第39話・コータ。もったいない精神を発揮する

 旅の出発は、結局翌日改めてとなった。


 大量の魔物を運び、男爵と取り巻きや悪人の後始末などで、一度町に戻らなければならなかったんだ、


「コータ。大丈夫なの?」


「ええ。精霊様がこうすれば美味しく食べられると教えてくれました」


 町に戻った私は冒険者ギルドからワイバーンのお肉を全部もらった。


 ワイバーン自体は珍しいが、恐ろしく不味いらしい。ただ干し肉にすれば食べられないこともないのでそれなりに値が付くらしいが、二束三文なので全部もらったんだ。




 ワイバーンの肉 食材ランクB


 癖が強くそのままでは美味しくない。ただし、下処理をすれば結構美味しい肉になる。


 古代では珍味として珍重された。




 よくよく考えてみたら、私には食材鑑定のスキルがあったことを思い出して調べてみたんだ。


 そうそうレベルも結構上がった。



名前:幸田聡志 年齢十三歳


レベル:15


HP:500 MP:190




レジェンドスキル


【キャンプ】レベル1




スーパーレアスキル


【隠匿】レベルMax




レアスキル


【異世界言語】レベルMax・【丈夫な体】レベルMax【精霊召喚】レベル2【幻獣召喚】レベル1




ノーマルスキル


【採取】レベル1・【釣り】レベル1・【解体】レベル1・【料理】レベル3【精霊魔法】レベル2【剣術】レベル1【調合】レベル2【植物鑑定】レベル2【食材鑑定】レベル2【テイム】レベル1




 召喚魔法:森の大精霊シルヴァ


 幻獣召喚:ホワイトフェンリル・アルティ


 従魔:スレイプニルのスレイプ君



称号:ルリーナの使徒


加護:ルリーナの加護




 しばらく見ないうちにレベルが倍になった。時々女神様の声が聞こえていたけど、レベルが上がるのって戦いの後だから、確認する余裕がないんだよね。


「うんとね。あとはにるだけだよ~」


 話が逸れたが美味しく食べられると知ったワイバーンの調理法を教えてくれたのは、知識の精霊様だ。


 なんでも知識の精霊様は物知りらしい。例のエリクサーとかも作り方を知っていた。


 精霊様たちが森に行くたびに集めてくれた薬草とか木の実で下処理をして、じっくり煮込んで臭みを抜くみたいなんだ。


 ワルキューレの皆さんは、なにもワイバーンの肉まで食べなくてもと言いたげだけど。もったいないじゃないか。


「こっちだよ~」


「わふわふ!!」


 そうそう、ホワイトフェンリルのアルティさんと仔フェンリルたちは、今日は私たちとお泊りらしい。


 精霊様たちと仲良くなり、今晩は泊っていくことになったんだ。


 仔フェンリルたちなんかは、さっきから精霊様たちと一緒にクラン・ワルキューレの拠点の屋敷の庭で遊んでいる。


「凄いなぁ。これだけ煮ても煮えないなんて……」


 ワイバーンの肉の特徴は、火が通るのにやたらと時間がかかることもあるらしい。


 さっきから寸胴鍋でグツグツと煮ているが、一向に火が通る気配がないよ。


 道理でこの世界の人たちが干し肉にするわけだ。


 それから三時間ほど煮ると、やっと中まで軽く火が入った感じで癖が抜けたらしい。




 癖が抜けたワイバーンの肉 食材ランクB


 癖が強いワイバーンの肉から癖を抜いたもの。


 古代では珍味として珍重された。




 うん。鑑定でも大丈夫だ。


 あとはこれにから揚げ粉をまぶして、揚げてみよう。


「うわぁ。また油を使ってるね」


「から揚げという料理ですよ」


 またアンさんが抱き付いてきた。揚げ物の最中は危ないのに。


 精霊様たちが真似するからやめてほしい。


「ぼくたちもやるー!」


「なになに、たのしいの?」


 ほら。すぐに私は精霊様たちに抱き着かれちゃった。ああ、アンさんには見えないから、わからないのか。


 低温でじっくりと揚げていこう。


「いい匂いね」


 よし、たぶん出来た。


 でも中まで火が通ったか、まだ自信がない。切って確かめてみないと。


 ザクッっと衣が切れる音がする。


 精霊様たちと仔フェンリルに、アンさんたちワルキューレのメンバーの視線が何故か凄い。


 火が通ったかな?


