第24話・冒険者ギルドとお出かけ

「ソフィアさん。下がって」


 新しい厳つい男が何者か知らない。


 だけど背後から突然現れて殴りつけるなんて非常識だ。精霊様も警戒している以上、私も動かないと。


 ソフィアさんは強力な魔法を使えるみたいだが、直接相手が届く至近距離での戦いはあまり得意ではないようだ。私が前に出よう。


「あー、コータ。それとスレイプ君にたぶん精霊もだろうけど、大丈夫よ。あの人はここのギルマスだから」


 ソフィアさんを庇うように前に出ると、スレイプ君が今にも厳つい男に襲い掛かりそうだったが、肝心のソフィアさんはすでにそんな様子ではなく冷静に厳つい男の正体を口にした。


「大丈夫なのですか? ここの人は信用できませんよ。誰も止めに入らないのですから」


「なかなか痛いところを突くな。坊主」


 私が警戒を解かないのは精霊様が警戒を解かないからだ。まあ前世での経験もあり、組織なんてものもあまり信用していないこともある。


 だが厳つい男は交戦の意思はないと、泡を吹いているスキンヘッドの男を無視したかのように両手を広げて示して見せた。


「だがな。考えてみろ。一般の職員にこんな男は止められないだろ? あれでも一応オレに魔道具で知らせを寄越すくらいはしたんだ。勘弁してやってくれ」


「だいじょうぶなの。てきいはないの」


「けいかいかいじょ」


「わるいひとじゃないよ」


 少し重苦しい空気を感じる中、精霊様が警戒を解いたことで私はようやく長鉈に掛けていた手を下ろして警戒を解いた。


 ギルマスさんとやらの言い訳はそのまま信じてはいない。


 ただ、悪意さえなければいい。それだけだ。


「コータ、意外に疑り深いね」


 ソフィアさんが私の対応に驚いているが、精霊様が警戒している以上それを信じただけだ。


「そのくらいじゃなきゃ、生きていけねえよな。まあ、茶でも出す。中で少し話を聞かせてくれや」


 ギルマスさんはそのまま自分で殴ったスキンヘッドの男を引きずるように冒険者ギルドの中に入った。


 ソフィアさんがそれに続いたので、私もスレイプ君にもう少し外で待ってもらうように告げると続く。




「あの馬鹿。酒は飲むなって言ったのに……」


 ボルトスという男は普段はそうでもないが、恐ろしく酒癖が悪いらしい。


 吹きとばされた気の良さそうな仲間の男の話では、何度も酒を飲んでは暴れていたことでお酒の禁止令が出ていたらしいが、止めるのを振り切って飲んでしまったところに私たちが来たようだった。


「あいつはオレがキッチリ絞めておく。それで勘弁してくれ。どのみちお前さんたちじゃ、ボルトス程度だと怪我もしなかっただろう。あのスレイプニルだけで余裕だろうよ」


 よくあること。そんな感じだった。ギルマスさんもソフィアさんも。


「そういう問題ですか? あなたが間に合わなかったら? スレイプニルがいなかったら?」


 ただなんとなく納得がいかなかった。よく知らないのにあまり余計なことを言わないほうがいいのは理解している。


 ただ酔って弱い者いじめをするような奴を、のさばらせておくのは納得がいかない部分がある。


「厳しいねぇ。確かにお前さんの言い分は間違っちゃいねえ。結局どうしてほしいんだ? 望みがあるなら聞くが?」


「別に。私は冒険者ギルドとは無関係の部外者ですから。ただアナスタシアさんたちが加入しているので期待した分、がっかりしただけです」


「お前さん、ハイエルフか?」


「いいえ、普通の人族ですよ」


 ソフィアさんや最初の村の人にクラン・ワルキューレの皆さんがいい人だから、余計にがっかりしたというのが本音だった。


 しかしそんな私を興味深げに見つめたギルマスさんは、なにか確信でもある様子でハイエルフかと口にした。


 さすがにエルフは知っている。最初の村でも間違われたので色々聞いたしね。


 だが、何故そう思ったんだ?


