第36話・みんなで戦う

「精霊が怒ってる」


「怒るとは、なにに対してですか?」


「自然の和を乱す者を精霊は嫌う」


 話の流れを決めたのはパリエットさんの一言だった。


 私のところには偵察に行った精霊様や付近の精霊様たちが集まっていて、情報を教えてくれる。しかし精霊様たちは怒っていてそれにパリエットさんが気付いたらしい。


 放置するほうが危険だと判断したアナスタシアさんの決断で、私たちは戦闘準備をして一路罠である魔物が集まるところに向かう。


「こーた。わいばーんはつよくてわるいこなの」


「まほうにもつよいからきをつけて」


 私がアドバイスしてくれる精霊様たちの意見をみんなに伝えて、作戦を練る。


 その結果、スレイプ君にはアナスタシアさんが乗ることになった。


本当は私が自分で乗るつもりだったが、スレイプ君はワイバーンとの戦闘経験がないんだ。代わりにアナスタシアさんが過去に討伐したことがあるらしい。


 戦闘タイプも関係がある。アナスタシアさんは魔法も多少使える剣士で前線での戦闘に向くが、私は基本魔法を使うか精霊様にお願いするだけなので必ずしも前線でなくてもいいからって。




「見えた。あれがワイバーン」


 私はパリエットさんと共に後方の馬車に乗って進んだ。そこで見えたワイバーンは、まるで恐竜みたいだ。なんだったか、空飛ぶ恐竜を思い出す。


「魔法使いは魔力が大切。魔力を効率的に使う必要がある」


 そう。私が前線ではなく後方に回されたのは、素人だからだ。パリエットさんが特に私を前線に出すのは危険だと主張した。


「コータって、精霊様にお願いできるけど、効率は悪そうよね」


 同じ魔法使いであるソフィアさんも同様の意見を持っていたらしい。奇跡だと言われる精霊様にお願いすることは可能だが、確かにあれはそう頻繁に使えないんだ。力が抜けていくからね。


 とりあえず女神様から頂いたキャンプ道具である、ゴブリンポイポイを準備しておく。魔物が多数いるみたいだし、ゴブリンは弱いらしいが数が多いと大変らしいからね。


「さあ、やるわよ!!」


 どんどんワイバーンが近くなってくる。そしてワイバーンだけじゃない。


 魔物が地上にも空にもいる。どれくらいいるんだろう。百匹以上いそうに見えるのは気のせいなんだろうか。


「ファイアーアロー!」


 アナスタシアさんを乗せたスレイプ君が空にいるワイバーンに向けて駆けていく。


 それを見た前衛であるベスタさんやアンさんたちが馬車を飛び出した。ソフィアさんは得意の炎の魔法で地上にいる敵の前線を攻撃する。


 あっ、炎の矢が最前線にいたウルフに当たった。


 すでに私の周りでは精霊様たちが踊っている。ただしこれは攻撃するための踊りじゃない。味方を支援するものらしい。


 わずかだが常時回復する効果とパワーとスピードが向上するんだってさ。エルフさんたちが集団戦闘する時によく使う戦いかたでパリエットさんが教えてくれた。


 これなら私とパリエットさんの魔力をほとんど使わず、自然の魔力で行使できるんだとか。


 少数対多数の場合は囲まれてはいけないらしい。味方には魔法使いがいるが、魔物だって魔法を使う。


 私たちは二台の馬車を守りながら、囲まれないようにと動き続けている。


「ヒヒーン!!」


 その時だった。スレイプ君の雄叫びのような声が響くと、スパークするような雷らしきものが一匹のワイバーンに直撃した。


「げっ、雷撃魔法!? 高等魔法じゃん!!」


「そうなんですか?」


「知らないの!? 雷撃魔法は四大魔法より高度な魔法なのよ!」


 雷が落ちるように凄まじい音がしたと思ったら、直撃したワイバーンは黒焦げになりながらフラフラと落ちそうになりながら飛んでいて、残りの二匹は明らかに敵意をスレイプ君に向けている。


 ソフィアさんはスレイプ君の魔力に驚き、興奮というか羨ましげに叫んでいた。対抗意識でもあるんだろうか?


