第9話・女性冒険者たちとの冒険?

「初めまして。私はクラン・ワルキューレの代表を務めさせていただいております。アナスタシアと申しますわ」


 ベスタさんが出発してから五日ほどか。ベスタさんが仲間を連れてきた。


 全員女性ばっかりで五人になる。


 金色の髪をしていて、スタイル抜群なリーダーのアナスタシアさん。動きやすさを優先なのか少し露出度が高い服だ。


 それとシスターのようは服を着たマリアンヌさん。ビキニのようなきわどい姿をしたベスタさん。このふたりもなかなかスタイルがいい。みんな外国人のモデルさんみたいだ。


 あとは小柄でナイフのような武器を持っているアンさんと、魔法使いのソフィアさんの計五人。


 この数日、私はソフィアさんから色々聞いていた。冒険者ギルドとは派遣会社のような組織で、クラン・ワルキューレとは、そこに所属する冒険者による組合のようなものらしい。


 女性による女性だけの組合がクラン・ワルキューレだそうだ。


 個人の力が左右する業界らしく粗暴なものも少なくないようで、特に若い女性は男の冒険者になにをされるかわからない。


 そんな女性の救済へと立ち上がったのが、リーダーのアナスタシアさんだそうだ。


 この国の侯爵家の庶子のひとりだそうだが、母親が平民なので冒険者となったのだとソフィアさんが言っていた。


 ただ父親である侯爵との関係は良好らしく、クラン・ワルキューレの後ろ盾なんだそうだ。


「初めまして。コータです」


 アナスタシアさんは上流階級の生まれなんだなと感じる気品がある。金色の髪も美しいが、身だしなみや所作が違うのはなんとなくわかる。


 そうそう、私はこの村ではコータと呼ばれている。本当は幸田が苗字なのだが、最初に幸田とだけ名乗ったせいもあって、それが名前だと誤解されたのでそのまま名前にした。


「かわいい子じゃん!」


「エルフみたいだね」


「この子もらっていいの!?」


 ただ私は挨拶もそこそこに、やってきた彼女たちに囲まれてしまった。


 アナスタシアさんは落ち着いた女性のようだが、ほかの女性は違うらしい。これも文化や歴史が違う異世界ならではなんだろうか?


