第14話・異世界の町

「あれがフルーラの町ですわ」


 見えてきたのは高い石の壁で覆われている町だった。フルーラという町らしい。


 なんというか日本なら刑務所かと言われるような高い石の壁に囲まれている。


 先ほど商人の馬車が盗賊に襲われていたのは、ここから僅か半日ほどの場所だった。ここが世界一安全な国だと言われた日本ではないと改めて実感する。


 あれから襲われていた商人の男性と共にここまで来ている。盗賊の討伐の報告もあるが、とりあえずは私とクラン・ワルキューレの皆さんの目的の町でもある。


 町に近づくに従って旅人は増えている。みんな武装しているのはやはり危険だからだろう。


 私はキャンパーのような服装だ。周りは映画で見た中世ヨーロッパのような姿が多い。はっきり言えば私は少し浮いているのかもしれない。


「アナスタシアさん、おかえりなさい」


「ええ。ただいま。悪いけどちょっといいかしら?」


 町の入り口では旅人が列を作り、町に入るのを待っている。町に入るのにチェックがあるようだ。


 クラン・ワルキューレの皆さんは有名なんだろう。いろんな人に声を掛けられていて、私たちの順番がくると兵士らしき男性がやってくる。


「本当ですか!?」


「そんな冗談言わないわよ」


 アナスタシアさんは兵士らしき男性になにかを告げると、驚く男性に苦笑いを浮かべて答えている。


 私たちと商人の男性の馬車は町の門をくぐるが、そのまま兵士の屯所だろうか。そこに案内されていく。


「ブルルル!」


 スレイプニルと言ったか。八本足の馬も一緒だ。どうも精霊様が気に入ったらしく先ほどから乗って遊んでいる。


 私は特にやることもないので、馬たちとスレイプニルに水をあげよう。


「こーた、これとって~」


「これ、いやなんだって!」


 ゴクゴクを美味しそうに水を飲むのを見ていると、精霊様たちはスレイプニルの手綱を外そうとしていた。


「うーん。少しならいいか」


 よくわからないが、精霊様たちの頼みは聞いておこう。口の器具とか手綱をなんとか外してあげよう。


「ちょっと、コータ!? なにやってんの!?」


「危ないって!!」


 手綱を外したスレイプニルは嬉しそうに精霊様たちと戯れていたが、兵士の人たちと話をしに行っていたクラン・ワルキューレの皆さんが戻ってくると、信じられないと言わんばかりの顔をされる。


「よしよし、いい子だな」


「ブルルン!」


 なにが危ないんだろう。勝手に手綱を外したからか? でもこの八本足の馬は大人しいけど。


「スレイプニルって、あんなに大人しかったっけ?」


「まさか。Bランクの魔物よ」


 うん? やはり手綱を外したのが驚かれた原因らしい。


『パンパカパーン! テイムスキルゲットしました! 魔物のお友達ができたですね! ご飯はちゃんとあげないと駄目ですよ~。テイム成功です! 初めての魔物はなにかな? スライムとか可愛いですよ!』


