第43話・ロリコン退治!

「ちっ、迂闊だったか」


 一方コータとワルキューレのいないフルーラの町では、牢屋の中で闇ギルドの二人が惨殺されるという事件が起きていた。


 当直だった兵士も殺されての惨事に町は騒動となっている。


「男爵が殺されなかったことが幸いでしたな。ジル殿」


「こっちは幸いじゃねえよ。代官殿」


 ギルドマスターはその対応のためにフルーラの代官屋敷に訪れていたが、代官はあまり問題視していなかった。


 得体のしれぬ平民の犯罪者が殺されても大きな失態ではない。無論責任は問われるが、始末書一枚と上役に贈り物のひとつも届ければなんとかなる程度である。


 ジルと呼ばれたのはギルドマスターである。剛腕のジルといえば有名であちこちに友人がいて爵位持ちの代官でさえも敬意を払うくらいだった。


「誰も君の責任は問わないよ」


「そういう意味じゃねえ。これでゴルバの背後関係が追えなくなったことだ」


「気持ちはわかるが、あまり深入りしないほうがいいのではないか?」


 ギルドマスターのバリスはとても貴族を相手にする言葉遣いではないが、裏表がなく代官にとっては面倒がなくていいとむしろ好意的だ。


 同じ冒険者ギルドの者でも政治的な野心があれば、もっと面倒になることを代官はよく知っていた。


 ふたりが話しているのはゴルバと闇ギルドの関係だ。


 とはいえワルキューレの冤罪は阻止したし、辺境の町では出来ることに限界があった。


 それにあまり下手に動いて面倒事に巻き込まれるのは代官としてはごめんだった。


「何か知っているのか?」


「いや、証拠のある話はない。だがゴルバがどこかと繋がっていたのはほぼ確実だろう。王国内部の権力争いか、それとも周辺国との関係か。はたまた冒険者ギルド内の権力争いの可能性だってあるだろう。闇ギルドはどこにでも繋がりがある。いちいち相手をしていたらキリがないよ」


 複数の国を渡り地域を荒らしていたゴルバには様々な噂があった。


 代官は中央との繋がりがあるので噂が聞こえてくるが、どれも可能性はあるが確証はない。


 本当にゴルバがどこかと繋がっていたかですら、厳密にいえば物的証拠はないのだ。


 ゴルバの名と行動を利用した者すらいる。それが世の中というものであり、政治というものだった。


「結局は侯爵閣下次第か」


「懸念はワルキューレが道中で狙われることだが、ホワイトフェンリルを呼べるエルフが同行しているとなればあまり心配はないだろう。ワイバーン三体と百体近い魔物を犠牲もなく倒されると、いかに闇ギルドでもどうしようもない」


 ギルドマスターは悔しそうだが、代官としては侯爵令嬢であるアナスタシアさえ無事に侯爵の下に着けばこの件は終わりだと考えている。


 ちなみにギルドマスターはホワイトフェンリルを呼んだのをエルフだと周囲に言っていて、町ではパリエットが呼んだのだと思われている。


 ギルドマスター自身はコータが呼んだことを知っていたが、あえてよく知らんと言いつつホワイトフェンリルを呼べるのはエルフしかいないと推測のように言って誤魔化していた。


 別に誰かに頼まれたわけではないが、コータがスレイプニルを従魔にしたことは町ではそれなりに知られていて、これ以上目立つとコータのためにならないと独自の判断で誤魔化している。


 彼は厳つい見た目と反して、冒険者ギルドに所属もしていないコータに対してですら守ってやるようなお人よしだった。


 まあ、おかげでモテるのだが。






 フルーラの町を出て五日目の朝だが、今日は雨だった。


「これじゃ出発は延期ね」


 大きなトラブルもなくキャンプをしながらみんなで旅をしていたが、食料の補給と精霊様が雨が降ると教えてくれたので、昨夜は近くの村に泊った翌朝なんだけどね。


 部屋は十人ほどが泊る大部屋だった。このメンバーで私だけ男なので、本当は女性陣とは違う個室がよかったんだが、大部屋しか空いてなかったんだ。


 アナスタシアさんは土砂降りの雨が降る様子を見て、今日の出発を取りやめた。


「じゃあ、お願いします」


「まかせて!」


 私は先ほどから錬金の精霊様と一緒にポーションを作っている。最初は自分だけで作ろうとしたんだが、期待に満ちた瞳でお手伝いする気満々の錬金の精霊様に要らないとは言えなかった。


