22.俺の行動で、その人に命が助かったと思われた場合
「一番近い町は、ここから走って一か月で着きます」
「走ってかよ!」
ナビの言葉で俺は町に行く事を諦めた。
何れはその町に行く事になるかもしれないが、今スタミナ向上を求めて向かった所で戻ってくるのに半年以上かかりそうだ。
それだけの時間をかけてスタミナが少し増えても、浪費の方が多い気がする。
それならどうする。ポイントを使って何とかするか。
いや、ポイントを貯めようとして村人に貢献しているのに、貢献する為にポイントを使うとか、目的が手段になっている。
確かポイントが入ったのは初日だったはず、それ以降も村に貢献出来てるはずなのに、ポイントが増えないのはなぜだろう。
相手にとって良い事をすれば貯まるとナビは言った。
水の確保だったり、薪材だったり、作りかけだけど塀だったりと村人の助けになっているはずだ。
それなのに、何故——
モフモフは俺が水をあげた事で助かった。ここで一ポイント。
村からモフモフを連れ出した事で、村は助かった。ここで三ポイント。
「モフモフは七つに分かれるのに、なぜ一ポイントしか貰えてないんだ。七ポイント貰えないのは、ズルいだろ……ですか?」
「何か掴めそうな所で、ミスリードしてんじゃねえよ!」
俺はナビを雑に叩き、思考の続きに戻る。
引っ掛かったのは村を助けた時のポイント数だ。
あの時、俺がモフモフを連れて村を出たのを見ていたのは、村長や狩人など五、六人はいた。
村を破壊した魔物を追い出したのに、三ポイントは少なすぎる。
相手にとって良い事なら五、六ポイント入っていてもおかしくないのだ。
村から追い出したくなかったという事か。
もしくは、自分達でもどうにか出来たという事か。
追い出したくなかったという線はないだろう。
狩人達ならどうにか出来たという気持ちもあるだろうが、一時的にと思われたか、俺への信用が薄かったからなのか。
良い行ないにも良し悪しがあるのか。
当たってるようで何かが違う。
そうか、俺は勘違いしていたようだ。良い行ないにもブレ幅がある。
ハンカチを拾ってあげるにしても、強盗犯から救ってあげるにしてもどちらも良い行ないだ。
俺が思っていたのが前として、ナビが後ろの事を言っていたのだとしたら、ポイントが増えない理由が付く。
そして、ナビは村を襲ってる時に助けるだの物騒な事を言っていたから、命に係わる程の良い行ないをしないとポイントは貰えないという事か。
水や薪などは俺がやったことで助かりはしたけど、俺がいなかったとしても出来ていた。
村を出る危険な仕事にも拘らず入らなかったという事は――
俺の行動でその人の命が助かった場合、ポイントが入るって事か。
「厳密には違います。その人に思わすだけで構いません。あの黒い魔物はあなたに水を貰い九死に一生を得たと思ったのでしょう。村人の中で三人、あなたがいなければ死んでいたと思ったのでしょう」
「何で初めからそれを言わなかったんだ?」
「簡潔に説明することが大事なのです。それで解らなければ、また聞いてください。同じ内容だろうと、私には応える義務があるのですから」
「変な方向に誘導する話を削れば、簡潔の中にもっと内容詰めれるだろ」
「そうしなくても、あなたは最初の説明で四ポイント入手できました」
「それ以降のポイントが、取れてないんだが」
「今、この説明を聞けた事でポイントを入手し易くなりました。着実に階段を上っていると感じているはずです。しかし、それで易々とポイントを手に入れようとは思わない事ですね」
「話が途中で変わってるぞ」
ナビが冗談ぽく言った最後の言葉は、現状を言い当てている。
条件を知ったとして、村人が死に直面してそれを俺が助ける場面がそうそうあるはずがない。
だからと言って、村人が危機に瀕する状態になれとも思わない。
村を強化する事はポイントを得る行動とは逆行しているのだ。
悪どい事をしてまでポイントを得ようとは思えないし、ポイントを貯める事は諦めるか。
そうなると残るは自分を鍛えるしかない。
俺は狩りの途中で呼びに来た誘いを断った。
今のままでは、狩りに加わったとしても足手まといになる。
近場の狩場を避け、遠くの木材を取りに行こうなど考えが甘すぎたのだ。
誘いに来た人にも伝えたが、シュロさんにも直接謝るべきだろう。
頼んでおきながら途中で抜けたのだから。
木材を取りに行くには、もっと自分を鍛えなければいけない。
薄々分かっていたが、身体強化の力で上手くいくと思っていたのだ。
効率よく鍛えるには専門家に聞くのが一番だろう。
夕飯も食い終え、俺はシュロさんの家を訪れる。
シュロさんは道具の整備をしながら俺を向かい入れてくれた。
「昼間はすいません。自分が言った事なのに投げだしてしまって」
「こちらも君を試すような事をして悪かったな。しかし、旅をしてきた者の実力を確かめたい気持ちもあった。好奇心に勝てなかったんだ。すまない」
深々と頭を下げるシュロさんに、慌てて俺は顔を上げるように言った。
顔を上げたシュロさんはペロリと舌を出し、俺のシュロさんに対する好感度を上げていく。
謝りに来た俺に逆に謝ったばかりか、気を使わないようにお道化て見せる。
これで、嫌いになる方がおかしいでしょ。
「駆け出しの旅人なので、期待するような物など持ってないですよ」
「そうかな。未熟だと思う面もあるが、力を出し切ってないと感じる面もあった」
「見間違えでしょう」
軽く探ってくるような仕草に、俺は軽い笑みを返す。
力を出し切らずにぶっ倒れる訳がない。
「それで、どうしたんだい? 謝りに来ただけでもないんだろ」
「ええ、実はお願いに来ました。シュロさん、弟子にして下さい!」
俺は地面にひれ伏し、頭を下げた。
これが日本の心、土下座である。
いきなりの事に戸惑うシュロさんに、俺は土下座の体勢で詰め寄った。
「お願いします。ここで使います一生のお願いを」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。その体勢で迫って来ないでくれ」
嫌がる猫のように両手を突っぱねるシュロさんに、執拗に頭を下げていく。
それに根負けしたのか、シュロさんからため息が漏れた。
「ま、まあ、旅人を弟子にするのも面白いかもしれないな」
こうやって、俺は強引に弟子の座を勝ち得た。
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