14.白髪混じりの夕食

【スキル名】複写

C  Tクールタイム】24時間

【効  果】

・手に持っている物を、もう一方の手に再現

・筋力付加無効、生物無効


これが複写スキルの繊細画面だ。

これで食料の確保は出来たとして、モフモフに渡す為に村を出る必要がある。

補佐官などがいる前で俺は調査がしたいと言ったが、何者かは言っていない。

村長に村の周りを調べたいと言えば、村長の許可付きで村を出れるだろう。

この後、村人全員が集まった時を見計らって村長が俺を紹介するとしたら、何者になるのであれ村長の采配に任してしまうのも良いかもしれない。


おーいという掛け声に振り向いた俺は、手を振って呼ぶルーフに気が付いた。

そろそろ料理が出来るらしい。声が大きいと言ってたのは本当だなと俺は笑みを零した。

大鍋が掛かる焚火を囲み、村人全員が集まると村長は俺を呼び寄せた。


「こちらは、少しの間この村で一緒に生活をする事になった旅の方だ。この村の仕事も手伝ってくださるという事で、昨日も色々あったが仲良くしてほしい。取り敢えずは水汲みの仕事を担ってもらった。では、何か挨拶を」


村長が少し引き、村人全員の目が俺に集中する。

調査団の一員という事は伏せ、旅人という事で村長は落ち着かせてくれたようだ。

こういうの慣れてないんだよなと思いつつも、振られたからには何か言わないと収まらない。

俺は背筋を伸ばし口を開いた。


「これから少しの間お世話になります。見聞を広めるために旅をしている途中で、迷惑をかける事もあるかもしれませんが、寛大な心で許してくれると有難いです」


関心する者、拍手をする者、表情の見えない者、三者三様だが大方歓迎はされているようだ。

挨拶も終わり各々に食事が振り分けられる。

大きな葉を皿代わりに、粥状の物が盛られた質素な食事だ。

こういう食事を見せられると、元いた世界の生活がどれだけ恵まれていたか分かる。


その光景を座ってみていた俺の元に、一人の白髪混じりのおじさんが近づいてきた。

白髪混じりのおじさんは二つ持っていた食事の一つを差しだし、俺は礼を言って受け取った。


「聞いたぜ。お前さん、水の魔法が使えるんだってな。昼間見たってうちの奴が興奮してたぜ」

「まだ勉強中なんで、少しだけですが」


俺の横に腰を掛けた白髪交混じりおじさんは、焚火を見ながら寂しそうな表情を浮かべる。


「勉強中だとしても魔法を使える能力があるってことだ、羨ましいぜ。俺はずっと村のために生きていくだけの力しかないし、こんな年だ。今更、村を出て何をするにしても遅い」

「何を言ってるんですか。あなたの腕がなければ、ここまで作物を育てる事は出来ませんでしたよ。この村に連れてくるのに、私がどれだけ苦労したか」


横で話を聞いていた村長はそう言い大げさに笑う。

白髪混じりのおじさんは遠慮気味に照れ笑いを見せた。


「連れて来たって事は他に村があるんですか」


疑問がつい口に出てしまった俺に、村長は丁寧に説明してくれた。

この村から西へ行くと、村長たちが生まれ育った村があるという。

村というのは人口が増えれば領土を広げ、大きくなるだけではない。

立地の良い土地に先遣隊を送り、交流を保ちながら新しい土地に村の原型を作る。

そして、村として機能するようになった時、分裂するのだ。

どちらとしても能力の高い人材は欲しい訳で、どういった人材を確保し、円満に回すかも村長の腕の見せ所だという。

俺からしたらこの二人の方が凄いのだが。


「それより、あんた旅人だろ。旅道具はどうしたんだい?」


白髪混じりのおじさんが質問を投げかけた途端、村長はゆっくりと立ち上がった。


「さて、儂はそろそろ……」


先程までの饒舌が嘘のように口を噤み、逃げようとしている。

この話は円満に解決してくれないのか。

今が腕の見せ所だよな。さっきまで一言も儂なんて使ってなかったよな。


俺の願いも虚しく村長は行ってしまった。

ここは何とか乗り切らねばならない。


「えーと、あれです。魔物に襲われて全部取られちゃいました」

「それは災難だったな。その魔物ってこの辺りに住む痺猿ひえんじゃないか?」

「ヒエン?」

「痺れる猿で痺猿さ。毛並みが黄色く大きさも力もそれ程でもないが、噛まれたり引っかかれたりする事で痺れを起こす麻痺毒を持っている。群れでじわじわ弱らせて動けなくなった所で、一斉に飛び掛かってくるんだ。村長も昔その痺猿に足をやられて今でも走れずにいる」

「その痺猿の麻痺にかかってですか?」


それほど強い麻痺ならくらった時点で逃げられそうにない。


「いや、これは膝に肘を貰ってしまってな」

「どういう事!」


話が変わったのを察知して村長が戻って来る。

というか麻痺関係ないし。

村人の前で思わず突っ込んでしまい、微妙な空気が流れていた。


「……いやあ、今日もいい天気ですね」


話を誤魔化しきれず、俺は夜空を見上げ続けた。

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