47.計り知れない力

響岩蚯蚓きょうがんみみずが飲みこもうと迫るのを、転がりながら躱す。

動きは俺の方が早いようだ。

しかし、身体強化で足の痛みは和らいでいるが、動き続けるのは良くない。

魔人は魔法を打てと言ったが、普通に打って効かないのにどう打てば良いのだろうか。


「増幅してやるから、早く打て!」


口が悪いが、ちゃんと俺が見える位置にまで移動してくれてる。

増幅って事は威力が上がるのか。体を貫けるのかもしれない。

俺は響岩蚯蚓の横っ腹に風玉を打ち込む。

そして見事に跳ね返された。


「何かやってくれんじゃねえのかよ!」

「横に切っても普通に再生して終わりだろうが! もっと考えてやれ!」


知ってて当たり前のように怒りをぶつけてくる。

どうやら再生力の高い魔物らしい。

横が駄目なら縦か。

俺は響岩蚯蚓の攻撃を掻い潜り、響岩蚯蚓の体が延びるように引き寄せる。


「悪くない」


俺の考えが分かったのか、魔人は俺の横を走り抜ける。

俺の魔力も残り少ない。そろそろ決めなくては。

俺が足を止め、響岩蚯蚓が威嚇するように咆哮する。

俺はその口を目掛け、風玉を投げ入れた。

掌を広げた大きさの刃が口の中に消えた瞬間、それは何倍にもなり響岩蚯蚓の皮を突き破る。

巨大化した風玉は勢いを増し、響岩蚯蚓を縦に切り裂いていった。

支えを失ったように割れていく様を見ながら俺は呆然と立ち尽くす。


響岩蚯蚓を切り裂いた風玉が掻き消え、後に残ったのは半分に割れた響岩蚯蚓だ。

流石にこれはやっただろう。


「さっきの魔法は何なんだ」

「援助魔法も知らんのかよ」


知らなかったが、今のを見るに他人の魔法を補う魔法。

だが、しかしだ。


「普通、あんなに大きく出来るものなのか」

「お前の普通がどうなのか知らねえが、悠長に話してる場合か」


安心したのもつかの間、響岩蚯蚓は半分になりながらも何処かへ引き擦られていく。


「あんな状態で、まだ生きているのか」

「動いてるって事はそうなんだろ」


俺達が見ている前で、粘液が飛び散り切れた体が修復されていく。

昔の人が唾でも付けとけば傷が治るって言ってたのは本当だったんだ。

傷が治る前に仕留めておこう。


しかし、それは不可能だった。

追撃を試みる俺の足元が盛り上がり、響岩蚯蚓が飛び出てきたのだ。


「もう一匹いたのか!」


俺は盛り上がった土もろとも跳ね上げられた。

飛び散った下に待っているのは巨大な口。


「飛べ!」


俺は魔人に首根っこを掴まれ、子猫の様に空に連れ去られた。


暗雲漂う上空へぐんぐんと登っていく。

響岩蚯蚓も食らおうと下から追る。

全身を現した響岩蚯蚓は後部が裂けていた。

さっきの攻撃で避けた傷。

こいつは両端に口を持つ魔物だったのだ。


「何時までぶら下がってやがる、さっさと始末しろ!」


登る勢いが弱まる中、魔人が叫ぶ。

雲を手前に、俺は慌てて響岩蚯蚓に向け魔法の玉を浮かべた。

属性はこれしかない。


「食らえ!」


俺の手から放たれた小さな火玉は、魔人の力によって巨大化し、響岩蚯蚓を燃焼させていく。

俺には聞こえない悲鳴に魔人が顔を顰め、浮力が消える。

焼き尽くしていく火玉と共に、俺達も炭と化していく響岩蚯蚓の中を落ちて行った。


灰となり消えていく響岩蚯蚓。

俺達は無事に地面に降り立っていた。

俺だけ驚愕しすぎて倒れ込んでいたけど……


「じゃあ、話して貰おうか。力について」


魔人は岩に腰かけ、こちらを睨みつける。

スケールが違い過ぎて腰を抜かしているのに、なぜそんなに落ち着いていられる。

これが魔人の実力なのか。名前だけじゃなく、すごい力を持っていたんだ。

俺は憧れの眼差しで魔人を見返した。


「鬱陶しそうに見てんじゃねえぞ、こらあ!」

「ちがっ!」


思いっきり殴られた。

感が良い魔人じゃねえのかよ。


「話と言っても、どうやって話せばいいのか」


俺は心を落ち着かせ、魔人の前で姿勢を正す。


「じゃあ、私の質問に答えろ」

「わかった」

「力を使った奴は誰だ? 何故この場所を選んだ? どういう目的で使われた? 力を使った奴との関わりは?」

「わからん」

「どれが解んねえんだ?」

「全部わからん」

「ふざけんな、こらあ! 何も知らねえのかよ!」


頭に思いっきり拳が降ってきた。


「知らない。だが、対象は俺だ」

「ほう、それで?」

「この世界に転移して来た時、力を探知したのだと思う」


魔人の表情が変わり、推し量るように顔を寄せてくる。


俺はここに来た経緯を省略して話した。

省いたのはナビ、スキル、アンケートの事だ。


ナビの事を話せば事情に詳しいナビに対象は向くだろう。

だが、俺はナビについて重要な事は知らないし、ナビも語らないだろう。

見えてないだろうし、初めからいない事にしとけば面倒にもならないはずだ。


魔法に関しては基本の魔法しか使ってない。

魔人が興味のある魔法ではないはずだ。

実際、響岩蚯蚓に効かなかったしな。

だがスキルは特殊過ぎる。出来れば誰にも言わないほうが良い。


アンケートの事を話せば、この世界が俺の思考から作られたとばれるだろう。

他にも隠している事の糸口になるかもしれない。


気が付いたら平凡な魔法使いとしてこの世界に飛ばされていた、と思わせとけば良い。

俺は言葉巧みに経緯を話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る