13.メタい!

夕食の手伝いに呼ばれたルーフに、もうちょい休憩させてくれと言って、俺は柵の一つに凭れ掛かった。

俺にはもう一つ取ろうと考えているスキルがある。

効果を簡単に言うと、一つの物を二つにするスキル。

問題はその範囲だった。


「新しくスキルを取るとして、範囲によって魔力消費の違いとかあったりするのか?」

「スキル使用で魔力は一律で半減します。そして再使用までに時間を要する場合もあります。CTクールタイムと言った方が解りやすいでしょうか。CTはスキル毎に変わりますが、範囲に限って言えば変化ありません」

「範囲によっての違いは何もないってことか。普通ありそうなのにな」

「その代わり範囲は、一度決めると変更不可能です」


大は小を兼ねると考えるなら、範囲を広く取った方が良いかもしれないが、狭い範囲の方が融通が効く場合もある。

どちらを取っても一概に優劣が付け辛いから魔法消費などの変化がないのだろうか。

範囲といっても単位と同じように速さ、重さ、広さ、色々考えることが出来る。

それらを考え、どれを一番に持ってくれば有益なスキルになるのか。


考えが纏まらないまま悩む俺の前でナビが浮いていた。

その向こうでは焚き火の上に大鍋が置かれ、夕食の準備を進める村人達。

鍋の大きさからいって、村全体の食事を作っているのだろう。

食べる食材に変わりがないのだとしたら、各々で作るより効率的だ。


俺は立ち上がると村の外へと目を向けた。

柵に手を掛けモフモフの事を考える。

このまま放っておこうとは、思っていない。

複写のスキルだって、モフモフの為に思い付いたスキルだ。

モフモフの食事を村の負担にならないように作り出すには、俺が貰った食事をスキルを使って増やせば良い。


あれこれ考えて出した結果は、直感が大事って事だ。


「右手に持った物を、左手に同じ物として作り出すスキルって可能なのか?」


持つといった範囲で考えれば、限定される様でやれることは多い。


「条件付きで可能です。持てる物はスキルを取った時点での持てる物になりますので、後に何かの効力で筋力がアップして持てる物が増えたとしてもそれらは含まれません。逆立ちをしてこの星を持っているという事にもなりません。次に複写できる物に生物は含まれません。生死の判定はこちらが独断と偏見で行います」

「それってアイテムとかで今の倍以上は筋力が上がるって事か」

「この世界には、あなたを軽々と片手で持てる魔物など掃いて捨てる程います。そういった魔物を倒す事を、生業としている者も同様です。どういったものであれ付加される力に頼る事で、この世界の均衡が保たれている場合もあります」

「おお、なんか壮大な話になって来たな」

「しかし、あなたがこの村でゆったり暮らすなら、そういった魔物とは一切お目にかからず終わる事でしょう」

「なんか一気にこじんまりしたな……」


惨めな気持ちになりながらも、俺は気持ちを切り替えるようにナビから景色へと目線を変えた。

すでに森は黒く、夜の生活が始まっていた。


「じゃあ、独断と偏見ってなんだ」

「人によっては鉱脈は生きていると言うでしょう。では石は生きていますか? 独断と偏見でNOです。この畑は端正込めて耕してきたから、畑の土は生きている。どう変わろうと土は土。独断と偏見でNOです。あの子は私の中で生きているのよという人がいるかもしれません。心の中で生きていようが独断と偏見でNOです」

「何か、人として惨い判定だな……」

「その発言、ナビとしてNOです」

「うるさいわ!」


久しぶりにナビを叩くが、相変わらず叩かれたナビは何事もなかったかのように戻ってくる。

このやり取りも虚しいが、やらなきゃ俺の気が済まん。


「というか、なんで生き物は駄目なの?」

「もし生き物としてあなた自身が二人になった場合、主人公がぶれるからです」

「メタい!」


これからもぶれない主人公として生きていこう。

俺は心に強く誓ったのだった。


「色々あって忘れる所だったけどCTがあるんだよな。さっき言った条件でスキル取るとしてどれ位掛かるんだ?」

「一日です。時間で言えば二十四時間になります」


一概にこの時間が長いのか短いのかは分からないが、モフモフの食事が一日に一回になってしまう。

モフモフって結構食べそうだよな。

複写して俺の分からおすそ分けするにしても、足りるのだろうか。

モフモフだって今まで自然の中で生きていたんだし、北から移ってきて環境が変わったとしてもある程度、自分で取ったり出来るだろう。


村を出てモフモフの状態を確認したいが、モフモフがまだこの村の近くにいる事は知られたくはない。

その点を考え、接触するなら食後が良いだろう。

夜の闇に紛れて会いに行こう。


「疚しい目論見の匂いがします」

「疚しくねえよ!」


俺がここに来てから二日が終わろうとしている。

その時点でポイントが四つ取れたなら、村に貢献すればまだポイントが取れるだろう。

直感が大事って思ったんだろ、と俺は自分に頷く。


「新しいスキルを取るよ」

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