第31話・コータ。やっと魔法を覚える
「そう。それでいい」
ホワイトフェンリルと会った翌日。
私は村の近辺で村人たちとウルフの討伐をしつつ、パリエットさんに精霊魔法を習っていた。
以前から戦いになると精霊様が助けてくれたが、あれは厳密には精霊使役になるらしい。精霊魔法とは私が精霊の力を借りて自分で魔法を使うことだ。
パリエットさんと精霊様に教わりつつ、ウルフを退治していると簡単な精霊魔法なら使えるようになった。
これで私も魔法使いだよ。エッヘン。
「精霊魔法には呪文がない。精霊の存在を感じて、精霊の力を無理なく借りること。センスと才能がないと出来ないのはそのため」
淡々と教えてくれるパリエットさんだが、あまりに私の習得が早くてさっきまで落ち込んでいたりする。
普通はエルフでも苦労するらしい。ただ私は精霊が見えて声も聴けるからね。精霊様が率先して力を貸してくれるので、難易度が桁違いに楽なんだろう。
もしかしたらルリーナ様の加護も関係あるのかもしれないが。
ちなみにウルフの肉も食べられるらしい。そんなに美味しいわけではないようだが、数が多いので安い干し肉なんかになっているとのこと。
私たちは今朝から五十頭ほど倒しているが、解体が面倒だということと解体する時間があればウルフを倒したほうがいいということで、そのまま村人に渡している。
最終的にはウルフ討伐の報酬とウルフの素材の買い取りでお金をもらえるらしい。
「ヒヒーン」
「スレイプ君。また倒したんだね。ご苦労さま」
そうそう、スレイプ君は空を駆け回りウルフの追い込みをしつつ、自身でも魔法でウルフを倒していた。
しかも倒したウルフを咥えて自分で運んでくる賢さだ。頼りになる仲間だね。
「こーた。そろそろごはんにしよ~」
「うるふもういないよ」
村人と合わせて八十頭ほどのウルフを倒した頃、生き残りは森に逃げていった。
精霊様がもう大丈夫だというので、そろそろお昼にしようか。
村の広場を借りてお昼の準備だ。
「なにをつくるの?」
「チーズの料理ですよ」
パリエットさんと村の人たちは、リュックからコンロなどの荷物を出すと興味深げに見ていた。
今日の私は一味違うんですよ。女神様に頼んで料理の本を取り寄せてもらったんです。
チーズを手に入れたら作りたい料理があったんですよね。
まずは鍋にニンニクを擦り付けて匂いをつけておく。チーズは細かく切って片栗粉をまぶしておけばいいのか。
あとはゴロ芋と人参もあったので蒸しておいて、レッドボアの肉も火を通しておく。
本当は専用の鍋があるらしいがないので、今回は普通の鍋だ。鍋には白ワインを入れて煮立たせてアルコールを飛ばす。
精霊様たちはもう食べる気満々で自分のお皿を手にもっているね。もう少しだから待ってほしい。
アルコールが飛んだら切ったチーズを鍋に入れながら混ぜる。ただひたすら混ぜる。
分離するようなら片栗粉を足す必要があるみたいだが、大丈夫みたいだね。
鍋の中がとろりと蕩けるチーズの状態になったら胡椒で味を整えて完成だ。
「なんじゃ、これは?」
「チーズフォンデュです。美味しいですよ」
いつのまにか村人がほとんど集まっているんじゃないかな?
えーと。みなさんも食べたいとか言わないですよね? これは精霊様の分なんですが。
「精霊が先。アナタたちはそのあと」
食べたいと顔に書いている村の人たちに困っていると、パリエットさんが村の人たちを止めてくれましたが、それは私にもっと作れということでしょうか。
村の人たちも新しいチーズと白ワインを持ってきて、もっと作ってと期待に満ちた顔をしている。
専用のフォークがないので長めの竹串で具材をチーズの鍋に入れて絡ませると、とろりと溶けたチーズが伸びて具材に絡まる。
それをそのまま精霊様たちのお皿にいれてあげると完成だ。
うん。気が付くと昨日助けてくれた近隣の森の精霊様も集まっているね。いいでしょう。みんなに振舞ってあげましょう!
「これもおいしい!」
「とろとろのちーずがいいの」
「おかわり!」
うん欠食精霊様たちも喜んでくれている。
私はチーズをつけて配るのをパリエットさんに任せると、増えた精霊様と村の人たちの分を作っていく。
ただここまで来ると、村の女性陣が手伝ってくれたので楽だった。そんなに難しい料理じゃないからね。コツを覚えると村でも作れるだろう。
「こりゃうめえなぁ」
「チーズでこんな美味い料理が出来るなんて……」
この村の特産はチーズとバターだ。チーズなんて飽き飽きしているのが村の人の本音だったらしい。
パンや野菜にお肉なんかが美味しく食べられるということで大人気だった。
みんなが食べるとようやく私も食べることが出来る。どれどれ。
うん。美味しいじゃないか。熱々で口の中が火傷しそうになって、周りの精霊様とか村の人に笑われてしまったが。
「さすがはエルフ様だなぁ」
でもさ。何故かチーズフォンデュの功績がパリエットさんの功績になっている。どうも私はパリエットさんのお供として見られているらしい。
まあいいけどさ。どこの料理だとか詳しく聞かれても困るし。
パリエットさんはもちろんだという顔で、黙々とチーズフォンデュを食べている。説明するのが面倒なんだろう。私も面倒だ。このまま流してしまおう。
「もう一晩泊っていかれては……。お礼も致しますので……」
「せっかくですが、帰りの日程が決まっていまして」
お昼を食べ終えるとパリエットさんと相談して出発することになった。あんまり遅くなるとクラン・ワルキューレの皆さんが心配するからね。
ウルフ討伐とウルフの買い取りで報酬も貰ったし、チーズやバターも報酬としてたくさん貰った。
名残惜しいが村の人や近隣の精霊様たちと別れの挨拶をして出発だ。
チーズフォンデュはこの村の名物として残るかもしれない。ちょっと楽しみだ。
「ウオーン!!」
村を出てしばらくしたら、昨日のホワイトフェンリルの親子が遠くからこちらを見ていた。
どうも見送りに来てくれたらしい。
精霊様たちがバイバイ。またねと手を振るので、私とパリエットさんも手を振って別れた。
「アナタにはなにか、大いなる使命でもありそう」
「使命ですか?」
「類い稀な力を持った者たちが、その昔世界を救ったという伝説がある。ふと、そんなおとぎ話を思い出した」
「うーん? そんなのあるんですかね?」
流れるように走るスレイプ君の上で、パリエットさんは少し考え込む様子で私のことを口にした。
使命なんて聞いてないけどなぁ。あるのかな?
「わからない。でもアナタの力は普通じゃない」
「なるようになりますよ。きっと」
「魔人が暗躍していた件は、調べないと駄目。ワルキューレの力を借りられる?」
「ええ。たぶん。お願いすればなんとか……。というか魔人とはなんなのですか?」
「遥か昔、神々と地上の者たちが協力して封じた魔神の信徒。魔物も元々は魔神の放った存在。今ではこの世界の住人とも言えるけど」
うん。忘れていた。ホワイトフェンリルを呪った存在がいるんだった。
アナスタシアさんたちなら力を貸してくれるだろう。
良くないことが起きないといいけど。
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