第41話・天国? 地獄?

 久々に入れ食いの釣り竿の出番だ。


 便利なリール付きなんで少し遠くに投げる。


「おっ、きたきた」


 ビクンと大きく引くと、魚に合わせながら引いていく。初日の川魚のよりは大きな引きだ。これは大物かな。


精霊様たちも手伝ってくれるようで、みんなで竿をわっしょいわっしょいと引いていく。


「ちょっと!?」


「コータ。危ないよ!!」


 バシャバシャと水面に見えたのはなんかウナギのような細い魚だった。


 その姿にのんびりと湖畔で休んでいたソフィアさんとベスタさんが慌て始める。


 なんでだろう?


「リーダー! コータがエレキスネーク釣った!!」


「えっ、コータ。アナタって人は」


 ベスタさんは素早く水際で武器を抜いて警戒していて、ソフィアさんはアナスタシアさんに声を掛けると、またかと言いたげなアナスタシアさんが慌ててやってくる。


 もしかして魚じゃなく魔物? この釣り竿って魚専用じゃないの?


「糸は切れないの?」


「ダメ! なんか知らないが、凄い丈夫だよ」


 ベスタさんは慌てて糸を切ろうとしているが、これは女神様仕様の釣り竿だからね。餌も要らないし糸も切れないんじゃないかな?


「コータ。精霊に対魔法シールド張ってもらって!」


「まほうしーるど?」


「あのおさかなさん、まほうつかうの?」


「えれきすねーくは、らいげきまほうをつかうよ」


「たいへん。みんなやるよ~」


 アナスタシアさんから指示がくると、その声が聞こえていた精霊様たちはなぜと言わんばかりに首を傾げている。


 だけど地元の精霊様と知識の精霊様はあれが危険な魔物だと知っているようで、それを伝えて慌てて精霊様たちは踊りを踊る配置につく。


 最近知ったようだけど、精霊様たちの踊りは配置とか踊りの種類が幾つもあるらしく結構大変みたい。


「シャー!!」


 あっ、水面から姿を現したエレキスネークって、あれだね。ウナギみたい。雷撃魔法って、たしかスレイプ君がワイバーンを黒焦げにしていたあれか。


 なるほど。あれは電気ウナギの魔物なんだね。


「ヒヒーン!!」


 魔物の正体がわかってなんかすっきりした私だが、その瞬間に電気ウナギ君がいかずちをこちらに放ってくるが、そこで颯爽と登場して同じ雷で迎撃したのはスレイプ君だった。


 でも口元には直前まで食べていた草が付いたままだ。せっかくカッコイイのに少し残念だ。


「ナイスよ。スレイプ君! そのままお願い!! コータは岸まで早く釣り上げて!」


 うん。今夜はみんなに美味しいお魚料理を食べさせたいと釣りを始めたら、騒動になっちゃったね。


 私は言われた通り、早く電気ウナギ君を釣ろう。


 リールを巻き巻き。リールを巻き巻き。


「くるわよ!」


 電気ウナギ君が岸に近寄ると、アナスタシアさんとベスタさんなどが水に入っていって剣で電気ウナギ君にとどめを刺しにいく。


「シャー!!」


暴れるが逃がさない。先ほどからはパリエットさんも竿を引っ張るのを手伝ってくれているから、ふたりで頑張って引いていく。


 なんか昔見た芸能人がカジキマグロを釣る番組を思い出すよ。


「シャ……」


 はあ、はあ、はあ。なんとか釣り上げることに成功した。


「よし、もっと魚を釣ろう」


「ダメ」


「ダメに決まってるじゃん!!」


 倒した電気ウナギ君はアナスタシアたちが運んでいて、私は夕食のお魚さんを釣ろうと再び竿で釣ろうとするも、パリエットさんやソフィアさんやアンさんに当然のように反対されてしまった。


