12.社会人の体力なんてこんなもの

既に日は沈もうとしていた。

季節的に日の暮が早いのかもしれない。


「何時の間に、そのような姿に!」


外套姿で出て来た俺を見つけ、ルーフが駆け寄ってくる。


「色々あってな」

「そ、そうですか。なんか格好良くなりましたね」


背広でコート着てたらなんか偉そうに見えるし、格好いいもんな。

そういう感覚はこっちも同じなのか。


「それより、ルーフも仕事を任されてるんじゃないのか?」

「今は世話役を任されているので」

「そうか、なんか悪いな。気にせず仕事に戻ってくれてもいいぞ。勝手にぶらついておくから」

「実は僕まだ大人の人達と同じ仕事を任されてないんです。任されてもお手伝い程度で」

「今はまだ学んでる最中ってことか。どういう事をしてるんだ?」

「そうですね。例えば見張だとか。種蒔きとか。薪作りとか」

「見張りって大事な仕事だろ」

「ここから見えると思うんですが、村の四隅に見張り台があるんです」


村は低い柵に四角く囲われている。東西に長い長方形だ。

その四隅に見張り台があり、対角に一人ずつ見張りが立っていた。

大人と一緒に見張りにつき仕事を教えて貰ったり、空いている見張り台に登る事もあるそうだ。


「目が良くて、声も大きくて、走るのが得意なので、向いているって言われてます」


ルーフは少し照れくさそうに言った。


「じゃあ、俺と競争してみるか。村の端から端までな」

「いいですよ。僕が勝ったら村の外の話を聞かせてください」

「勝つ気満々かよ。俺が勝ったらどうすんだ?」

「僕の宝物をあげます」


ルーフが自信ありげに見ていた段階で辞めとけばよかった。

数分後、地面に倒れ込み、荒い息を上げながら俺は後悔していた。

ルーフも肩で息をしていたが、まだ余裕がありそうだ。

会社勤めで運動も碌にしてない俺が、野性味ある子供に勝とうなんて考えが甘かった。


「こっちに来て強くなったつもりでいたけど、体力的には強くなってないのか」

「魔法やスキルを使うことで強くはなれますが、基本体力、運動能力は元の世界のままです」

「こっちの世界に応じた身体能力にしてくれないの?」


荒い息を吐き、額に立つナビに聞く。

疲れすぎて叩く気にもなれない。


「応じるとは何を基準に応じればいいのでしょうか。この世界にはあなたと同年代で体力の劣る者もいます。魔法やスキルを使えるだけでも、その者達より優遇されてます。あなたは人を統べる神になりたかったのですか? それならアンケートに神になりたいと書けばよかったのです。人を見下し、この世界の神になりたいと!」

「そんなこと思ってねえよ」

「安心してください。魔法やスキルを取得し、人を見下し続ければその先にはあなたの望む神が待っているのですから」

「なんでお前は、変な道にしか案内しようとしねえんだよ!」


相変わらず好き勝手なことを言ってくれる。

だが、今のは俺も甘えていた。


「大丈夫ですか?」


ルーフがなかなか起き上がらないまま、小言を言う俺を心配そうに見下ろしてきた。

既に疲れた感じもなく、普通に話している。

回復力も大したものだ。


「ああ、もうちょい待ってくれ」


息は整ってきたが、代わりに気持ち悪さが込み上げてくる。

本当に体力ねえな。

まだ動けると思っていたが、社会人として数年経っただけでこれかよ。


「いい機会ですし、身体強化を取ってみてはいかがですか? 属性にあった強化を望めますよ」


ナビがセールスマンだったら悪どく稼げたに違いない。


「攻撃、防御が上がるのは当然なので省き、属性効果だけ言っておきましょう」


ナビは言い慣れた口調で、詰まることなく説明を始めた。


地属性は他の属性より防御力に優れ、足場が悪くても支障なく歩ける。

耐震にも効果あり。


水属性は他の属性より魔法防御に優れ、水中でも動きが鈍る事がない。

水中で息が出来るスキルと合わせれば、効果が続く限り水中に要られる。


火属性は他の属性より攻撃力に優れ、火刑に処されても大丈夫。

攻撃補助の為に纏うと効果的。


風属性は身体的能力が向上する。

反射神経、動体視力、反応速度も上がるため、周りが遅く感じる。


魔法の画面を開きながら全ての説明を聞き終えた俺は、迷わず一つの魔法を選んだ。

それは風の身体強化。

この先、この地に住む魔物と出くわすかもしれない。

その可能性は高いだろう。

今の俺なら間違いなく何もできずに終わる。

魔物との戦い方なんて習ったこともないのだ。

これは戦う為ではなく、戦いを避ける為の魔法。


魔法の画面内にある【風玉かざたま】から白い線が延び【身体強化・風】という文字が強調された。

これで残るポイントは三つ。

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