第23話・調薬とお約束
私は今、ゴリゴリと薬研で薬草をすり潰している。
町に帰還して三日が過ぎた。
相変わらずクラン・ワルキューレの拠点でお世話になっている。褒賞金や盗賊の持ち物やお宝の分配が終わるまではいて欲しいと頼まれたことと、町の観光とか旅の支度とかいろいろやることもあった。
まず私が始めたのはマリアンヌさんに調薬の基礎を教わることだった。最初の村でマーサおばあさんにも簡単に教わったが、きちんと覚えたくて頼んだんだ。
この世界では聖職者が魔法と調薬を兼任するのが一般的なようで、マリアンヌさんも詳しかった。
「うん。そこにその魔石の粉を加えてもう少し続けて」
「はい」
マリアンヌさんに教わって知ったのは、この世界の薬は二種類あること。ひとつは一般的な薬で、ひとつは魔法薬という魔法の薬になる。
一般的な薬はそれこそ地域や人によってレシピが違っているので、多種多様で効果も様々なようだ。
対する魔法薬は魔法の力の宿る薬らしく、種類がある程度決まっていて正規の商品ならば品質ごとに値段が決まっているとのこと。
私が教わっているのは魔法薬のほうだ。体力回復ポーションという基本的な魔法薬らしい。
教わる過程で調薬スキルが2にあがったし、何故か錬金スキルというのを覚えた。
「こーたのおくすり。おてつだいする」
材料を調合していると、物珍しげに精霊様が見に来る。中でも大人しく引っ込み思案な錬金の精霊様は普段はほかの精霊様の後ろで見守っているだけだが、調合をしているとやってきて手伝うと言って踊ってくれる。
錬金の精霊様が手伝ってくれると、何故か魔法薬の完成度が劇的にあがることがマリアンヌさんとの検証ではっきりした。
私がひとりで作れるのはDランクの市販する中では最低ランクの体力回復ポーションだが、精霊様が手伝うとBランクと言う大きな町でなければ手に入らない貴重なポーションになる。
ちなみに一度だけほかの精霊様も一緒に手伝ってくれると言うので、例によってみんなで踊って手伝ってくれたのだが。何故かエリクサーという伝説クラスの回復薬ができてしまったので自重してもらっている。
ダンジョンというところで年に何本か見つかるらしく、完全な伝説ではないのだが、それがあれば欠損した体の復元や寿命が延びるので、売ればいくらでも値が付くという代物。
一応エリクサーのレシピも教会にはあるらしいが、素材がまた貴重なものばかりで滅多に集まらないことに加えて、調合難易度が高すぎて誰も手が出せないらしい。
エリクサーは持っているだけでも狙われることもあるほど危険なので、誰にも作ったということは言わないようにと何度も念を押されて、クーラーボックスの冷蔵庫のところに入れておいた。
「あっ……」
何故か嬉しそうに踊る錬金の精霊様だったが、なにもないところでつまずいて転んでしまった。
するとその瞬間に混ぜていた薬がボンと小さく爆発して、真っ黒なごみになってしまった。
「ごめんなさい」
転んだ錬金の精霊様は真っ黒になった薬を見て、瞳をウルウルとさせると申し訳なさそうに謝ってくる。
これは精霊様が失敗したせいなのか? 私が失敗したせいなのか?