「落ちなさい!!」


 ただ、スレイプ君の魔法が作った隙をアナスタシアさんは見逃さなかった。


 なんと空中でスレイプ君を足場にジャンプすると黒焦げのワイバーンに飛びついて、背中に細身の剣を突き刺していた。


「ギヤァァァ!!」


 その一撃で苦しそうに鳴き声を上げて落ちるワイバーンだが、スレイプ君は見事にそこからアナスタシアさんを回収している。


 まるで映画の主人公みたいだ。


「コータ。こっちもくる」


「はい」


 そして私とパリエットさんが後方に残った、もうひとつの理由が迫っていた。


「こっちは任せて!」


 ソフィアさんとマリアンヌさんたちは地上で戦っているメンバーを支援していて、手が離せない。


 そんな中、ずっと尾行していた連中が姿を現した。


「おいおい、ワイバーンを落としてるぜ」


「スレイプニルとワルキューレのアナスタシアが組めば、あんなもんだろう。だが奴の弱点ははっきりしている」


 現れたのは見知らぬ高貴そうな男と、二十人ほどの胡散臭そうな男たちだった。


 奴らが自信満々なのは理由があった。連中の中に小さな子供が何人かいるんだ。剣を突き付けられている人質の子供が。


「ワルキューレにエルフがいるなんて聞いてないな。やはりあの女狐め。わしに嘘をついていたのだな」


「あなたが審議官の男爵?」


「いかにも。だがわしはエルフ如きに屈せぬぞ」


「その子供は?」


「見てわからぬか? ゴルバの財宝をわしに渡して、大人しく魔物に殺されてしまえ。さもなくば、このガキどもを皆殺しだ」


 ああ、男は噂の審議官だったのか。


 子供たちは泣いている。対峙するパリエットさんの表情は変わらないが、怒っているのが気配で伝わってくる。


「私はアルーサの森のパリエット。アナタを許さない」


「結構だ。エルフは高く売れるからな。貴様だけは生かしておいて売りはらってやるわ」


 パリエットさんから合図がきた。事前に打ち合わせしていた通りだ。精霊様たちはワルキューレのみんなの援護で手が離せない。ここは私とパリエットさんで奴らから人質を取り返して倒さないと。


 教わった通りに魔力を込めてイメージする。契約と繋がりが私と彼を繋いだ。


『コータ。なにごとだ?』


『困ったことが起こっているんです。助けて頂けないでしょうか?』


『よし、我が名を言え。すぐにいく』


「召喚・ホワイトフェンリル、アルティ」


 光が大地に魔法陣のようなものを描くと、次の瞬間には目の前に先日のホワイトフェンリルが現れた。


「なっ。なんだあれは!!」


「フェンリルか!? ばかな!!」


「おい、体が動かねえ!?」


 神々しいようなオーラを纏ったホワイトフェンリルのアルティさんは、先日の二匹の子供たちと一緒に来てくれたようだ。


 男爵という偉そうなクズとその取り巻きはアルティさんの気配に驚いていて、その隙を見逃すパリエットさんではなかった。


 足元の草がスルスルと伸びて男たちだけを拘束している。


「さあ、もう大丈夫だよ」


 私とパリエットさんはそのまま男たちに捕まった子供の下に駆け寄ると、震えて泣いている子供たちを抱きかかえるように救出していく。


「これで終わり?」


子供たちを庇うようにアルティさんと二匹の子たちは守ってくれている。私とパリエットさんは、そのまま足掻いてなんとか草の拘束を断ち切ろうとしている男たちの前に来ていた。


「おのれぇ。未開の蛮族が!!」


「楽に死ねるなんて思わないで。アナタたちのことは私も精霊も許さない」


 この人たちは全員生かしたまま捕らえることになっている。武器を奪い縛ってとりあえずは放置だ。


 最悪魔物に襲われても知らないよ。


 あとはワイバーンと魔物の群れを倒せば終わりだ!!




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