第44話・コータ、怒られる
「で、なにがあったの?」
「ああ、この人たちがその子に乱暴をしようしていたんですよ。レッドなんとかってAランクの人だとか……」
クズの酔っ払いを無視してアナスタシアさんに事情を聞かれたので答えたが、名前なんだっけ? レッド……?
「Aランクでレッドといえば、レッドサーペントかしら?」
「そうだ! 俺たちはレッドサーペントだぞ。お前らタダじゃすまないからな!!」
あれ、まだいたのかクズの仲間。腰が引けていて今にも逃げ出しそうな、時代劇の三下っぽい奴が騒ぎ出した。
「レッドサーペントにこんなチンピラはいない」
「そうね。レッドサーペントとは、私たちも何度か一緒に依頼を受けたことがあるわ。リーダーのバルドは龍人で立派な人よ。あなたたちのようなチンピラを許すとは思えないんだけど?」
なんとなく感じていたが、Aランクというのは嘘だったのか?
パリエットさんもアナスタシアさんも、レッドサーペントという人たちを知っているみたい。
ふたりの言葉に酒場の怯えていたような雰囲気が一気に変わった。見て見ぬふりをしていた人たちが三下に疑念の視線を向けている。
「嘘じゃねえ! それに俺たちはワルキューレのアナスタシアとも親しいんだぞ!!」
「ぷっ」
「ハハハッ!」
「わはははは……」
「なにがおかしい!!」
うん。語るに落ちたとはこのことだね、三下からアナスタシアさんの名前が出たらパリエットさんや周りの人たちが噴出してしまった。
「私はあなたたちなんか知らないわよ」
「???」
もう話すだけ無駄だなとアナスタシアさんが呆れている。ただ、相手はまだ事情を掴めていないらしい。
周りのみなさんはアナスタシアさんの顔を知っているんだろう。ワルキューレではこの辺りも時々来ると言っていたしね。
「親しい人の顔も忘れるなんて、失礼じゃないかしら?」
「まさか……」
「初めまして。クラン・ワルキューレのアナスタシアよ。ついでに教えておくとコータはウチの子よ。それも知らなかったのかしら?」
三下くんも、さすがにアナスタシアさんが目の前にいるとは思わなかったんだろうな。腰が抜けたように座り込むと後ずさりしていく。
「誰か近くのギルドまで知らせを出して。ランク詐欺は重罪よ。しかもよりにもよって、レッドサーペントの名を騙るなんて。余罪次第ではバルドに殺されるわね」
アナスタシアさんはそんな三下を逃がすつもりはないらしく、細身の剣を抜くと三下の首筋に突き付けた。
そのまま自称レッドサーペントのクズたちは身ぐるみはがされたうえ、ぐるぐる巻きに縄で縛られて村の人に運ばれていった。
だけど治療しなくてよかったんだろうか。顔が変わっちゃったんだけど。
「お騒がせしてごめんなさいね。皆さんの食事代とお酒の代金は私に回して。お詫びに奢りますわ」
「……いえ、そんなこと出来ません! 娘を助けていただき本当にありがとうございました!!」
そのままアナスタシアさんは宿屋の主人にお騒がせしたことを謝罪しているが……。もしかして私がやり過ぎたということか?
ただ固まっていた宿屋の夫婦はそこでようやく我に返って、アナスタシアさんと私に何度もお礼を言ってくれた。
「コータ君、助けてくれてありがとう!」
「いいんだよ。子供を助けるのは大人の義務だ」
うん。女の子もケガとかないね。よかった。笑顔でありがとうと言われると気持ちがいい。
「……同い年くらいだよね?」
「……うん」
いかん。つい昔の感覚で答えてしまったら不思議そうな顔をされた。
うん。こういう時は笑って誤魔化そう。
「ふう、一件落着だね。さあ、薬を作るか」
「コータ。ちょっとお話ししましょうね?」
うん。笑って誤魔化して場が和んだところで部屋に戻ると、さっきまでしていたポーション作りを再開しようとするが……。
にっこりと笑顔のアナスタシアさんとパリエットさんに呼ばれました。
「コータはもう少し対人戦の経験を積まないと危ないわね」
「アナタの精霊魔法は親和性が高いから威力が高い。許可するまでは人相手には使っちゃダメ」
周りではワルキューレのメンバーがやっちゃったねと言いたげな笑みで見ているが、精霊様たちは困っている人を助けたのに、なにが問題なのかわからないようで首を傾げている。
ただ、アナスタシアさんには対人戦の未熟さを指摘されるし、パリエットさんからは対人戦での精霊魔法の使用を禁止された。
精霊魔法は精霊との相性や親和性? 仲がいいかとか色々関係があるみたいで、私が使うと初心者なのに威力が高いみたいなんだ。
パリエットさんからはその辺りの使い方を習っているんだけど、身体強化は多少強くても構わないからって言っていたんだけど。
というかあの時は一緒にいた精霊様が力を貸してくれていたみたいだ。それもやり過ぎた原因らしいが。
「あの人たちが弱かっただけですよね?」
「いいえ、あれでもDランク。冒険者としては下のほうだけど、一般人からしたら強いと感じる相手よ」
でもあんなに弱いと魔物と戦えないと思うんだけどなぁ。アナスタシアさんいわく冒険者としては一番よくいる程度の強さらしい。
「正直、魔法は要らなかったと思うわ。コータのレベル幾つか私も知らないけど」
そういえばレベル幾つだっけ? ああ、十六だ。
「レベルは十六ですね」
「……貴方の強さでレベル十六って、エルフだとそんなものなのかしら?」
「違う。コータは特別」
あれ、レベルを教えたらみんなに驚かれた。なんでだ?
そういえばレベルとか聞かれなかったからなぁ。
「コータ。確認するけど、貴方どうやってレベル確認してるの? なんかレベルがすぐにわかるスキルある?」
「はい。ありますけど……」
アナスタシアさんとパリエットさんは顔を見合わせて深いため息を零している。また、なんかミスったか?
メニューだっけ。これ、みんなにもあるんじゃないの?
「ちょうどいいわ。今日はじっくり常識についてお勉強しましょうね」
「レベルはわからない。教会とかギルドの専用の魔道具で調べるのが基本」
私はアナスタシアさんとパリエットさんにがっちりと両腕を掴まれると、部屋にある椅子に座らされていろいろと教わることになった。
精霊様たちは早くも飽きたのか遊びだしていて、一緒に聞いているのは知識の精霊様や錬金の精霊様くらいだ。
精霊様って基本、難しい話が好きじゃないんだよね。
ちなみにレベルは他人に教えちゃいけないらしい。ワルキューレのみんなは仲間内では知っているらしいが、それは同じ仲間として一緒に命を懸けるからで他所では絶対に言わないようにと厳しく釘を刺された。
スキルに関しても同じだそうだ。そういえば私には【隠匿】というスキルが最初からあるんだよね。これって、そんな理由で女神様がくれたんだろか。てっきり魔物から見つからないとかそんなスキルかと思っていたんだが。
一度スキルについてちゃんと見ないと駄目かな?
お腹空いてきたなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます