【口語訳】圭土点(はうだ)の水卯男(しちお)

―その男は、愚か者でしたが 義理人情に篤い男でした。

はるか昔には "天命"と呼ばれる、地上に堕ちてしまった 世界を創りし神様のひとりでした。

地上に堕ちるとき、元 "天命"(ここではミコトと呼びましょう)が置き忘れたものがありました。

それは、"統(ミツリ)"と呼ばれるもので、 神様たちが持っている、永遠の命でした。

しかし、ミコトは地に堕ちてから 新たな術を身に修めました。

それは、"互(タガイ)"と呼ばれるもので、

天上の世界とは違う、地上の世界で生き抜くために

自分自身を生み直し、違う"自分"をたくさん広げることでした。

"互"になれば、そのひとつひとつはとても短いけれど

数えきれないほどの出来事を、並行同時に乗り越えて、

その記憶すべてを 一つの命では抱えきれないほどに 秘めていました。

そうして時が星の数ほど流れるうちに、ミコトは神様だったことを忘れてしまいました。

神様たちは、そんな短命の彼らを 地人(ちひと)という呼び名で蔑みます。

しかし、これはそんな神様たちすら知らない この世界でたったひとつの力であり、

のちに地命(チヨミコト)と呼ばれる 新たな神様になるとは 誰も思いませんでした。

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