超短編「本のソムリエ」

師事する博士から新しいシステムの骨子案が出来た、という連絡が来た。



「書籍検索機『本のソムリエ』?」

「うむ。まぁ簡単に言えば本のあらすじから物語を絞っていく。題名は分からないけどこういう本があった、思い出せない……という時にあらすじを文書にして題名を出そうという検索システムじゃ。今はまだうちの書斎にある本しか検索できんが、図書館と協力してもっと多くの本をデータに含めておけばいずれはこれを通じてオンラインサービスに出来るやも知れん!そう思ってな」

博士の書斎にある本はいずれも難解な数学書ばかりだ。図書館にある書籍ならみんなが読むし、膨大な書籍があるだろう。

「じゃあ博士、作ったらそれ使わせてくださいね」

「うむ、『本のソムリエ』ベータ版なら知り合いに使わせて参考にさせてもらうとしよう。その時はよろしく」



その後、話は大きくなり、希少な書籍も有する国立の大図書館が「検索サービスが出来るなら」と快く協力してくれた。うちの国の本のみならず、外国の書籍もとてつもない数が揃う事になった。さらにこれらは題名も翻訳され、似たような書籍も検索できるようになるのだという。



そうして、いよいよ『本のソムリエ』ベータ版が博士から送られてきた。スマホにダウンロードして、いつでも気になった時にキーワードを打ち込んで見てほしい、ふとした時に気になるから。ということだった。

博士のその気持ちはよく分かる。こんなあらすじだったなという本が浮かぶのは大抵突拍子もないような時だからだ。それこそみんなで集まってみんなでグダグダ話をする時ぐらいだ。

ああ、そういえばそんな感じの短編集があったぞ?みんなで集まって話すのが短編集になる小説。ああ、こいつこそ名前が浮かばない。「話す体裁」「短編集」「昔の本」

そうして返ってきた題名を見て冷や汗が出る。

「アイオラ物語」「愛の短編集」……ア行の時点で数万の書籍がリストアップされる。

確かにそうだ、みんなで集まって話する短編集というのはあまりにも多い。さて、どうやって詰めよう。

……思い出せない。

ふと、嫌な予感がする。嫌な予感がして、本棚の推理小説を手に取る。

「殺人事件」「犯人は妻」「毒殺」「毒は前から付けられており、被害者が自発的に飲みに行った」で検索。

1000件程度がヒットした。ずらりと並ぶ書籍は探す気が欠片も起こらず、題名が分かっているからこそたどれるものの、1から見ていくのではたまったものでは無い。

というか、この他の本は全て同じ手口で殺人事件をしているのか。読もうと思っていたものもあるが、なんだか買う気が失せてしまった。



その後も書籍を検索するが、どうやっても1000件以内に絞り込むことが出来ない。医学書を調べようとしたらダイエットの雑誌がヒットしたり、歴史小説を調べようとした際には論文雑誌、陰謀論まで満載だ。

「四大奇書」と検索した際には四大奇書は全くヒットせず、四大奇書に関する論文集や書籍のみだった時は頭をうった。後世になってまとめられたカテゴリが本文の中に載っているわけが無いのだから。

一つだけ言えることは、これで詳細を絞りこめるほど情報があるならば、真っ先に題名が出てくるだろう、ということだけだ。



こうして、『本のソムリエ』はお蔵入りとなった。

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