32.未熟な存在
シュロさんは先に起きたクメギに見張りを任せ、森の中を探索してきたと言う。
川沿いに進むと、昨日、見かけた
そう思うのが当然で、シュロさんもそこら辺を踏まえて言っているとすれば、昨日の地点から移動したのだろう。
「沙狼は何処かヘ移動したんですか?」
「そのまま西に移動しているみたいだ。沙狼の後ろ姿を確認できた」
「
「魔物と言えど、周辺を探索しながら安住の地を探しているのだろう。あの沙狼達が偵察隊なのか袂を分かれた分隊なのかどちらにせよ、村に近づくようなら警戒しないといけない」
「別々に生きていくって事もあるんですね」
「土地に対して数が増え過ぎたり生き別れたりと理由は多々あるが、繁栄とはそういう物じゃないのか。同種であっても別々の地で確認したという話もあるしな。こういう話は旅人である君の方が詳しいと思っていたが――」
「え、いや。そういう事に疎い系の旅人でして……」
「旅人を騙る怪しい奴の方がしっくりくるわ」
「クメギ。それはちょっと言いすぎな気もするぞ。彼もなんとか馴染もうと村に人力してくれているんだ」
「取り入ろうとしてるだけじゃないの」
「まあまあ……」
シュロさんもたじろぐほど冷たい目でクメギに見られ、俺は溜息をつく。
「全てを言い当てられ、自責の念に駆られましたか?」
「そんなんじゃねえよ!」
八つ当たり気味にナビを叩き落とす事しか出来ずに、俺はまた溜息をついた。
俺だって村に対して、見返りを要求している訳ではない。
しかし、何もせずに村に集るつもりもない。
確かに飯と寝床の代わりとして、水の確保と薪集めはやって来た。
それとは別に、塀や見張り台を作ったりしてるのは、お世話になったこの村が無くなって欲しくないという思いからだ。
村長に話を通してはいるが、まだ俺の事を認めていない人もいる事は知っている。
その人達にとって、俺がやっている事はただのお節介なのか。
俺がやろうとしてる事は、我儘でしかないのか。
胸が締め付けられる思いがした。
「クメギの言った事は気にしないでくれ。君の力で村は助けられている。それは村の者、全員が分かっているはずだ。昨日、捕らわれた彼を助けたのも君だ」
シュロさんは俺にそう言いながらも、警戒して森を進む。
「そんな事ありませんよ」
俺は呟くようにそう答えた。
昨日、見た沙狼の姿は見えなかったが、通った形跡が確認できた。
茂みの中に幾つかの足跡があり、そこから離れた場所からも見つかる。
足跡の間隔と踏まれた土や枝葉で、頭数や時間を予測できる。
別の群れの気配もなく、昨日見た群れもだいぶ前にここを通過したと分かって、俺は大きく息を吐き出した。
ひとまずの危機は脱したと言って良いだろう。
暫く南下していくと、大きな窪みが見えて来た。
楕円形の窪みは、電車一両くらいすっぽり嵌りそうな大きさだ。
窪みの中にも木が生えている事から、だいぶ昔からあるのだろう。
沙狼も去ったと分かり、村にも近づいて来た。
少しずつだが、採取もしていく。
昨日からほぼ何も取れてない状況なので、今日巻き返さないと食糧難になってしまう。
窪みを覗いてみたが、特に変わった物は見つからなかった。
クメギも下りて確認していたが、早々に上がってきていた。
日当たりが悪いだけで、獲物の巣穴と言う訳でもなく、何のうま味もない窪みと分かっただけ良しだ。
探索を続けながら木の実や茸などを採取していくと、見覚えのある場所だと気が付く。
森の中でも、何回も来た事のある場所だと、なんとなく雰囲気で分かるものだ。
森を抜け道に出た所で、村の西側だと知れた。
まだ日は高いが、皆疲れているという事で、村へ戻る事になった。
道を進む俺にシュロさんが寄って来る。
「私達が元いた村は、外から人が入ってきて大きくなったのではない。子宝に恵まれ見知った身内が膨れていった。そこから若い奴らを集め、あの村を作ったんだ」
シュロさんの目は、作りかけの塀が建つ村を見ていた。
大きな村から別れ、新しい村を作り、子を産んだ。
生まれた子は村と共に育ち、クメギ、ルーフ、ルートヴィヒになる。
あの村は親の代から外の人を知らない身内だけの村。
誰が悪い訳でもなく、環境が偏った考えを作り出してしまった。
外の力を取り入れようとする村長や、ログさんのような大人もいれば、村長の取り巻きのような反対の考えを持つ大人もいる。
子にとって大人の影響は大きいと、残念そうにシュロさんは語った。
クメギの親も反対しているのだろう。
「クメギの事を、悪く思わないでくれないか。そして、この未熟な村を―—」
「気にしてませんよ」
全てを言い終わる前に、俺は力強く答えた。
村は俺という不安要素を迎え入れ、揺れている状態。俺まで揺れてどうするんだ。
俺は村の防衛力を上げる。ただそれだけ、簡単な事だ。
同じ事をしても人によって見方は違う。
万人に認められなくても、村を発展させて困る人はいないはずだ。
誰だって不安は抱えている。自信満々に見えて内心は不安な事だってある。
そういう時こそ嘘をつくんだ。他人にじゃなく自分に。
俺にだってやれる事はある。
「ありがとう」
シュロさんはそう言うと、少し安心したような笑みを見せた。
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