第26話・異世界キャンプ?

 いろいろと騒がしい冒険者たちだが、私はそれよりも泡を吹いて失神した馬たちの手当をしていた。


 まあ、精霊様にお願いするだけなんだけどね。


「げんきにな~れ! げんきになーれ!」


 精霊様には癒しの精霊様がいたみたい。明るくて可愛らしい精霊様だ。


 馬の頭の近くでクルクルと回りながら踊っている。


「いや、本当に申し訳ございません。まさかワルキューレのメンバーにご迷惑をかけるとは……。そのうえ、馬たちの手当てもしていただいて、なんと謝罪とお礼を言えばいいのやら……」


 ただ、そんな精霊様の動きが見えないアレスさんたちは申し訳なさそうにしているが、同じく馬車の持ち主の商人さんも平謝りだった。


「謝罪はもう結構ですよ」


 謝罪は素直に受け入れる。ワルキューレの皆さんの評判を落とすようなことはできない。彼らはワルキューレの関係者である自分に謝罪しているんだから。


 約一名不貞腐れているが、イケメン剣士のアレスさんに拳骨を食らっているのでいいだろう。


「それにしてもスレイプニルは凄いわね」


「実はその子は、皆さんが言っていた盗賊が乗っていた子なんですよ。ワルキューレの皆さんが盗賊を退治した時に懐かれまして」


 グラマーなスタイルのヘレンさんが物珍しそうに鍋に入ったお茶を飲むスレイプ君を見ていたので、ついでにスレイプ君の正体を明かしてしまおう。


「なっ……」


「ワルキューレがゴルバを倒したのか!?」


 皆さんが絶句して不貞腐れていたニクスさんも驚きこっちを見てくる。先に声を掛けてきたのはアレスさんだった。


「ええ。そうですよ。アナスタシアさん凄かったです」


「彼女たちならやりかねないか」


 アレスさんはやはりアナスタシアさんを知っているらしい。すんなりと信じてくれた。


「いい気味よ。あいつに殺された人はたくさんいたのよ」


「そうね。ギルド内や冒険者にも仲間がいるって噂があって、みんな疑心暗鬼になっていたから」


 ヘレンさんはゴルバに恨みでもあるのか、いい気味だと吐き捨てるように告げて、サラさんは悲しむように遠くを見ていた。


 よく見ればアレスさんやニクスさんも同様だ。


「私の仲間の商人も何人も殺されました。ゴルバは女でも貴人でも皆殺しなんです。特に奴隷は足が付くからと。私も襲われましたが、アレスさんたちに命を助けられました。ただ、その時にアレスさんたちの仲間だったひとりが……」


 そうか。ゴルバを知っていた。いや、恨んでいたのか。ニクスさんが突然襲い掛かってきたのも無理はないのかもしれない。






 ガタゴトと馬車が走る音が響く。


 休憩を終えた私は商人さんたちと一緒に行くことになった。


 特に急ぐ旅ではなかったし目的地が一緒だったということもある。サラさんとヘレンさんに是非一緒に行こうと誘われて断れなかったんだよ。


「しかし魔物が出なくなったな」


「そりゃ、そうだろう。スレイプニルがいるんだ。よほど腹が減っているか、オーガのような馬鹿な奴じゃなきゃ避けるぞ」


 スレイプ君はのんびりと馬車に合わせて進む。


 ただ、眠気を誘うような天気に一切の魔物の襲撃もないことに、ニクスさんは暇そうで少しつまらなそうだ。


 なにかと不満が多そうなニクスさんだが、アレスさんは当然だと告げてその理由も知っていた。サラさんとヘレンさんはそれも考慮にいれて私を誘ったんだろう。女性は強かだね。