「だいじょうぶだよ。ひがとおってる!」


 見た目はギリギリ火が通っているようだが心配なので見ていたところ、火が通っていると教えてくれたのは炎の精霊様だ。


 じゃあ、味見を……


「美味しい。全然不味くないよ」


 ジューシーで肉の旨味があって美味しい。鶏肉みたいな感じ。


 みんなが脅すから不安だったけど美味しいよ。


 ショウガと醤油で味付けしたオーソドックスなから揚げだけど、ショウガと醤油の味が生きているし、衣がまたカリカリで美味しい。


「マジ!?」


「ワイバーンの肉って不味いから、新人が泣きながら食べる肉なのに……」


 精霊様たちは喜んでいるが、ワルキューレの皆さんは未だに半信半疑だ。


 よし、そうとわかれば臭みを抜いたワイバーンの肉でから揚げパーティーだ!!


「おいしいよ。こーた!」


「また、わいばーんたおしにいこうね!」


 ジャンジャン揚げてみんなに食べてもらおう。


 でも精霊様。ワイバーンを倒しにはいかないよ? こわいじゃないか。


「なーに、これほど美味いなら、わしが狩ってきてやるわ」


「わふわふ!」


「ぐる!!」


 ただそこでホワイトフェンリルのアルティさんが、精霊様たちにワイバーンを狩ってくる約束をしている。


 今気づいたけど、アルティさん。精霊様の言葉聞こえているんだね。パリエットさんも聞こえてないのに。


 仔フェンリルたちと一緒にガツガツとから揚げを頬張り、喜んでくれているらしい。親子揃って尻尾が元気にぶんぶんと振られている。


「美味。コータはエルフを超えた」


「ワイバーンなのに美味しいよ~」


 ああ、パリエットさんとワルキューレの皆さんも当然から揚げを食べている。


 こっちも評判はいいらしい。


「おいおい、賑やかだな」


「あっ、ギルマス! どうしたんですか?」


「坊主がワイバーンを料理するっていうんだ。気になるだろ? あんな美味えスープを作るんだ」


 揚げた先からなくなるから揚げを揚げ続けていると、強面のギルドマスターがやってきた。


 ソフィアさんが不思議そうに声を掛けているが、来た理由はなんとなく察しはついている。


「こりゃあ、美味えな」


 さっそくひとつあげると、ギルドマスターは驚いた様子で噛みしめるように食べている。


「家畜も不味くて食わねえワイバーンをここまで美味く料理するとは……」


 そこまで言うの?


「そうそう、あの男爵は牢にぶち込んどいたぜ。あとは王国に引き渡すしかねえが、あの数の魔物をけしかけたんだ。死刑はまぬがれねえだろうな」


 ワルキューレの皆さんがお酒を出すと、みんなはから揚げで酒盛りを始めている。


 ギルドマスターもそれに加わっていて、私から見たら精霊様も加わるので賑やかな宴会に見える。


「証拠はあるのですか?」


「闇ギルドの連中が魔物寄せの魔道具持っていたんだよ。連中は死刑が決定的だからな。男爵との関係をあっさり吐いたぜ。まあ男爵には王都で真偽判別の儀式が行われるんで、証拠があってもなくても関係ないがな」


 ふと気になることを聞いてみた。証拠は大切だ。私は前世であらぬ疑いで苦しんだから余計にそう思う。


「真偽判別の儀式?」


「教会の神官が使える儀式さ。神の名の下に真偽を確かめる儀式が連中はできるのさ。もっとも頻繁にやっていれば国が成り立たないんで、重要案件にのみ適用されるんだがな。今回は適用されるだろう。ワイバーンまで呼びやがって。下手したらこの辺りの町や村が全滅したかもしれねえんだぞ」


 そんな儀式があるのか。わたしがルリーナ様にメールで聞くようなもんだろうか?


 しかしワイバーンってそんなに危険なのか。アナスタシアさんたちが結構簡単に倒しているように見えたから、そこまで危険だとは思わなかったなぁ。


 特にアルティさんなんか一撃で狩っていたし。


 おっと、から揚げの肉がなくなったなぁ。次はなにを作ろうか。


 みんなまだまだ食べたいみたいだし、どんどん作るぞ!!




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