第5話・チュートリアル?

 村は石を積み重ねた塀で囲まれていた。高さは一メートルほどだろうか。


 それよりも驚くことは車もなければ電線もないことだ。ドライブとか好きなんだけどなぁ。


 村の風景は昔見た世界名作劇場のアニメのような風景だ。のどかと言えばのどか。なにもないと言えばなにもない。


「婆ちゃん!!」


「アーナはまだ大丈夫かい? すぐに薬を作るからね」


 村に入るとおばあさんは心配していた大勢の村の人に囲まれてしまった。いいな。みんな仲良さそうな村だ。


 私はそんな様子を眺めていたが、おばあさんはすぐに自分の家に帰っていった。


 おばあさんは薬師らしい。どうも村で病人が出たらしく、足りない薬草を自分で取りに行ったところでオークに襲われたんだって。


 さっき聞いたんだけどね。


 村の人はもう歳なんだからひとりで森には行かないようにしてくれと言うらしいが、おばあさんは昔から自分で森に入りどこにどの薬草があるかよく知っているんだって。


 年寄り扱いされたくないと今日もひとりで森に行ったら、普段は森の奥にしかいないオークが現れたのがあの現場だったみたい。




「じゃあ、私はこれで失礼します」


 良かった。本当に助けてよかった。さあ、出発だ!!


「えっ……」


「ちょっと、坊や!?」


 おばあさんも家に帰ったし、私も旅を再開しようとしたが、村の人たちに驚かれて止められた。


 いや、精霊様たちが暇そうにしているんだよね。まだ日が高いし、もう少し進もうかとおもったんだけど。


 夜はキャンプすればいいし……。


「若い衆がオークを運んでくるから」


「そんなに急がんでも」


「恩人をこのまま行かせられないよ」


 結局私はあれよあれよという間に、村で一番立派な村長さんの家に連れてこられた。


「私はこの村の村長です。先ほどはオークからマーサを助けて頂き、ありがとうございます」


「偶然通りかかっただけですのでお気になさらずに……」


 村長さんは頭がちょっと寂しいが、人の良さそうな中年男性だ。あまり畏まられると、どうしていいかわからない。


 見た目は子供のはずだと思ったんだけど。なぜだろう?


