第16話・コータ、ようやくスキルの使い方を知る
朝だ。気持ちのいい朝だ。
今日も精霊様たちと一緒にラジオ体操をしているが、知らない精霊様が何人か加わっている。
そもそも精霊様たちは自由だ。近くにいる精霊様が一緒にいたり、いつの間にかいなくなっていたりする。
最初から一緒にいる精霊様は毎日一緒にいるが。
「コータ。教会に行くけど一緒に行く?」
ラジオ体操が終わるとマリアンヌさんが教会に誘ってくれた。マリアンヌさんは元シスターという異色の経歴を持つらしい。
神聖魔法という神の力を使う魔法を使えるんだとか。
「はい。行きます」
「それにしても凄いわね。旅の疲労もすっかりなくなっているわ」
クラン・ワルキューレの屋敷から教会は歩いて十五分ほど。朝食前の散歩にはちょうどいい。
マリアンヌさんはご機嫌というか、昨日の精霊の宴という奇跡のおかげで疲労が吹き飛んで、体調もお肌も絶好調だと朝から皆さんが喜んでいる。
ちなみに精霊様たちは楽しい夜を過ごしただけで、そんな奇跡を起こすつもりはまったくなかったらしい。
中にはそんな効果があったことを知らなかった精霊様もいる。
「うわぁ。立派な教会ですね」
「当たり前でしょ。それなりに大きい街には教会はあるわよ。非常時はここが避難所なの。だからそこいらの建物より堅固なのよ」
教会は西洋の宗教を思い出させる教会だった。
宗教に関してはこの世界は神様が実在するので、地球とはだいぶ感覚が違うらしい。
多神教であり種族や国によって崇めている神様は違うらしいが、宗教間の争いは基本的にはないとのこと。
ただし信仰する神様によって信徒の規模や数に違いがあって、勢力争いのようなものは多少はあると昨日の夜に教えてもらった。
ちなみに精霊様もエルフや妖精族は信仰の対象でもあるらしい。
「おや、マリアンヌ。聞いたよ。あのスレイプニルのゴルバを退治したそうじゃないか」
教会はまだ早朝ながら、お祈りにきた人が何人もいた。
壮年の神父様が出迎えてくれたが、マリアンヌさんの顔を見るとお祈りに来ていた人や教会の関係者にすぐに囲まれてしまう。
「はい。これで被害者たちが悔いなく、天に召されることを祈りたいと思います」
マリアンヌさんはあの盗賊の被害者のために祈りに来たのか。その言葉に涙を浮かべている人がいる。
教会の中は特定の像などない。多神教ゆえに、自分の信仰する神様に祈るんだそうだ。
私はルリーナ様に祈ろう。おかげさまで毎日が充実してる。
「おや? 幸田さんじゃないですか? ああ、教会に来てくれたんですね」
マリアンヌさんの仕草を真似て祈りを捧げたその瞬間、周囲の景色が変わった。
ここは異世界に行く前に来た女神様のところだ。周りが花畑に囲まれていて、そこに不釣り合いの整理されてない机がある。
「お久しぶりです。ルリーナ様」
「第二の人生、楽しんでいますか?」
「はい。おかげさまで」
「うんうん。よかったです」
どういう仕組みかわからないが、久しぶりに会ったルリーナ様に少しホッとした。
「あれ……、でも幸田さん。ずいぶんレベルが上がっていますね? なにかしました?」
「えっと……」
そういえばメニュー画面の使い方を聞こうと思っていたことを思い出したが、それを聞く前に女神様が不思議そうに首を傾げた。
名前:幸田聡志 年齢十三歳
レベル:6
HP:230 MP:100
レジェンドスキル
【キャンプ】レベル1
スーパーレアスキル
【隠匿】レベルMax
レアスキル
【異世界言語】レベルMax・【丈夫な体】レベルMax【精霊召喚】レベル1
ノーマルスキル
【採取】レベル1・【釣り】レベル1・【解体】レベル1・【料理】レベル1【精霊魔法】レベル1【剣術】レベル1【調合】レベル1【植物鑑定】レベル1【テイム】レベル1
称号:ルリーナの使徒
加護:ルリーナの加護
「そうだったんですか。頑張りましたね」
私は女神様と別れたあとのことを話していたが、女神様は時折私のことを見守ってくれていたようだが、オーク退治や盗賊退治などは知らなかった。