 だがいい歳をした老人が可愛いと言われるのは抵抗がある。そもそも私はそんな容姿ではない。


 地球でも国や地域で違いがあったと聞くが、異世界は美的感覚も違うんだろうか。




「さあ皆さん、先に仕事を片付けますわよ」


 若い女性たちに囲まれて多少の役得も感じられたが、アナスタシアさんの言葉でゴブリン対策の話し合いになる。


 村長さんの家でクラン・ワルキューレのメンバーと村長さんと私での話し合いだ。


「ソフィアさん。ゴブリンの様子は?」


「現状に変化はありません。コータと一緒に偵察と森をうろつくゴブリンの討伐は少ししたのですが……」


 アナスタシアさんが中心になって話をする。


 だけど、彼女たちの報酬は誰が出すんだろう。ゴブリンの討伐は冒険者ギルドでは褒賞金があるらしいが、基本的には弱いので報酬が少ないと言っていた。


 私とソフィアさんは一日一回ゴブリンの巣を偵察して森で少数のゴブリンを狩っていたが、広い森では数がそう簡単に減るはずもない。


「では、さっそく討伐に行きましょう」


 話し合いは順調に進んだ。私は話に興味がない精霊様たちに遊ばれながら聞いていただけだが。


 そうそう、報酬は村で出すらしい。


 先日のオークの皮や肉などが売れたようで、それで払うようだ。




 森に入るとクラン・ワルキューレの人たちが、それぞれに役目を持って確実に進んでいた。


 偵察する人や戦う人など役目が決まっているらしい。


 というか私が来る意味はあったんだろうか? なにもしてないし、要らない気もする。


 ただ森に来ると精霊様たちが薬草や果実を取ってきてくれるので、無駄ではないが。


「ねえ、なにするの?」


「せっかくなのでスープでも作ろうかと思いまして」


 いつもの湧水スポットでこの日は昼食となる。せっかくなので皆さんにスープを作って振舞うことにした。


 私を含めて十二人分なので、キャンプ用に大型コンロと大きな鍋で作ろう。野菜は村から持ってきたものだ。森も薬草や果実と交換で手に入れたんだ。


 肉はオークの肉。人型の生き物の肉には多少抵抗があるが、私は知らないうちに村長さんの家で出された食事として食べてからは気にしないことにしている。


 ここの湧水は美味しいのでそれを使って、コンソメスープの素と塩コショウで味付けするシンプルなスープだ。


 野菜と肉は細かく切れば煮えるのも早い。


 いつの間にか静かになったクラン・ワルキューレの皆さんがじっと鍋を見ていた。お腹が空いたのだろうか?


「冷めないうちにどうぞ」


 何故かポカーンとしている皆さんにスープを渡していくと、精霊様たちにもスープをあげる。


「……ありがとうございます」


 ソフィアさんとベスタさんは少し呆れた表情をしているが、なんか失敗したか?


 アナスタシアさんが我に返ると、全員にスープが行き渡るのを確認して神に祈りを捧げての昼食になる。


「えっ!?」


「なにこれ!?」


「なんでこんな味になるの?」


 精霊様たちは美味しいと素直に喜んでくれたが、クラン・ワルキューレの皆さんは一口飲むと驚き騒ぎだした。


 味見はしたよ。美味しいと思うんだけど。味覚が違ったかな?


「少し味が薄かったですか?」


「そういう問題じゃないって!」


 不味いという感じではない。顔をしかめているわけではないので。あとは味が薄いかと塩コショウをお好みでと言おうとしたが、そんな私に数人のメンバーから反論があった。


「まるで何時間も煮込んだようなこの味。侯爵家のスープにも負けていませんわ」


「王都の馬鹿高い店より美味しい」


「はっ、あなた。やっぱりエルフね! 見た目通りの年齢じゃないのよ」


「エルフの料理人?」


 固い黒パンもこのスープに浸して食べると柔らかくなるし、味が染みて美味しい。


 私は食べながら精霊様たちがお代わりしたいというので、お代わりを精霊様の小さな皿に盛り付けてあげていると、クラン・ワルキューレの皆さんが勝手な憶測で盛り上がっていた。


「いえ、ただの旅人ですよ」


「それはない!」


 いつの間にか何者なんだと視線が集まっていたが、私はただの旅人です。


 嘘じゃないのに、なぜ皆さんは一斉に否定するのでしょうか?


「ねえ、コータ。彼女とかいるの?」


「今夜一緒にお酒でも……」


「ちょっと、抜け駆けしないでよね!」


「なによ。顔良し、性格良し、精霊に愛されていて、そのうえ料理が上手い。こんな人は、ほかじゃいないわ!」


 おおっ!? いつの間にか周りにクラン・ワルキューレの皆さんが、じわりじわりと近寄ってくる。


 何故か身の危険を感じるような……。


 いや、女性にモテて悪い気はしない。それは確かだ。ただ、どうしたらいいのだろう?


 モテた経験がない私にはわからない。


「こーた、こーた。みるくてぃがのみたい!」


「わたしはくだものがたべたい」


 ふと精霊様に助けを求めるように視線を向けたが、精霊様たちはどうかしたの? と言いたげにそれぞれが自由にしている。


 異世界では女性は積極的なのか? それとも日本でもそうだったのか?


 私にはわからない。でも、そういえば日本も変わったからなぁ。私が若い頃とはまったく違う世の中になっていた。


 とはいえこの状況は困ったな。


「あなたたち、その辺にしておきなさい」


 おおっ、ここでアナスタシアさんがじわりじわりと近寄ってくる皆さんを止めてくれた。さすがはリーダーなだけはある。


「そんなこと言って、抜け駆けは嫌ですよ?」


「しませんわよ」


「でも、アナスタシアさん小さい子が好きですよね?」


「人聞きの悪いことは言わないでください。私は子供たちが健やかに育つようにと考えているだけですわ!」


 ただそんなアナスタシアさんが、今度はほかの人たちにいろいろ言われている。


 異世界の女性同士の会話とはこんなものなのだろうか。


 いや、悪いとは言わない。


 でも……。


 異世界とは本当に難しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る