「気にしなくていいよ。私もまだ勉強中だから。一緒に頑張ろう」
「うん!」
どちらにしても気にしなくていい。失敗は誰にでもある。お手伝いするとはりきっている精霊様に、調合の勉強中だから要らないとは言えないしね。
一緒に頑張ろうと言うと立ち上がり喜んでくれた。
「コータ。薬草取りにいかない?」
調合の勉強もひと段落して休憩をしていると、ソフィアさんに薬草取りに誘われたので行くことにした。
スレイプニルのスレイプ君も走りたいようだしちょうどいい。
ちなみにスレイプ君の命名は精霊様だ。なんとなく私もスレイプ君と呼んでいると、クラン・ワルキューレの皆さんもそう呼ぶようになった。
「ようし、いこうか」
「ヒヒーン!」
走るぜとやる気をみせているスレイプ君には悪いが、そんなに遠出する予定はない。
町から一番近い林に薬草取りに行くだけだ。
ソフィアさんと一緒に屋敷を出る。
ついでに冒険者ギルドで依頼がないか確認するというので、ギルドに来たんだが……。
職業斡旋の組合のようなものだと思ったのに、中は酒場があってお昼前なのにお酒を飲んでいる男たちがいる。
けしからん。いい若い者が昼間からお酒を飲むなんて。働け。
「てめえ、今ソフィアと一緒だったガキだな」
あまり関わり合いにならないようにと、仕事が書いてある紙を貼っている掲示板を見ていたが、お酒を飲んでいた男たちのひとりがわざわざこっちまで絡んできた。
年の頃は二十代だろうか。筋肉ムキムキの筋肉だるまのようなスキンヘッドの男だ。
「そうですが、なにかご用でしょうか?」
人を小ばかにしたような笑みを浮かべる男に精霊様たちが騒ぎだした。
お願いだから踊らないで。こんなクズのために騒ぎは御免だ。
「調子に乗ってんじゃねえぞ?」
「おい、やめろって。ギルマスに殺されるぞ! 悪いな坊主。こいつ酒癖が悪くてな」
私は調子に乗っていたのか? でも少し気の良さそうな仲間の男は申し訳なさげに謝ってくる。
酒癖が悪い奴って、この世界にもいるんだなぁ。
「てめえは邪魔だ!」
少し気の良さそうな仲間の男は魔法使い系だろうか。細身で荒事が得意そうではない。可哀そうにスキンヘッドの男に吹き飛ばされて壁にたたきつけられてしまった。
「大丈夫ですか?」
私は吹きとばされた気の良さそうな仲間の男に慌てて駆け寄るが、その隙にスキンヘッドの男がやってきて今にも殴り掛かってきそうだった。
「ちょっと、ボルトス! ウチのコータになにしてんの!!」
周りでは精霊様が今にも踊り出しそうな雰囲気だったが、一触即発の中で止めに入ってきたのは受付でなにか手続きをしていたソフィアさんだった。
「ああっ! 生意気なんだよ。そのガキもてめえらも!」
うん。ろくでなしなのはよくわかった。
「やるなら相手になるわよ! 消し炭にしてあげるわ!!」
「ああっ? 魔法なんか使わせる時間やるわけねえだろが!」
どうでもいいが、何故ギルドの職員は止めに入らないんだろう。みんな見て見ぬふりをしている。
でもこのスキンヘッドそんなに強いの?
「ヒヒーン!!」
そのままスキンヘッドは私とソフィアさんと決闘だと外に出ると、馬や従魔の待合スペースにいたスレイプ君がオレもやるぞと意気込んでやってきた。
「スレイプニルだと! なんで貴様らがそれを連れているんだ!」
「ゴルバを倒した時にコータが従魔にしたのよ! なんか問題ある?」
「ゴルバを倒しただと! 貴様ら小娘が嘘をつくな!!」
「そんな嘘つくわけないじゃん! あんたじゃあるまいし! ゴルバを追い詰めたなんて嘘つくのあんただけよ!!」
周りでは冒険者だろう。どっちが勝つかで賭けをしてる。
なんか昔を思い出す。ろくでなしなんだろうね。
「ぶっ殺してやる!」
「ソフィアさん。殺してもいいんですか?」
「あー、一応殺さないようにお願い。スレイプ君も精霊たちも」
武器として腰に差していた斧を抜くと、鼻息荒くドシドシとこちらに向かってくる。
ソフィアさんは怒っていたが、私を見て少し冷静になったらしい。精霊様が動けばシャレにならないと理解しているんだろう。
最早止められない。止める気もないが。この手の輩は下手に出れば付け上がるだけだ。
さっそく踊り出そうとした精霊様だが、ふと気づくとスキンヘッドの男ではないその先に視線を向けていた。
「こーた! つよいひとくるの!」
「けいかい!」
「すれいぷくん! こーたをまもって!」
やはり精霊様とスレイプ君は、スキンヘッドなんか見てなかった。
スキンヘッドの後ろに警戒心を露わにして精霊様たちは踊りだす。
「ボルトス!!」
現れたのは、厳つい悪役か盗賊のような男だった。
しかも速い。ゴルバを倒した時のアナスタシアさんよりは遅いが、明らかに並みの人間に出せるスピードじゃない。
厳つい男は、ボルトスと呼ばれている私たちに迫っていた男の頭に思いっきりげんこつを叩きこんでいた。
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