいだね。


「ひろいおへやなの!」


「ふかふか~」


「きんぴかだね」


 今晩泊る部屋は豪邸のような宿屋の三階を貸し切る形にしたらしい。広いリビングに寝室は五つ。お風呂は三つもある。


 一番喜んでいるのはスレイプ君と精霊様たちだ。どうもウチの精霊様たちは町が珍しいみたいなんだよね。


「こんな贅沢していいんですか?」


 精霊様たちが喜んでいるので入ってよかったと思うものの、少し疑問も。ここまではどちらかと言えば町や村に寄らずにキャンプをしながら旅をしていたんだ。


 それがどうして急にこんな高級な宿屋に?


「ここは父の領地なのよ。町では侯爵家の一員として恥ずかしくない振舞いが必要なの。コータのおかげでここまでは野営のほうが快適だし寄らなかったけどね」


 なるほど。あえて町や村を避けていたんだけど、そんな理由があったのか。


 この町に寄った理由は、少年少女たちを騙した冒険者たちの死亡を伝えるためだ。ギルドカードと装備は回収していて、あとでアナスタシアさんが届けに行くんだそうだ。


 そういえばなんで実家の領地から離れた町で活動しているのかと思ったけど、実家の領地だと逆にやりにくい部分があるんだろうね。


「コータ。お風呂入るよ! ここのお風呂は広いから気持ちいいよ~」


「えっ!? 一緒に入っているんですか!」


 まあ、数日ぶりに町に来たんだ。洗濯とかやることはある。私は早速洗濯をしようと思うが、ソフィアさんに捕まってしまった。


 だがそこで信じられないといわんばかりの表情をしたのは少年少女たちだった。マリーちゃんとターニャちゃんは顔を真っ赤にしているし、ゲル君とバーツ君は羨ましそうに眺めている。


「うふふ、ワルキューレはコータのハーレムなのさ!」


「ええっ!!」


「冗談だけど」


 うん。ソフィアさん、未来ある子供たちをからかって遊ぶのは、やめてあげてほしい。


「さあ、いくよ。マリーちゃんとターニャちゃんは一緒でもいいよ。ゲル君たちはダ~メ」


 いや、私は洗濯が……。


 ゲル君とバーツ君。そんなに恨めしそうに見ないで。君たちが期待するような事態は、なにもないから。



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