2.スキルポイントの稼ぎ方
木々の生い茂る悪路を歩いて十数分、まだ村は見えていなかった。
整備されていないであろう道と対象に、不自然なほど広い道幅は俺がこの世界に来た影響か。
この世界に来たことで俺の体にも変化が起こっていた。
疲れと酔いを認識しつつ、体がそれらを忘れたかのように軽い。
これならば、体力的に村まで歩いていくのは問題ないだろう。
「村に着くまで暫く掛かるので、簡単に説明しておきましょう。この世界はあなたが強くイメージしたファンタジーの世界感で作られています。人間族以外にもエルフ族、巨人族、獣人族、魔族など多種族が暮らしています」
ナビは俺の横で歩調を合わせながら言葉巧みに世界の事を話した。
多種族、未開の地、剣と魔法、次々と発せられる言葉の全てが俺の心を擽る。
ゲームや映画といった仮想空間に自分がいたら、と想像したことは一度や二度ではない。
子供の頃に思い描いた世界がナビの説明と共に、現実のものとして広がっていくのを感じた。
今、俺は望んでいた世界の中にいるのだ。
「重要なことを忘れていました。あなたは人生における目標をお望みでしたね。この世界の何処かにいるもう一人のあなたに会う。それが目標になります。お互い引き合う関係ですが、出会うのは困難を極めるでしょう。ちなみに私も居場所は分かりません」
「それでどうやって探し出せっていうんだよ」
「探すのではなく引き合うのです。適当に選んだ道であろうとも、その先にはもう一人のあなたが立っていると思ってください。その後、どうするかはあなた次第。長期目標なので、それほど意識する必要はありません。それよりも、今すべきはこの世界に慣れる事でしょう」
もう一人の俺も違う場所でこうやって説明を受けているのだろうか。
環境が違えば性格も違ってくるというが、もう一人の俺も同じ年だとすると劇的なことがなければ、それほど変わらないかもしれない。
そんな俺と会ってどうするんだろう。
今はあれこれ悩んだところで、どうしようもないか。
ナビの言うように頭の片隅にしまっておこう。
「それで、俺は何をすればいいんだ。敵を倒しながらレベルを上げていけばいいのか」
「レベルの概念はありません。ツリー状の魔法、スキル、装備アイテムを取得することで選択の幅が広がります」
敵を倒しながら経験値を稼ぐ世界ではなさそうだ。
そうなると、するべき事より出来る事を知った方がいいかもしれない。
「魔法って言ったよな、今の俺にも使うことが出来るのか」
「四属性の力を玉に込め放つ魔法は使えます」
ナビの説明と共に半透明の画面が開く。タッチパネルのようだ。
画面上部には火玉ひだま、風玉かざたま、水玉みずたま、土玉つちだまと白く表示されていた。
その四つからツリー状に下へ伸びた先は灰色で表示され、まだ使用できない事を現している。
毒、麻痺、睡眠といった状態異常もあり、色々と駆使して戦いましょうとナビは説明した。
「画面右上のポイント一つと交換で魔法を一つ取得出来ます。ポイントの貯め方ですが、相手にとって良い事をすれば貯まります」
「世の人々を助ければポイントがもらえるのか」
「助ける対象は人以外でも構いません。助けた対象に敵対する存在がいた場合はあなたの印象が悪くなる可能性があります」
「ポイントを取るか印象を取るか、選択で環境が変わるのか」
「選択次第でポイントが多く取れます。例えば、魔物が村を襲う前に片付けてもポイントは貰えません。しかし、村が襲われている最中に倒せば、住民からポイントを得られるでしょう。先に魔物の計画に荷担してポイントを稼いでおけば、裏切りがバレたところで後の祭り」
「そこまでしないといけないのかよ」
「人の村で静かに暮らすなら全く必要ないでしょう」
「じゃあ、さっきの鬼畜のような説明いらねえじゃねえか!」
画面を透過して俺のパンチがナビに炸裂した。
地面に叩きつけられたナビから画面に目を戻した俺は変化に気付く。
画面にはスキルと表示されていた。
他にあるのはポイントだけだ。
「なんだこの画面?」
「スキル画面です。ポイントを二つ使う代わりに、独自に考えたスキルを取得できます」
しかし、ナビは現状お勧めしないと続けた。
知識がない今取ったとしても無駄になる可能性が多いというのだ。
際限なくポイントが取れるなら片っ端から取れば良いが、忠告するって事は違うのだろうか。
そうなると情報が欲しいが、ナビから情報を聞き出せたとしても判断材料がない。
過剰に情報を得ても余計に混乱するし、これはポイントを貰ってから考えよう。
そのころには多少情報を得ているはず。
まずは手持ちの魔法を調べるか。
俺は画面をスライドさせ、魔法の表示に戻した。
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