第8話・村での日常

 ベスタさんが町に行った翌日、私はまだ村に滞在していた。


 ゴブリン討伐に協力してほしいとソフィアさんに頼まれたんだ。戦力というよりは精霊様の索敵を期待されているようだ。


「これは毒によく効く。乾燥させて煎じておけば日持ちもするでな」


 この日はマーサおばあさんのお見舞いに来たんだけど。


 初日にキャンプした場所で精霊様が持たせてくれた植物が結構あって、それを見せたら使い方とか教えてくれたんだ。


 どうもかなり貴重な薬草がたくさんあるらしい。


「これはいつ採ったんじゃ?」


「一昨日です。マーサさんに会った日の朝です」


「うむ……、まるでついさっき採ったような新鮮さじゃな」


 きちんと保存しないと駄目だと叱られたけど、マーサおばあさんはリュックから取り出した薬草を見て不思議そうに首を傾げた。


 でも私に聞かれても困る。精霊様がなんかしてくれたんだろうか?


「こーたのかばんはしんきなの」


「るりーなさまのちからですごいかばんなの」


 ちらりと視線を向けると、マーサおばあさんの家を興味津々な様子で探検していた精霊様たちが答えてくれた。


 しんきとはなんだろうか? 神器? まさかね。


 ただ薬草が新鮮なのはルリーナ様がなんかしてくれたのが理由らしい。



『パンパカパーン! 調合スキルを獲得しました。植物鑑定スキルを獲得しました。調合はいいのですが、幸田さんは病気にかかりませんよ? 人助けですか? あなたを選んだ私偉い! 植物鑑定はキャンパーさんの基本ですね! でも見知らぬ植物は鑑定できないので勉強しましょうね~』


 そのまま私は薬草類の保存方法と簡単な薬の作り方の基礎を教わって、大変だという掃除をしてあげていたら、また女神様の声がした。


 私は病気に罹らないんだ。何故だろう?


 でも健康は大切だ。年を取るとしみじみと実感する。女神様に感謝しよう。


「おやまあ。これはいったい……」


「凄いですね」


「おかしいね。今朝はこんなに育ってなかったのに。精霊様が来てくれたのかね」


 そろそろ夕方だ。私もお世話になっている村長さんの家に帰ろうしたら、マーサおばあさんの家の庭がまたお花畑と植物園のようになっていた。


 お花畑では精霊様たちが遊んでいる。


「精霊様がですか?」


「そうじゃ。精霊様が祝福を下さった土地は、子々孫々まで草木が咲き乱れると言われておる」


「そうなんですか……」


 祝福と言われると凄いことなんだとわかる。でも精霊様たちはマーサおばあさんの家で遊んでいただけだと思う。


 ソフィアさんにはあまり精霊様が見える話は人にしないように言われている。


 マーサおばあさんならいいんだろうけど、レアな能力は人に知られると危ないんだそうだ。


「コータや。精霊様にお礼を言っておいておくれ」


「はい」


 でもマーサおばあさんには、ばれている気もする。


 そんな優しい表情だった。お互い歳を重ねているからね。なんとなくわかる。




 翌日は子供たちとネズミ退治をする。


 このネズミ退治は実は村の伝統らしい。畑を荒らすネズミをそれなりに大きくなった子供が遊びを兼ねて退治するんだって。


 それでレベルを上げて大人になるみたい。


 そもそもレベルってなんだろうと聞いてみたが、強さの目安だとソフィアさんに教わった。


 若い頃にテレビゲームでレベルを上げると誰かが言っていたのを覚えているが、そんな感じなんだろうか?


