48.初めての装備品
「地味なお前に興味ねえが、お前がいた世界には興味がある」
地味という言葉に引っかかったが、俺は黙って話を促す。
「異界の情報と交換に、力を貸してやる。どうだ?」
俺が生きてきた二十数年の記憶。情報量としては多くない。
一般的な情報としては価値もないだろう。
だが、異世界となれば一般的ではない。価値のある情報となる。
しかし、その話を信じればという前置きがいる。
例えば俺が今すぐ元の世界の戻ったとして、誰が俺の話を信じるだろうか。
逆もしかりだ。それが実証できなければ特に。
手近な所で言えば、エアコン、電話、パソコン。
使い方は分かるが、どういう仕組みでそうなるのか説明するのは難しいだろう。
証明出来なければそれはただの空想。
空想好きなら価値はあるだろうが、そんなのは極稀だ。
俺の目の前にいる奴はそんな稀な存在なのだろう。
そんな稀な存在の助け。いや、魔人の力。
俺が太刀打ちできない魔物でも魔人の力なら倒せるだろう。
しかし、倒すことが正解なのだろうか。
でかくなれば巻き添えは食らうかもしれないが、咆哮で威嚇する臆病な魔物だ。
凶暴な魔物に囲まれるよりは安全だったかもしれない。
良い土には蚯蚓がいると言うし、森にとっても有益だろう。
魔物を倒したとして、代わりの魔物がその領域にいくらでも入って来る状態なら、倒してもきりが無い。
過剰な力はあまり必要ないのだ。
情報力と置き換えればどうだろう。
今回、魔物の生体を知っていれば別の道も選べたはずだ。
魔人ならそう言った情報にも詳しいかもしれない。
ここら辺一帯の地形もさっきのジャンプ力なら一望できるだろう。
地形が解れば村の発展に役立つ。
他にも魔人の援助で選択肢が広がりそうだ。
しかし、そう考えると条件が良すぎる。
何か裏があるのか、ただ単に考え過ぎなのか。
こちらから聞くのも可笑しいが、聞いておいた方が良いかもしれない。
「その条件こちらに利が多すぎないか?」
「何処がだよ」
「こっちの与太話と引き換えに、巨大な力を貸してくれるんだろ?」
「お前がどう考えてるか知らねえが、私にとっては何方も暇潰しでしかねえ」
俺が巨大に感じているだけで、魔人からすれば取るに足らない力という事か。
そうか、これは魔人にとってお遊びでしかないのだ。
俺が勝手に重い条件に感じただけで、魔人にとっては軽い約束だったのか。
選択肢の一つとして持っておいても悪くない。
「思い付きで言っただけだ。嫌なら……」
「わかった。その条件飲もう」
慌てて俺が了承すると、魔人は微笑を浮かべた。
やっぱり辞めとけば良かったか。
いや、もう決めたんだ、これ以上悩むのは辞めとこう。
「ならば、これを持っておけ」
魔人は指輪を弾いて寄越す。
乾いた音を立て指輪は俺の手に落ちた。
装飾のない白く滑らかな指輪だ。
「それ自体は何処にでもある骨の指輪だ。私と会話が出来ると言う以外はな」
「付けたら取れなくなる呪いとかないだろうな」
「そんな呪いねえよ! 他の手に渡れば、そいつが不幸になるだけだ」
「もっと、きつい呪いじゃねえか!」
迂闊に外せば、周りを巻き込んで大惨事になりそうだ。
危ないし、人目に付かない所に填めなきゃな。
俺は徐に靴を脱いだ。
「足に填めようとしてんじゃねえぞ、こらあ! 指輪だって言っただろうが!」
「いや、取られないようにと思ってさ」
「足ぶっ潰すぞ!」
本当にやりそうだったので、俺は慌てて指に填めた。
冗談の通じない奴め。
「それで、どうやって会話するんだ?」
「指輪を軽く三回叩け。指輪を介して私に通じる」
俺は試しに指輪を三回叩いてみる。
「もしもーし、通じてるか?」
指輪は何の反応も無い。どうしてだ。
「おーい! 聞こえてるかー!」
今度は指輪に口を当て、叫んでみた。
「直に聞こえてるわ!」
怒りで震える魔人に、思いっきり殴られた。今までで一番痛い。
これ以上、揶揄うと俺の体力が危ないので止めておこう。
「要らねえと思ったら包める物なら何でもいい、それにデォスヘルと書いて指輪を包め。数秒で溶ける」
「デォスヘル? 何の呪文だ?」
「私の名前だ!」
「名前? と言うか、なんで破壊の方法を教えるんだ?」
「重荷になった時、壊せた方が良いだろうが」
「重荷ってなんだよ」
「ごゃごゃとうるせえな、細かい事気にしてんじゃねえよ!」
デォスヘルに豪快に殴られる。
顎にピンポイントで食らい、俺は膝から崩れ落ちた。
このまま殴られると思考が何処かに飛んでってしまう。
「じゃあ、ここにはもう用ねえし、帰るわ」
デォスヘルは倒れた俺を気にもせず、颯爽と歩いて行く。
「ちょっと、待ってくれ」
「ああ?」
デォスヘルは力なく呼び止めた俺を面倒臭そうに振り返った。
「村まで背負って連れてけってのか?」
「違うわ!」
「じゃあ、なんだ?」
「響岩蚯蚓の通って来た穴って空いたままだろ? 塞ぐのを手伝ってくれないか」
土の玉と補助魔法を使えば、大穴だろうと塞げるはずだ。
「ほんと何も知らねえな。奴は食ったと同じだけ吐き出す。穴なんざ始めっから空いてねえんだよ。それからな……」
デォスヘルは響岩蚯蚓の生体を教えてくれた。
実は良い奴なのかもしれない。
「このツケは次の情報の時に返して貰うからな」
実は悪い
「じゃあな」
デォスヘルは片手を高く上げて俺を睨みつけた。
俺も片手を上げ応えようとした瞬間、デォスヘルに雷が落ちる。
眩さに目を庇い、次に目を開けた時には、もうデォスヘルの姿はなかった。
今まで空を覆っていた暗雲もなくなっている。
俺は顎が外れんばかりに口を開け放し、晴れた空を見上げ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます