21.走り回る一日
「今日は体験学習という事で彼を連れていく。分からない事があれば何でも聞くようにな。みんなも教えれる事があったらどんどん教えてやってくれ」
にこやかに言うシュロさんと、嫌そうな表情のクメギ、その他の面々を加え狩りが始まった。
「まずどこへ行くんですか?」
早速、質問する俺を置いて、皆は走り出していた。
質問どころじゃないと慌てて追いかける俺。
村周りを探索しながら、この木の根元にあるのがキノコだとか、そこの草むらに角兎がいるだとか教えてくれるのは良いのだが、俺が質問する前に次々と行ってしまう。
体力的に劣ってる俺は身体強化・風のスキルで何とか食い付いていく。
スキルを使えば速さはこっちが上なのだが、走り続ける距離が問題だ。
毎日走り回っている狩人の体力と、鍛えてこなかった社会人の体力差を考えてくれと言いたい。
結局、昼前にして俺は荒い息を吐きながら地面にへばり付くのだった。
「珍獣発見」
疲れを知らないナビがちょっかいを出してくるが、叩く力すらない。
ナビ、俺を突くのは辞めなさい。
「北に行く前に村周りのポイントを紹介しようと思ったのだが、困ったな」
「本当に旅人なのかしら。こんな体力でよく今まで生き残れたわね」
「クメギさん、それはちょっと言い過ぎですよ」
「僕達だってシュロさんやクメギに付いていくのは無理なのに、しょっぱなからは無茶ですよ」
「そうかい? これでも加減していたつもりなんだがな」
「シュロさんの加減は加減じゃないですから」
「加減して死んでたら世話ないわ」
「だから、クメギさん言い過ぎ!」
俺を囲ってしばし談笑する村人達。
ナビが言ったように、本当にこの人達より俺が強いのだろうか。
「戦闘力でいえば、あなたが確実に上です。ですが、経験で言えばあなたが確実に下です。ついでに体力も」
真正面から当たれば俺の勝利は確実だが、翻弄されたら勝利は怪しくなり、逃げに回られたら確実に逃げられると、ナビは言い放つ。
これを補うにはまたスキルを取らないといけないのか。
もしくは体を鍛えるか。だとしても何年かかる事だろう。
最初から体力ないの分かってるんだし、そこら辺の補助があっても良いと思うんだが、とナビを睨んでみる。
「ゲームであるスタートダッシュ的なものはありません。あれは後発組が追い付くための物。あなたは後発組ではありませんし、ない物があるのなら奪い取れば良いのです」
またナビが物騒な事をと顔を歪めるも、続く言葉で気付かされた。
「自分が勝ちえた力で強くなる事を望んだから、あなたは人生を例えた式で加算式を選んだのではないですか。圧倒的な力を欲さなかったから、あなたはある程度秀でていたいと回答したのではないですか」
適当に書いたとはいえ、確かに俺はそう書いた。
じゃあ、嘘を書いたのかと言えばそうじゃない。
もし、俺が圧倒的な力を持ってこの世界に来たとしたら、早々に飽きて元の世界に戻っていただろう。
力が欲しくないわけじゃないが、力があり過ぎて張り合いのない人生を欲しいとも思えない。
圧倒的な力は人から敬われる立場になり、立場が異なれば人は離れていく。
力を持ち王になったとして、友と呼べる存在がなく隔離された世界で生きるのであれば、俺は仲間から少し優れた存在の村人がいい。
ここに今ある俺は、俺が望んだ結果なのだ。
狩人にしごかれ、ナビに叩きのめされた俺は、へとへとになりながら村に帰った。
俺の体験初日は半日で根を上げてリタイアという結果だ。情けない。
「アイテムによる補助を考えてはどうでしょうか」
村で凹んでいる俺を見かねてナビが提案した。
そういえば、アイテムという存在を忘れていた。
「装備することでスタミナ増加を見込める物もあります。増加の低い物ならば町に行けば売っているでしょう」
俺にはない物がたくさんある。
まずお金がない。通貨名も知らなければ通貨の種類も知らない。
アイテムの価格が分からない。金の稼ぎ方も知らない。
町が何処にあるかすら分からない。
無い物尽くしとはこの事である。
「この世界の通貨は種族によって違います。同族でも異なる場合がありますし、通貨を持たない種族もいます。その為、物々交換によるやり取りが普通に行われています」
一般的には生活に必要な物のやり取りが多い。
他の方法で稼ぐとなると魔物の肉、皮、爪、牙といった素材、薬などの材料となる植物、その土地特有の品となる。
買い取りはギルドか素材屋が行う。
魔物を狩って持っていくか、素材だけを持っていくかは自由である。
ギルドとは魔物討伐の依頼をメインに出している場所であり、報酬も高い。
素材屋は魔物の素材や植物、鉱石、特産品を買い取ってくれる。
これは一般的に行われる人の町での事。
裏に回れば魔物以外の素材を求められたり、暗殺もある。
種族が変われば人も扱われるのだ。
ちなみに、
「モフモフ。この前、お前食ってたよな。素材吐き出せ!」
モフモフとそれを追いかける俺を、村人が不思議そうに見ていた。
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