第30話・ホワイトフェンリルとコータ
「原因はその子たち?」
「そうだ。魔人に襲われた時に撃退したが、不覚にも我が子が呪われてしまった」
まじんって誰だろう? 前に話に出ていた混沌の魔神とやらの仲間かな?
「アルーサの森に行けば治せると思う」
「無理だ。エルフの里は幾つか知っているが、この子たちはそこまで持たない。この森の聖域で苦しみを抑えながら死を待つしかないのだ」
パリエットさんとホワイトフェンリルの話があまりに緊迫していて、会話に入っていけない。
だが重体なのは私にもわかる。
「あの……よろしいですか? 精霊様に頼んで治してやれるかもしれないと思うのですが」
「無駄だ。光の大精霊でもいれば別だが、お前の連れている精霊では治せん」
ウチの精霊様がやる気になっているので、ちょっと怖いけどホワイトフェンリルに話してみる。ただ、ホワイトフェンリルは見ただけで駄目だと決めつけている。
「むっ、ぼくたちはすごいんだよ!」
「でもあののろいつよいよ?」
「ねえねえ、このまえのえりくさーでさ……」
「それいいかも!」
ただ精霊様たちはホワイトフェンリルの言葉にもめげずに助ける方法を相談している。
「試してみていいですか? 精霊様がやる気になっています」
「お前は何者だ? お前からは強い聖なる力が感じられる」
「見習い精霊使いの旅人ですよ。ちょっと秘密はありますが」
「よかろう。精霊に嘘はない」
よし、ホワイトフェンリルの許可は取った。
「コータ、なにする気?」
「わかりません。精霊様がなにかやりたいことがあるからと。パリエットさんも手伝ってください。私だけだと力が足りないらしいんです」
「わかった」
正直、私には精霊様が何を言っているのかわかっても、その意味が理解出来ない。
信じるしかない。精霊様を。
「凄い。精霊が更に集まってくる」
私の精霊様とパリエットさんの精霊様に、この周囲にいる精霊様がどんどん集まってきて、周囲が精霊様だらけになっていた。
精霊様の指示通り、私は先日偶然出来たエリクサーを精霊様たちの集まっている中央に置いた。
「あれはなに?」
「エリクサーだそうです」
「えっ!?」
「なんと!?」
少し不思議な光を放つエリクサー瓶にパリエットさんとホワイトフェンリルは驚き目を見開いているが、すでに精霊様たちの踊りは始まっていた。
驚いたことに中央にいるのは、錬金の精霊様と光の精霊様だ。ふたりを取り囲むように精霊様たちが輪になって踊っている。
「これは……精霊の陣?」
パリエットさんは精霊様たちが、何をやろうとしているのかわかったようだ。ただそれを聞く余裕が私にはない。
一気に力が抜けていくのを感じる。
精霊様たちの歌と踊りが周囲の空気を一気に神聖なものにする中、私とパリエットさんは力が抜けていき跪いてしまう。
光が、神聖な気配が一気に集約していく。エリクサーの瓶に。
「できた!!」
「やった!」
「ほんとうにうまくいった!」
「すごいの!」
すべてが終わると、精霊様たちは嬉しそうにはしゃいでいた。
そしてエリクサーだった瓶が強烈な神聖なオーラを放つ謎の液体になっていた。
「馬鹿な。あれはネクタールか?」
「そんなはずはない。ネクタールは神酒。いかにエルフの陣でも精製は不可能」
あれはネクタールという神の酒らしい。精霊様たちがそう言っている。
ただ、それに気づいたホワイトフェンリルが信じられないと驚き、パリエットさんがネクタールを作るのは不可能だと言い切っている。
普通は精霊様たちでも作れないらしい。ただし例外がある。神の加護があれば可能性があったみたい。
そう。ルリーナ様の加護がある私の力を使って作ったのが真相なんだけど。言わないほうがいいよね?