 そこにゴブリン退治以来の女神様の声が聞こえてきた。


 ちょっと待って。テイムってなに? 魔物のお友達? まさか……。


「どうしたの?」


「ああ、リーダー。あれ……」


 このスレイプニルって八本足の馬。盗賊の馬なんだけど。まずい。友達になったという謎のアナウンスが……。


 なんと言おうかと迷っていると、アナスタシアさんが最後に戻ってきた。


「コータ。あなた、まさかスレイプニルをテイムしたの?」


「いえ、精霊様が外してほしいって伝えてきたので、外したら懐かれちゃって……。テイムとはなんでしょう?」


 困ったが嘘をつくのは性に合わない。素直にごめんなさいと頭を下げて事情を話すものの、やはりクラン・ワルキューレの皆さんに信じられないと言わんばかりの表情をされた。


「ふう、まあいいわ。このスレイプニルもこちらでもらっていくわ。いいわよね?」


「はい。戦利品ですし、構いませんが……」


「大丈夫よ。町には迷惑はかけないわ」


 結局アナスタシアさんが、スレイプニルを引き取ることで兵士に話してくれたようだ。


 スレイプニルには従魔の証となる首輪をつけてもらって、町に入れるらしい。


 そうそう町に入るには身分証が必要なんだそうだ。パスポートみたいなもんか。私の場合は女神様が用意してくれたもので入れるようだ。


 何故かクーラーボックスの冷蔵室にお肉と一緒に入っていたけど。


「コータ。スレイプニルも知らなかったでしょう?」


「はい。初めて見ました」


「スレイプニルって、本当はかなり強い魔物なのよ? 魔法も使うし空も飛ぶって話だし……」


 そのまま手続きが終わると町に入ることができた。


 スレイプニルは賢いらしく、黙って私たちの後ろをついてくる。精霊様が今も楽しげに乗っているので大丈夫だと思うけど。


 ただ、少し呆れた様子のソフィアさんがスレイプニルについて教えてくれた。


 そういえば地球の神話かなんかにも八本足の馬がいたような気が……。


 関係あるのかな?


「本当だ! スレイプニルだ!!」


「アナスタシアさん! スレイプニルのゴルバを倒したというのは本当ですか!」


 そのまましばらく歩いていくと、スレイプニルは町の人の注目を集めていた。


 なんか本当にヨーロッパのような景色の町だ。公共放送で見たヨーロッパの紀行番組を思い出す。


「本当よ。すぐに首が晒されるはずよ!」


「あの野郎が死んだぞー!」


「ワルキューレ、ありがとう!!」


「ワルキューレ、バンザイ!」


「これで亡くなった連中が浮かばれるな」


 まるでパレードでもしているように、あっという間に町の人に囲まれてしまった。


 危ないのでスレイプニルの首をなでながら私たちは進むが、あまりの人の多さに身動きがとれなくなる。


 精霊様は何事だと不思議そうにキョロキョロしているね。




「ふー、疲れたわね!」


 結局私たちはしばらく囲まれていたが、兵士が来て群衆を解散させることで移動した。


 そのままこの町にあるクラン・ワルキューレの皆さんが拠点としている、お家というかお屋敷に来て一息つくことができた。


 アナスタシアさんたち数人は盗賊討伐の手続きなどがあり、すぐに出かけていったが私は特に必要ないらしく宿でゆっくりしている。


「金貨三千枚だっけ? 当分遊んで暮らせるわよね」


 ソフィアさんたちは武具の手入れなどをしながら盗賊の話で盛り上がっていた。


 金貨一枚はいくらなんだろう。


 そうそう、私の所持金はリュックの中にあったみたい。村にいた時にいろいろ確認してみたら、がま口のお財布に金貨が十枚入っていた。


 無駄遣いしないようにというメモが一緒に入っていたところをみると、女神様が用意してくれたらしい。


 あとは村を出る前にゴブリン退治とマーサおばあさんを助けたお礼として、銀貨を何枚か貰った分がある。


「コータ。どこに行くの?」


「教会に行ってきます」


「あー、今日はやめておいたほうがいいかも。明日にでも案内してあげるよ?」


「そうね。さっきの騒ぎで目立っちゃったし。落ち着くまでは大人しく待っていようね」


 女神様のことを思い出したので、教会に行ってお礼を言おうと思ったのにソフィアさんたちに止められた。


 なんだろう。トラブルメーカーみたいに思われているような気がするのは、気のせいだろうか?


「こーた、おなかすいた~」


「すれいぷくんも、おなかすいたって~」


 納得できない部分があるが、言い訳しても仕方ないか。精霊様たちがお腹が空いたというので夕食の支度をしよう。


 八本足の馬はなにを食べるんだろうか?


 人参でいいのかな?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る