「それでですね。メニューの使い方を教えていただけたら……」
まるで子供のように頭を撫でてこられるのは少し恥ずかしい。
ただ、この機会にメニューの使い方は聞いておきたい。
「OH……」
やっぱり頭を抱えられたか。
「普通に指でタッチすると使えますよ。画面をタッチしての操作は常識だと思ったのですが……」
「すみません。機械類はちょっと弱くて……」
見えない画面に指で触れられるのか。これは盲点だった。ハイテクだなぁ。
「あと設定次第では思考で意識するだけで操作できるようにもなるんですが、幸田さんは得意そうでないので設定をオフにしていたんですよね」
指で触れられるのは簡単でいい。
ほかのやり方は難しそうなのでこれでいいだろう。
「あー、ついでに教えておきますね。あなたのクーラーボックスは時間が止まっています。中の物は腐敗しないので、生ものはとりあえず入れておけばいいです。それとスキルなんですが……」
ふむふむ。クーラーボックスの中は腐らないのか。
「これです。【キャンプ】スキル。せっかく作ったのにつかってないじゃないですか!」
女神様はキャンプスキルを使ってないことに少しプンプンと怒っている。作るのが大変だったらしい。ごめんなさい。
さっそくキャンプスキルを見てみよう。
キャンプスキルレベル1
買い出し・キャンプに必要な品物を買える
セーフティーエリアの発動・キャンプ中は敵意を持った存在が周囲に入れない。※セーフティーエリアの広さはスキルレベルに依存します。
おお、これは便利だ。画面に商品の一覧がある。お金はあの世界のお金が使えるらしい。
それとキャンプ中は魔物に襲われる心配がないのかぁ。
「これは便利ですね」
「そうなのですよ! あの世界で安全に楽しいキャンプをするために頑張ったんです!!」
あっ、コンソメスープの素があった。これを試しに買ってみよう。銅貨二枚か。高いのか安いのかわからないが、構わないだろう。
「買いましたよ。商品はいつ届くのでしょう?」
「翌日にはリュックかクーラーボックスの中に送ってあげますよ。私が地球の世界から買って送ってあげるんですから」
なるほど。このスキルは女神様に注文を届けるスキルなのか。お金はがま口の財布から抜かれるらしい。
それにしても、いろいろな商品があるなぁ。カップラーメンもある。キャンプでカップラーメンとか必要なんだろうか?
「ひとりキャンプでは簡単なカップラーメンが定番なのです。ちゃんと調べました。高校生の女の子が食べていました!」
ああ、この場所だと心が読めるのか。ふと思った疑問を聞く前に答えてくれた。
カップラーメンでお勧めがカレー麺になっている。女神様の好みかな?
「これで大丈夫ですね。まさかメニューが使えなかったとは。びっくりです」
「お手数おかけしました」
「はい、頑張って楽しい人生を送ってください」
一通り話を終えると、私はもとの教会に戻っていた。
随分と話し込んでいたはずだが、こちらの時間はあまり経過していないらしい。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
お祈りを済ませたマリアンヌさんと一緒にクラン・ワルキューレの家に戻る。
「そういえばコータ。あなたどの神様に祈っていたの?」
「ルリーナ様です」
「……変わってるわね」
朝の清々しい空気を感じながら精霊様たちに囲まれての帰路であるが、ふとマリアンヌさんの問いかけに答えると、何故か驚かれた。
「そうですか?」
「純真無垢の神様だからね。神話でも一番若い子供の神様だって言われているくらいだもの」
ルリーナ様、純真無垢の神様って言われてるのか。
マリアンヌさんは元シスターらしく言葉を選んでいるが、若くて無垢な分だけあまり神格が高くないようで信仰してもたいした力が得られないんだとか。
あんなに頑張っているのになぁ。
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