 そうそう。魔石というものが売るとお金になるのがわかった。ネズミの魔石は子供の小遣い程度らしいが、オークの魔石だと高値で買ってくれるらしい。


「コータ。森の様子を見に行きたいんだけど、付き合ってくれない?」


「はい。いいですよ」


 お昼の少し前くらいになると、ソフィアさんに頼まれて森に行くことになった。


 お弁当を持って今日はふたりでゴブリンの様子を見に行く。


「おっ、ソフィアとコータ。デートか?」


「違います!!」


「わかってるって。あんまり遅くなるなよ」


 村の入り口ではニヤニヤとした壮年のおっさんにからかわれてしまい、ソフィアさんが顔を赤らめて否定しているが、歳を取ればそれがただの挨拶なのがわかるので私は気にしてない。


 ソフィアさんは器量がいいし、魔法使いとしても将来有望らしい。いい人を見つけて幸せになってほしいものだ。



 森歩きも慣れてきた。


 一般的には危険だというが、私の場合は精霊様がいるから大丈夫らしい。


 精霊様が採ってきてくれる薬草や果実が私の手元に溜まっていく。


「ねえ。その変わった形の背負い鞄。まさかマジックアイテムなの?」


 適度に溜まったのでクーラーボックスをリュックから取り出して中身を入れると、ソフィアさんが引き攣った顔をしている。


「マジックアイテムですか? 恩人から貰い受けたものですから詳しくは……」


「絶対そうよね。見た感じと容量が違うもの。それも人前ではあまり使わないほうがいいわ。マジックアイテムの鞄って高価なのよ」


 そういえば昨日精霊様が神器と言っていたが、人間はマジックアイテムと呼ぶのか。


 貴重なものなのは理解していたが、人前で見た目以上のものは出さないほうがいいみたいだ。


 というか秘密にしなきゃいけないこと多くない? 女神様そんなこと言ってなかったなぁ。


 まあそのくらいは言われなくても理解するが。


 日本だって同じだ。騙し騙されることがいくらでもある。私も騙された経験を何度も繰り返してようやく学んだ。


「このお茶、美味しいわね。でもいいの? 貴重なんじゃ……」


 先日と同じ湧水が湧いているところに着くと、今回もコンロとケトルでお茶を沸かしてティータイムにするが、このコンロも魔道具扱いになるみたい。


 紅茶も似たようなものはあるが、味が全然違う高級品のようだ。女神様はお金持ちなんだろうか?


「気にしなくていいですよ」


 申し訳なさげにしつつ嬉しそうに砂糖とミルク入りの紅茶を飲むソフィアさんを見ながら、私はふと女神様がメニューに説明があると教えてくれたことを思い出す。


 何度かメニューを開いてみたが、まだちゃんと見ていない。


 正直言うと使い方がよくわからないんだ。これテレビのリモコンとかパソコンのマウスのようなものがないと、操作が出来ないのではないのだろうか?


 精霊様に聞いてもこれはわからないらしいし。


「コータは悪い女の人に騙されそうで心配だわ」


 ソフィアさんは私がこの世界ではちょっと普通ではないことに気付いているせいか、心配そうにしている。


「大丈夫ですよ。それなりに経験してきましたので」


「田舎から出てきたちょっと才能のある子なんて、失敗する原因は大抵が女絡みだって聞くわ」


 笑ってごまかすが、意外にソフィアさんの心配は当たっている。前世となるが、元妻は典型的などうしようもない女だった。


 世の中には本当に煮ても焼いても食えぬ人がいる。それを実感する人だった。


 過去の経験を生かして今度は騙されないようにしたい。


 ただ正直、当分はひとりでいいというのが本音にある。せっかく健康な体で異世界に来たんだ。


 キャンプをしながら旅をしていろんな場所にいってみたい。


 無論、人肌恋しい時はあるけどね。


 今は自由で気ままな旅がしたい。



「こーたこーた! おかわり!」


「こーた、あそぼ~」


「こーたは、おんなごころがわかってないね!」


 ソフィアさんと対照的に精霊様は相変わらず自由だ。


 でもさ。ひとりの精霊様が女心なんて言っているが、精霊様にわかるんだろうか?




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