「とりあえず、飲ませてみてください」
「まて、あれがネクタールだとすればその価値は途方もないぞ。人族のお前が飲めば不死となれる。ひとつで人の国が買えるぞ」
「私はいいですから。子供を助けるのは大人の役目です。そもそも精霊様たちがその子たちのために創ったんですよ」
うん。細かいことは誤魔化して話を進めようとしたが、ホワイトフェンリルがネクタールの価値を告げて戸惑っている。
ここは強引にでも飲ませてあげるべきだ。私は一度は平均寿命を全うしたんだ。今更不死や使いきれないようなお金なんか不要だ。
「……すまない」
ホワイトフェンリルと私はしばし見つめ合っていたが、ネクタールを皿にあけてホワイトフェンリルの前に置くと、ホワイトフェンリルは口移しの要領で子供に飲ませていた。
その瞬間、まぶしくて見えないほどの光がホワイトフェンリルの子供から発せられた。
「くーん?」
「わう?」
唸り声も出ないほど衰弱して苦しそうだったホワイトフェンリルの仔は、不思議そうにむくっと起き上がると辺りを見渡している。
突然苦しみから解放されて何がなんだかわからない様子だ。ただ、そんな時間はわずかだった。
「わーい!」
「やったね!」
「ぼくたちがたすけたんだよ!」
ホワイトフェンリルの仔たちはキョロキョロとして、周りに大勢集まっている精霊様たちに戸惑ってしまう。
しかも精霊様たちは一気にホワイトフェンリルの仔たちに駆けよると、揉みくちゃにするように撫でたりしてしまい、ホワイトフェンリルの仔は親であるホワイトフェンリルのお腹のほうに隠れてしまった。
「さて、帰りましょうか。あとはウルフを退治すればいいだけですよね」
「うん。ウルフなら危険はない」
時間はもうすぐ夕暮れだ。帰らないと村のみんなが心配する。
「私たちは帰る。アナタたちはどうする?」
「私も本来の住処に帰ろう。アルーサの森のパリエット。人族のコータ。本当にありがとう」
精霊様たちを落ち着かせてホワイトフェンリルとお別れだ。私もパリエットさんも仔を撫でてみたかったが、突然のことで戸惑っているから自重しよう。
パリエットさんは明らかに残念そうだ。
「だがコータ。帰る前に私の前に来い」
ホワイトフェンリルのお腹からひょっこりと顔を出してこちらを見ている仔たちに、精霊様たちがバイバイと手を振っている。
私もお別れに手を振っていたが、ホワイトフェンリルに呼ばれた。なにかお土産でもくれるのかな?
「我が名はアルティ。我が名をもって、人族コータと契約を交わす」
お土産でもと思っていた私だが、ホワイトフェンリルがなにやら呪文のように囁くと光が私とホワイトフェンリルを包んだ。
「あの……?」
「うむ。やはり契約が成立したか」
「契約とはいったい……」
『パンパカパーン! 幻獣召喚スキルをゲットしましたよ!? このスキルはかなりレアです。よかったですね~。 ホワイトフェンリルとの召喚契約が成立しました。いい子を見つけましたね。とっても可愛くていい子なんですよ! モフモフです!!』
いったいなにが起きたのかと戸惑っていたが、説明の代わりに女神様の声が頭の中に響いてきた。
女神様。まるでペットでも可愛がるような言い方は違うと思います。
「我との召喚契約だ。本来は一定以上の実力と資格が必要なのだが……。やはりお前ならば可能だったようだな。我が子の命を救ってくれた恩は決して忘れぬ。困ったことがあれば呼ぶがいい」
うん。またやらかしちゃったみたいだね。
落ち着いたらしいホワイトフェンリルの仔たちともバイバイと別れを交わして、ホワイトフェンリルは森の奥に消えていった。
「やっぱりアナタは危うい。私が付いてきて正解だった。ホワイトフェンリルの召喚は限られたハイエルフにのみ許されたもの。軽々しく言いふらしてはいけない。ネクタールのことは絶対に秘密。あれは神が降臨した際に、限られた人にのみ与えられる正真正銘の伝説の飲み物」
森にオレンジ色の夕日が差し込んでいた。
いいことをしたと気分がいいらしい精霊様たちとパリエットさんと村に帰るが、呆れたようなパリエットさんに注意されてしまった。
神様が降臨した際にか。ルリーナ様に頼めばもらえるんだろうか? でもあまり要らないかな。
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