「そうか。なんかお前さんはヤバ気な感じがするんだよな。長年の勘ってやつだ。それに気のせいかもしれんが、雰囲気が知り合いのハイエルフに少し似てる気がする」


「ギルマス。ハイエルフに知り合いなんているの?」


「まあな。現役時代に知り合った奴がいた。虫も殺せねえような顔して、精霊を使役していたおっかねえ奴だったよ。砂漠に氷山を作ったのを見たことがある」


「コータは結構強いよ。詳しくは言わないけど」


「だろうな。その若さで強いとなるとハイエルフでもおかしくねえんだが。あいつらは変身魔法とか使うから見た目じゃわからねえからな」


 ソフィアさんがギルマスさんと話をし始めたので、私がこれ以上言うのはやめておいた。


 まあ被害はないし、言いたいことは言った。別になにかを求めていたわけじゃないからね。


 冒険者ギルドと関わる気はない。




「さあ、行こうか」


「ヒヒーン!」


 ギルドを出るとそのまま町を出て近くの森へと移動することになるが、スレイプ君は乗れと言わんばかりに待っている。


「ごめんね。私は馬には乗れないんだよ。それにふたりだし」


「ヒヒーン!」


「すれいぷくんが、まかせろって!」


「ふたりとものせてくれるって」


 スレイプ君は体格が馬と比べると大きめだ。乗ったことがない私は怖いんだけど。怖いもの知らずの精霊様たちとスレイプ君は乗せる気満々だ。


「大丈夫よ。私も付いているから。教えてあげる」


 少し渋る私だが、最終的にはソフィアさんまで勧めてくるので乗ることになった。


「ヒヒーン!」


 私とその後ろにソフィアさんを乗せたスレイプ君は、嬉しそうに声をあげて走り出した。


 ちょっと、早いよ。スピード違反並みに感じる。


 でも吹き抜ける風が気持ちいいかもしれない。


 町の周りには農家の畑があったり、街道もある。農家さんや旅人に冒険者と思われる人々が走るスレイプ君に驚き注目を集める。


「うわぁ。馬より断然乗りやすいよ。こんなに揺れないなんて信じられない」


「そうなんですか?」


「スレイプニルは空を駆けるからね。揺れないように走っているんじゃないかな」


 ソフィアさんは揺れが少ないことに驚いている。そういえば馬は結構揺れると聞いたことがあるような。


 精霊様たちは一緒にスレイプ君に掴まっていたり、頭に乗っている子もいる。ほかには周りを飛んで付いてきている精霊様も結構いるね。


「ところで、ここは先日の?」


「うん。ゴルバの拠点があった森ね。さすがに速いわ。ちょっとした散歩でここまで来ちゃうなんて」


 気持ちよさげに走っていたスレイプ君が止まったのは見覚えがある。ゴルバの拠点があった場所だ。


 草花が咲き乱れて森の精霊様たちが遊んでいる。


「こーた。またきたの!」


「いっしょにあそぼう」


「おいしいものたべたいよ~」


 どうやら薬草取りならここがいいだろうと、スレイプ君が気を利かせてくれたらしい。


 頭もいいんだよね。スレイプ君は。


 早くも森の精霊様たちに囲まれちゃった。


「あれ? また精霊が見えるわ?」


「そふぃあもいっしょにあそぼう!」


 たくさん集まってくる精霊様たちに困っていたら、何人かの精霊様が踊って魔法でも使ったのだろう。ソフィアさんにも精霊様が見えるようになったみたい。


「よし! 一緒に遊ぶわよ!」


「えっ、いいんですか?」


「いいの。いいの。精霊のおかげでゴルバを倒したんだから」


 ソフィアさんは迷う間もなく精霊様と遊ぶと告げて、精霊様たちを喜ばせていた。


 薬草取りに来たんだけどなぁ。


 まあ、こんな日もあってもいいのかな。


 薬草はいっぱい生えているし、帰りに少し取ればいいか。


 結局私とソフィアさんは夕方まで精霊様たちと一緒に遊ぶことになった。




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