【口語訳】青月長(せんたう)の戻女(れいにょ)

―そのお方は 地上に姿を現すことはなく、

ただ空に浮かぶお月様から 私たちを眺めています。

優しくて、恥ずかしがり屋で

いつもいろんな人や物事を心配してしまいます。

星がひとつ消えてしまうことさえ 悲しんでしまうほどです。

その方はその昔、地上の世界に憧れて、

地上の人と伴侶になったこともありました。

けれど、月の人の寿命は、地上の人の寿命よりもとても長いものでした。

そのせいで、そのお方にとって 伴侶になった人はすぐに亡くなってしまうように感じたのです。

その伴侶も、その次の伴侶も、

そのお方にとっては まばたきするように亡くなってしまいました。

そんな出来事が何千回もあったので、そのお方は心を病んでしまいました。

そのお方は 月に帰り

月立御敷(つきたてみしき)という屋敷を建てて、ずっと引きこもっています。

過去に伴侶にした人たちを思い返しては、 もういないことを悲しみ嘆いてばかり。


零れ落ちるあまりの涙に 世界の神様のひとり、冥王様は

可哀そうに思って、死んだ魂を蘇らせ、そのお方に会わせてあげました。

そのお方は、初めはまた会えたことに喜び その気持ちに浸っていましたが、

やがて、亡くなってしまった事実を思い出し ふたたび昔の想いにふけって 悲しみの底へ沈んでいくのでした。

ああ、悲しいものです... あのお方は、このまま悲しみに暮れたままなのでしょうか。

ああ、誰か... ずっとそばにいてくれる方はいないのでしょうか―

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