第34話・町への帰還と次なる旅の支度

「コータの浮気者!!」


 翌日にはパリエットさんと一緒にフルーラの町に戻ったが、クラン・ワルキューレの皆さんは相変わらずだった。


「初めまして、私はワルキューレのリーダーを務めている。アナスタシアよ」


 ソフィアさんが突然浮気者と叫んだのでパリエットさんがびっくりしているが、アナスタシアさんは華麗にスルーしてパリエットさんを笑顔で迎えていた。


「私はアルーサの森のパリエット」


「アルーサの森って言えば、結構遠いわね。でも助かったわ。私たちだとコータに精霊のこと教えてあげられなくて」


「コータの精霊の使い方は危ない」


「そうなのよね。ゆっくりして」


 アナスタシアさんはアルーサの森を知っているようだ。有名なんだろうか?


 アナスタシアさんは相変わらずいい人で、パリエットさんもオレと一緒にクラン・ワルキューレの拠点でお世話になることになったんだけど。


「侯爵領ですか?」


「そうなのよ。ゴルバの戦利品の後始末をお父様にお願いするからには持っていかないと」


 ただ、戻って早々にアナスタシアさんからは、侯爵領への旅の同行をお願いされた。


「パリエットさんどうしましょうか?」


 私としては旅をするのは構わないのだが、仲間になったパリエットさんに確認をしなきゃいけない。


「私は構わない。同行する。ただし別件でお願いがある。北の村の奥の森に魔人が出た。そのことをギルドに知らせて調べてほしい」


 パリエットさんは侯爵領への旅は了承してくれたが、魔人の件をワルキューレの皆さんに話していた。


 そうだ。その件があったんだ。忘れてた。昨日女神様に言えばよかったなぁ。


「まっ、魔人が出たの?」


「二人で戦ったの?」


 慌てるワルキューレの皆さんだが、戦ってないと話すと安堵していた。もっともエリクサーからネクタールを作ったと言ったら頭を抱えてしまい、アナスタシアさんは皆さんに絶対他言無用だと厳命していたけど。


「コータ。あなたも絶対に誰にもしゃべってはダメよ。でも魔人が幻獣を襲ったというのは気になるわね。早速調べてみるわ」


「お願い」


 アナスタシアさんとマリアンヌさんは、パリエットさんから聞いた魔人のことでギルドに行くとすぐに出ていってしまった。


 私はメニュー画面で旅に必要な食材を頼むべくキャンプスキルで買い物をする。


 片道十日くらいだと言っていたのでかなり長旅だ。肉とかはこの世界でもあるが、簡単に美味しい料理が出来るコンソメスープの素やダシの素とかカレーのルーは、日本でなければ手に入らないものは結構欲しい。


 あとお魚も買っておこうか。毎日お肉だと飽きてくるかもしれないからね。


 そうだ。あれも頼んでおこう。長旅なら皆さん喜んでくれるだろう。


「コータどこ行くんだい?」


「旅の食料を買いに行こうかなと」


「じゃあ、アタシもいくよ」


 あとはこの町で手に入るものを買いに行かないと。パリエットさんは休んでいるというので、ひとりで行こうとしたらベスタさんとソフィアさんが一緒に来てくれることになった。


 スレイプ君も明日からは休めないのと、連れていけば目立つのでお留守番だ。


「すみません。それ五つください」


「坊主、五つって、五個か?」


「いえ、五袋です。明日からワルキューレの皆さんと少し遠出をするので」


「おおっ、構わんが。随分と買うな」


 この町の主食のひとつでもあるゴロ芋を大量に買う。途中に村もあるし、そこまで大量には要らないらしいけどね。クーラーボックスに入れておけば腐らないらしいから、多めでいいだろう。


 あとはパン屋さんにも明日の朝にパンを大量に作っておいてくれるように頼み、肉とかお酒も樽で買った。


 支払いはベスタさんがしてくれた。本当は私が払うつもりだったが、ワルキューレの経費として払ってくれたらしい。


「こーた。にんげんさんがこうたいで、あとをついてきてるよ~」


「わるいひとだ!」


「やっつける?」


「駄目だよ。町の中だとみんなに迷惑をかけるからね」


一通り買い物が終わり、荷物は後でクラン・ワルキューレの拠点の屋敷に運んでくれることになったが、そこで精霊様たちが騒ぎ出した。


「コータ。やっぱり尾行されているかい?」


「はい。この前の酔っ払いですか?」


「いや、あんたに原因はないさ。ゴルバの件でウチがちょっと揉めていてね」


 私が精霊様たちにこっそりとお願いしていたことに気付いたベスタさんは、素知らぬふりをして尾行について口にした。


 この前の酔っ払い絡みかと思ったが違ったらしい。


「捕まえますか?」


「いや、放置でいいよ。明日には町を出るからね。面倒はごめんだ」


 大金が入ったワルキューレが狙われているのか。どこの世界も人が考えることって同じだね。






「魔人か……。なんでまたホワイトフェンリルなんかにちょっかい出したんだ?」


「それはわからないそうよ」


 一方アナスタシアとマリアンヌが訪れたのは、冒険者ギルドのギルドマスターの部屋だった。


 最近は審議官の男爵がまだこの町にいて騒いでいるので、アナスタシアも複数で行動するようにしているのでふたりで来たのだが。


 ギルドマスターは深いため息をこぼしていた。


 それだけ魔人とは厄介だった。


「エルフが絡んでいるとなると、報告する必要があるな。出発は明日か? 行く前に寄ってくれ。可能な限り情報を集めとくよ」


 魔人という存在は、そこそこ存在するのがこの世界の常識でもある。


 古に封じた混沌の魔神の信徒であり、彼の復活を願う者たちのことをいう。


 そもそも魔神とはこの世界には存在しなかった混沌の力を持っている存在で、魔人は彼に忠誠を誓うことでこの世界の神々の系譜である人族から、魔神の系譜である魔人族へと変化した者たちの末裔だった。


 この世界にとっては忌むべき存在であり、教会は異端として始末すべきだと努力しているが、あいにくと絶えることはいまのところない。


 魔人はどこにいてどうやって人数を維持しているのか、長年調査しているがはっきりしていない。


 これは魔物にも共通するが、混沌の魔神の力がこの世界から消えない限りは混沌から生まれるのではと推測されているほどだ。


 今回の件にどんな裏があるのか知らないが、周囲の町や村のギルド支部に注意を促して様子を見るしかいまのところ手段はない。


「そうそう、男爵殿が町のろくでなしどもに声を掛けているようだ。おそらく町を出たら襲う気だろう」


「この町で集めたのですか? それではこちらに露見しないわけがないのに」


「やっちまえば、あとは誤魔化せると思っているんだろう。」


 ただ、ギルドマスターにとっては現状では魔人よりも、クラン・ワルキューレと対立している男爵のほうが問題だった。


 マリアンヌはそのあまりにお粗末なやり方に呆れているが、町の外では死人に口なしというのがこの世界の一般的な常識だった。


「そのまま襲われたら始末しちまえよ」


「そうもいきませんわ」


 どのみち男爵に未来はない。王国がこの件で動いているのは確かで、ギルドマスターはアナスタシアならば始末しても問題ないだろうという。


 しかしそれはそれで後始末が面倒になるのが貴族という存在だった。


 アナスタシアは襲われる心配よりはむしろ後始末の心配をしていた。





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