「仕方ないか。あの電気ウナギ君を夕食にしようか」




 エレキスネーク 食材ランクC


 淡水に住む魚類の一種。臭みなどなく美味しい。




 うん、鑑定でも大丈夫みたい。食用だ。


 川魚は泥臭さを取り除くために何日かきれいな水で生かすんだが、電気ウナギ君はもうトドメをさされちゃったしなぁ。


 というか体長が三メートルくらいあるから泥抜きも一苦労か。


「コータ。なにかするときは、最初に教えてね」


 電気ウナギ君を捌こうとすると、運んでくれたアナスタシアさんに少し疲れたように叱られた。


 美味しいうな重でも作るから許してほしい。


 ただ私はウナギなんか捌いたことないんだよねぇ。日本じゃスーパーで捌いて焼いたものしか売ってないし。


「だれかこれ捌けます?」


 うん。無理みたい。仕方ない私が捌こう。


 自慢の女神様仕様の包丁を使って見様見真似で電気ウナギ君を捌き始めるが、なぜかどこに刃を入れれば良いかが感覚的にわかる。


 なぜだろう? 女神仕様の包丁のおかげなんだろうか。


 まあ、細かいことはいいか。


「どうせ濡れちゃったんだし、水浴びしようかしら。スレイプ君、悪いけど警戒お願いね?」


「ヒヒーン!」


 アナスタシアさんは捌き始めた私を少し見ていたが、湖に入り電気ウナギ君を運んだせいですでに服がびしょびしょだった。


 それを乾かすために焚き火をすることをソフィアさんにお願いして、ベスタさんと一緒に水浴びすると湖のほうに行ってしまった。


 そういえば、この世界ってお風呂ないんだよね。貴族様の屋敷とかワルキューレの拠点にはあったが。でもワルキューレでも沸かすには数日に一日で、あとはお湯で体を拭くくらいだ。


 寒い季節じゃないけど、水浴びなんかして大丈夫なんだろうか。結構水は冷たいが。


「私も水浴びしよっと」


「私もする」


「じゃあ、私はこれを捌いてますね」


 私の心配をよそにソフィアさんたちばかりかパリエットさんも水浴びするというので、私は湖を見ないようにしつつ電気ウナギ君を捌くことにする。


 うん? 覗きなんかしませんよ。中身は老人なんですから。


「なに言ってんのよ。コータも来るのよ」


「私は男ですよ」


「子供のくせに、なに色気付いているのよ」


 ソフィアさんとパリエットさんに引っ張られるように湖まで連れていかれる。冗談じゃないんですね。


 羞恥心とかないのだろうか?


「あら、コータも連れてきたの?」


「うん。子供のくせに変に気を遣うから」


 湖ではすでにアナスタシアさんとベスタさんと精霊様たちが水浴びをしていた。というか精霊様たちは姿が見えなかったと思ったら、一緒に水浴びしていたんですね。


 うん。完全に子ども扱いですね。ふたりとも隠しもしない。


 外国人さんはスタイルがいいというのは本当だった。いろいろ凄かったです。はい。


「コータ。意外と大人だった」


「でも私たちに無反応って、やっぱり子供だよね」


 なんだろう。まるで獲物を狙うような目で見られた気がする。それになにか聞こえるが気にしない。というか聞かない。いや、聞こえないことにする。


 女は怖い。なんとなく私を騙した元妻を思い出してしまった。




 さあ、水浴びを素早く済ませると、嫌なことは忘れて調理の再開だ。


 巨大電気ウナギ君を捌くが、捌いてもまだ大きい。これはやはり蒸すしかないな。


 海外で使うような大型のキャンプ用コンロをリュックから取り出すと、蒸し器をセットする。


「それなにかしら?」


「蒸し器ですよ」


「へぇ。みたことないわ」


 お願いですから服を着るなり隠すなりしてください。アナスタシアさんまで羞恥心がないとは……。


 地獄のような天国。いや天国のような地獄。どっちなんだろうね。






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