「マーサの話ではエルフの方だとか……」


「いえ、違います。少し精霊魔法が使えるだけなんです」


 村長さんはおばあさんから聞いたのだろう。エルフかと恐る恐る聞いてくるが、そこはきちんと否定しておいた。


 精霊様たちのことはあまり言わないほうがいいようなので、精霊魔法のことだけ話すことにしたんだ。


「そうでしたか。エルフ族は若い容姿でも私より年上だと聞いたことがあるので、違うかとも思ったのですが」


 結局この日は、村に泊めてもらうことになった。


 是非泊まってくださいと言われて、断れなかったんだよ。




「……お前がエルフか?」


 その後、オークが村に届いたと聞いたので見に行こうと村長さんの家を出て村の広場に行こうとしたら、村の子供たちに囲まれた。


 年の頃は十歳くらいまでの子供だろうか。


「違いますよ」


「なんだ。違うのか、まあいい、お前をオレの子分にしてやろう!」


 好奇心旺盛そうな少年少女たちに思わず懐かしくなるが、なんというか私はガキ大将君の子分になったらしい。


「ついてこい! 狩りにいくぞ!!」


 六人の子供たちに促されるように、私は目的地の広場ではなく村の奥へと連れていかれる。


 そういえば精霊様たちは村長さんの話の頃に飽きたのか、半分くらいいなくなってしまった。


 ただふらりと戻ってきたり、交代でいなくなったりするので、あまり気にしなくてもいいのだろうが。


 子供たちの目的地は村の奥とか思ったが、私が来たのとは反対側の村の端だった。


 子供たちは塀を乗り越えると村から出てしまい、付近の魔物を倒すらしい。


 武器はグリップを動物の皮で巻いた木の棒だ。刃物は危ないから持たせてもらえないそうだ。


「ようし。おれからやるから、よくみてろ!」


 ガキ大将君は某漫画の音痴ないじめっ子に見える。むろん容姿が日本人とは違い西洋人と似ているが。


 ここは麦が植えられている畑だ。こんなところにもオークのような魔物が出るんだろうか。子供たちだけでは危ないなぁ。


 あとで村長さんにこっそりと教えておこう。


 ただ私も子供の頃はこうして外であそんだものだ。つい懐かしい気持ちになる。


「精霊様、危ない魔物がいたら教えてください」


「いないよ。ねずみばっかり~」


 念のため頭の髪の毛で遊んでいた精霊様に声をかけて、さっきみたいな危ないことにならないように頼むが、あまり必要ないようだ。


 ネズミと精霊様が呼んでいるからどんなものかと思えば、結構大きい。


 サッカーボールくらいはあるだろうか?


「おりゃあ!」


 ガキ大将君は両手で持った木の棒で思いっきりネズミをたたくと、ネズミはあっさりと息絶えたようだ。


 ガキ大将君はそのままナイフでネズミの腹を裂くと、なにか石のようなものを取り出して腰にぶら下げていた袋に入れた。


 あれはなんだろう?


 残った死体は麦畑のそとに放り投げると、子供たちが次々と同じようにネズミを狩っている。


「よし、こーた。お前の番だ」


 ああ、見ていたら私の番になったらしい。


 でもネズミはどうやって見つけるの?


 武器である長鉈を手に麦畑の中を歩いていく。それにしても身長とか容姿は私が一番大きいのだが、なぜガキ大将君の子分にされたんだろう?


「こーた。ネズミいたよ~」


「こーた、よわいからきをつけて」


 ただ私はなにかと戦った経験などない。子供でもできるこれは、いい訓練になるのかもしれない。


 長鉈をしっかりと握りガキ大将君のやっていたように振り下ろすと、意外と簡単にネズミを倒せた。


 なんとなく峰の部分でたたいたので血が流れず抵抗感もない。


『パンパカパーンカパーン。剣術スキルを獲得しました。護身術は大切だよ。頑張って!!』


 ネズミを倒して一息つくと、また女神様の声がした。


 護身術か、確かに大切だ。


「おい、こーた。魔石を取るのを忘れてるぞ」


「ねえねえ。魔法は使わないの?」


 ネズミを倒して、そのままほかの子たちと同じように畑の外に投げようとしたら、ガキ大将君に怒られた。


 ませきってなに? そういえばおばあさんも言ってたなぁ。


 ああ、あれか。子供たちがネズミの内臓から取り出していたあの石か。


 ただほかの子たちは私が魔法を使わなかったことで、がっかりしている。そうか魔法が見たかったのか。


「精霊様。魔法使えますか? ネズミを倒すのに。弱いやつで」


「つかえるよ」


「まかせて!」


 長鉈でなんとかネズミの体内から黒くて小さな石を取り出すと、精霊様にお願いして次は魔法で倒してみせてあげることにした。


 やっぱり精霊様が踊るんだね。


 今度は拳くらいの石を飛ばしてネズミを倒した。自慢げな精霊様にお礼を言うことも忘れてはならない。


「うわぁ。本当に魔法使いだ!!」


「オークを倒したのは、ほんとうなの!?」


「魔法教えて!!」


 魔法を見せると子供たちは本当に喜んでくれた。


「本当に魔法使いなんだな。疑って悪かったな!」


 どうも私が弱そうだから、本当にオークを倒したのか試してやるために連れてこられたみたい。


 ガキ大将君に一方的に謝罪されるが、特に気にしてない。


 精霊様たちがいないと私は恐らく彼らと同じくらいの強さなんだろう。というか魔法は教えられない。


 私が教えてほしいくらいだ。


「あなたたち、またネズミ狩りしてたの?」


「ソフィア姉ちゃん!!」


 そのままネズミを狩り続けた私たちだが、村の外からやってきた人物に子供たちは嬉しそうに駆け寄っていた。


 全身真っ黒なローブを着た女の子だ。顔はフードで見えないが、声の感じから結構若いか?


「こーた。おかしたべたい~」


 私はそんな子供たちを眺めながら、精霊様たちに昨日のホットケーキの残りをあげていた。


 ああ、食べるのはいいけど、私の頭にホットケーキの食べかすをこぼすのだけはやめてほしいなぁ。


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