 錬金の精霊様が手伝ってくれると、まだ初心者の私でも熟練者並みの品質の魔法薬が作れる。ただし何回かに一回は失敗するけど。


 目の前で頑張って踊っている精霊様を見ると怒る気にはなれない。


 ほかの精霊様は周りで応援していたり、パリエットさんの精霊様と遊んでいたりする。


 ワルキューレのみんなとパリエットさんはゆっくりと休んでいる。長旅は疲れるから、雨が降ったら素直に休むんだって。




「いいから付き合えよ。嬢ちゃん」


「嫌です! 離してください」


「娘に手を出すのは止めてください!」


 薬作りも一段落して、ちょっとトイレにと部屋を出て二階の客室から一階に行くと、どこからか若い女性と男性の争う声がする。


 まったく、誰だ。


「俺たちはAランクのレッドサーペントだぞ!」


「大人しくしてれば、立派な女にしてやるぜ」


 聞こえたからには見過ごすことも出来ない。声のするところに急いで向かう。


 うん。やっぱり場所は一階の食堂兼酒場だった。


 昼間からお酒を飲んで酔っている男たちが、宿屋の若い娘さん。まだそばかすがあるような十歳くらいの子供にセクハラしていた。


 宿屋の夫婦が必死に止めているが、力では敵わないようだし周りの客はみんな見てみぬふりをしている。


「飲み過ぎですよ。その辺にしておいたらどうですか?」


 いい大人が誰も助けないなんて、どうなっているんだ? まったく。可哀そうなのでさっそく助けに入った。


ただ大人として酔っ払いには優しく諭す。


「なんだ。このガキ。死にてえのか?」


「飲みすぎですよ。女が欲しければ町に行って娼館にでも行ってください」


「殺すぞ!」


 うん。駄目だね。話が出来る相手じゃない。


 私は女の子を掴む男の腕を掴むと、強く握りしめて強引に女の子から引き離して助け出した。


 Aランクのレッドなんとかと言っていたけど、悪いが強そうには見えない。


「痛え! 痛えよ! 骨が折れた!!」


 周りは静まり返っていて、信じられない様子で私を見ている。


 そうか。私も子供だったな。つい忘れていたよ。


 それにしても大げさな人だ。少し強く握っただけで骨が折れたなんて。


「こいつ、殺してやる!」


 騒ぐ男に仲間の男が剣を抜いた。


 宿屋の夫婦と子供は恐ろしくて動けないのか、固まったまま動かない。


 私は真っ青な顔をした子供を両親のもとに返すように背中を押してやると、酔っ払いと対峙する。


 不思議と恐いという感情が湧いてこなかった。何故だろう? 荒事なんてしたことないのに。


 前世では特にこんなところで助けに入っても、ぼこぼこにされて終わりだったなぁ。


 鉈剣は持っていない。でも今の私には魔法がある。


 先日パリエットさんに習った精霊魔法を使った身体強化を行う。精霊の力を体内に取り込み身体能力を強化するらしい。


 魔法のお陰か、まるでスローモーションのように男が剣を振り下ろすところが見えた。


 切られないように手首をつかむと、そのまま無造作に襲ってきた男を投げ飛ばす。


「あっ……、ごめんなさい」


 しまった。投げ飛ばす方向まで考えてなかった。隣で食事をしていた行商人さんのテーブルが勢いでひっくり返ってしまった。


「いや、それより……」


 申し訳ないことをしたので深々と頭を下げて謝罪するが、行商人さんは私の後ろを見ながら慌てている。


 ああ、大丈夫。この人たち弱いから。


 後ろから襲ってきたのは、さっき腕が折られたと大げさに騒いでいた男だ。


 投げ飛ばすのは危険だ。殴ることにしよう。


「ぐへっ!」


 あれ、軽くなぐっただけなのに顔が変形して鼻が折れちゃった。


「コータ。やり過ぎ」


「手加減教えなきゃだめかしら」



 そのままクズの酔っ払いを全員倒し終えると、いつの間にかパリエットさんとアナスタシアさんが疲れたように私を見ていた。


 なんでだ?



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