「今日はここで野営しますか」


「バードさんとオレは挨拶に行ってくる」


 そのままのんびりとした旅は続き、夜は草原の一角に木製の柵がある街道沿いの野営地での野宿となった。


 井戸がある野営地には先客であろう馬車が五台ほど止まっていて、徒歩の冒険者や旅人も十数人ほどいる。


 道中はたまに人とすれ違うくらいだったが、野営地は思いのほか混雑している。


 バードさんという名の商人さんとアレスさんは先客に挨拶に行き、私はスレイプ君を労うことにする。


「こーた。えるふさんがいるよ」


「むこうもきづいたの。あいさつにいくの!」


 さて夕食はなんにしようかなと考えていると、精霊様たちが騒ぎ出した。


 エルフさんとはあの人か。精霊様を三体連れている。子供のような少女がいる。


 ああ、私も今は十三歳の子供か。同い年くらいの容姿だ。


「坊主、何か用か?」


「その子は私の客」


 エルフの少女は二十代の男性と一緒だった。この人かなり強いとは精霊様の言葉だ。ほかの冒険者の人とはまったく違う、アナスタシアさんのような凄みがある。


 エルフの少女はグリーンの髪をして透き通るような白い肌をしている。男性は正反対といえるほど日に焼けていて、見たことがない黒光りする鎧を身に纏い腰には二本の剣を挿している。


 私が精霊様と一緒に近寄ると男性は精霊様が見えないんだろう。不可解そうな表情をしたが、エルフの少女が立ち上がると私の前に出てきた。


「私はアルーサの森のエルフ。パリエット」


「初めまして。コータです」


 エルフの少女パリエットさんは丁寧に挨拶してくれたので、私も深々と頭を下げて丁寧に挨拶を返す。


「こんにちは~」


「やっほー!」


 一方の精霊様同士はとてもフランクだ。ハイタッチをしながら仲良く踊っている。


 友達の精霊様なんだろうか?


「しょたいめんだよ」


「せいれいはみんながなかまで、みんなともだち」


 私の疑問に気付いた精霊様たちが精霊様同士の関係を教えてくるが、なんとも興味深いね。


「なんだ。パリエット。知り合いか? ってか、そのペンダントは……。アナスタシアのとこの坊主か」


「初めて会った。この子も私と同じ精霊使い。しかも私より優秀」


 私が精霊様たちに視線を移した瞬間、パリエットさんは男性に事情を説明していた。


 なんか抑揚のない話し方をするね。パリエットさんは。


「私はワルキューレの皆さんにお世話になっています」


「連れている精霊の数が桁違い。ハイエルフでもこんな人は滅多にいない」


「坊主すげえな。アナスタシアの秘蔵っ子か。オレはキースだ。ところでよ。坊主の連れのあれ、ゴルバの乗っていたスレイプニルだよな?」


 おお、パリエットさんは精霊様が見えるらしい。自分以外で見える人に初めて会った。


 男性はキースさんというらしい。なんというか細かいことを気にしない人のようで驚くものの、あっさりと話を変えてきた。


「はい。先日ワルキューレの皆さんがゴルバを討伐した時に懐かれまして」


「やっぱりか! 先を越されたぜ!!」


 話を聞いてみると、このふたりはどうもゴルバを倒すためにこの辺りに来たらしい。


 とても残念そうにしているキースさんに申し訳ない気持ちになる。


「すみません」


「謝る必要はねえだろ。だけど、よくあの逃げ足の速い奴を捕らえられたな!」


「精霊様が手伝ってくれたので……」


「かー、作戦も同じじゃねえか! こりゃ参ったな」


 儲け損ねたと悔しがるキースさんだが、以前にもゴルバには逃げられたことがあるらしい。


 今回は知り合いのエルフであるパリエットさんに頼み込んで、一緒にゴルバ退治にきたみたいだ。


「コータ。双剣とも知り合いだったのか?」


 キースさんとパリエットさんと話し込んでいたら、いつの間にか挨拶周りにいったアレスさんと商人のバードさんが私たちのもとに来ていた。


 アレスさんは驚いた様子で私に声をかけてくるが、やっぱり強い人は有名なんだろうか?


「いえ、初対面ですよ」


「いや、この国で数人しかいないSランク冒険者だぞ。初対面……なのか?」


 アレスさんは緊張気味だ。アレスさんはイケメンだけど、キースさんよりは強くないんだろうなぁ。


「よし、コータ。それとお前らも飲むぞ!」


 ああ、有名人だから周りが遠慮していたわけか。だがキースさんは懐から小さな袋を出すと、お酒の入った樽を出してきた。あれは私のリュックと同じものか。


 というかなんで突然酒盛りを始めようとするんだ?


 あーあ、精霊様も宴会だと喜んでいるよ。


 はいはい、精霊様たちが揃って。そんな期待に満ちた目で見なくても料理は作るよ。



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