20.試行錯誤

村長に許可を得た翌日から、塀作りを初めた。

まずは北側から始める。北が終われば南、東、西と一つずつ片付けていく計画だ。

柵の外側に線を引き、小さなモフモフ達に線上に穴を掘ってもらってる間、俺は木を伐り倒し、片側を尖らせるように削っていく。

何本か作り終えた所で、モフモフが終わったと言いに来た。

早いなと思いながらも穴を見に行くと、線状に浅い溝が出来ていた。


「これ以上深いと俺たち手が届かない」

「誰が線を深く掘れと言った!」


改めて丸太を固定する穴を掘るのだと説明する。

執拗に確認の返事を貰い作業に戻ると、今度は全然言いに来る気配がない。

心配になって見に行くと、底の見えない穴が出来ていた。


「俺たち頑張った」

「木が全部埋まってしまうわ!」


改めて丸太を固定する深さを説明する。


「何も心配ない」

「心配しかないんだが……」


自信しかないモフモフに任せて、俺はまた作業に戻った。


丸太を十本ほど削り終えた時、意外な人物が目の前に立った。

クメギだ。狩人のクメギとは村で会うこともほとんどない。

一日の殆どを狩りの時間として、村の外を駆け回っているから当然だろう。

クメギは俺の顔を見るなり怒鳴りつけてきた。


「無暗に木を伐るな! どこまで伐り倒していく気だ。村の近くから獲物が遠のいていく」

「村の周りの視界が開ければ、見張りも気付きやすいと思ったんだが」

「見張りは今までも怪しい気配があれば気付いてきた。お前がやってることは狩人を危険にさらす行為だと分かってるのか」

「どういうこと?」


俺がここで作業することで獲物が村から離れ、狩人は魔物と遭遇する確率の高い場所まで狩りに出なければいけなくなった。

もし、狩りで村人が襲われたらどう責任を取るつもりだとクメギは攻め立てて来た。


「兵糧作戦で、村人を亡き者にしようという考えが見透かされてましたね」

「そんな作戦ねえわ!」


もうナビゲーターじゃなくて、気が向いたら出てくるだけのゆるキャラを叩き落とし、何事もなかったようにクメギに謝った。

クメギは怒りながら森へ消えていった。

たぶん狩りの続きをしに行くのだろう。


クメギに言われた事で、ここでの伐採は出来なくなった。

伐採する木を選ばなくてはいけないが、それで遠いところから運ぶのも危険が伴う。

何処の木を伐ったら狩りに影響ないかを、村長に聞きに行くことにした。


村長宅を訪ねると、毎度の事ながら何かを磨り潰していた。

足が悪くても力はあるようで、そういった仕事を任されているらしい。

大根一日二百本とか謳ってたりするのか。


村長も森について熟知している訳ではないらしく、狩人の長であるシュロさんに聞きに行くことになった。

狩人は昼の間、村外へ出ている。

今から狩りの邪魔までして聞きに行くことでもないので、今まで伐り倒した木をモフモフに運んでもらった。

木を一本丸々だとモフモフ二つで何とか運べるのだが、効率を上げようという事でもう二つのモフモフにも加わってもらった。

これで村に四つ、外に三つのモフモフという事になる。

もう少し作業が増えることになったら、一気にモフモフを七つにして良いだろう。

七つ集まっても一つにならないように注意しておけば、村を襲った魔物とは分からないはずだ。


村の人にも手伝って貰って、北側に三割ほど塀を立てる事が出来た。

余った時間で、この辺りは何が狩れるのかを聞いてみる。

兎、蛇、鼠、小鳥のようなものが狩れるらしい。

ようなものというのは、特徴が似ているだけでよく見ると違うからだ。

この世界に動物はいない。全て魔物という事だ。

痺猿ひえんにしたって沙狼しゃろうにしたって猿と狼だしな。


そうこうしているうちに夜になり、狩人達が返ってきた。

帰ってきても獲物を捌いたり、道具の手入れをしたりと忙しそうだったので、夕食の後に聞きに行くことにする。


夕食後みんなが家へと戻るのを見計らってシュロさんの家を訪ねる。

家の中ではシュロさんがナイフを研いでいた。

他の人と違い一人でこの家に住んでいるのだと言う。

俺は早速、昼間クメギに言われたことを聞いた。


「なるほど、クメギのいう事も一理あるな。急激に木を伐っていくのを見て心配になったのだろう。だからと言って、君に痺猿や沙狼の住む近くの木を伐ってくれとも言えないしな」

「それに付いては、一つ考えがあるんですけど」


俺の案にシュロさんは面白い事を考えると高らかに笑った。


「それでこの案を実行するにあたって、北側の森の状況を知りたいんです」

「最近、獲物が減ってきてあまり奥まで行かないんだが、良いだろう。明日は北に出てみるか」


あっさりと翌日の狩に参加する事になった。


この村の人達はなぜ俺のやる事に肯定的なのだろうかと少し心配だったが、その心配してること自体が間違いなのだろうか、という思いを持つようになってきた。

良い意味で大らかというか、やってみてから考えようのスタイルなのか。


良い方に転ぶと強引に自分を納得させ、明日に備えて早めに寝る事にした。

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