今日、口紅を万引きした。
はるまるーん
「それってあなたに必要なの?」「うるさい」
今日、口紅を万引きした。
きついセーラー服を先生に見つからないように着崩し、
必死に世間に追いつこうとした。
口紅をつけて名曲喫茶ライオンに行った。
どでかいスピーカーが私を包んだ。
「ラ・カンパネラ」を聴きながら、
『悪童日記』を読んだ。
気分が悪くなった。
美容師に短く切られすぎた前髪が
「幸運とは何?」と訴えている。
女神も聞いてあきれるね、と
アイロニカルに笑った。
昨日、友達と喧嘩した。
取っ組み合いだった。
私はあの子が羨ましかった。
あの子になりたかった。
唇をかんだ。かんだら、口紅と同じ赤が出てきた。いや、これは朱か。馬鹿。
明日、また口紅をつけてあの子に会いに行こう。
ごめんねは言いたくない、けど。
あの子に近づけた私にありがとうを伝えに行こう。
そして、似合ってないって言われるの。
これからも。
だって私はあの子にはなれないから。
鞄の底では、口紅がコロン、と音を立てた。
私の朱色は取れていた。
今日、口紅を万引きした。 はるまるーん @harumaroon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます