第6話 アメリカの県庁所在地

 ある日本人の集まりで次のクイズを試みてみた。それぞれの州都を選ぶもので、カッコ内はおよその人口数を示す。


ミシガン州

(a) アン・アーバー (110,000)

(b) デトロイト (1,000,000)

(c) ランシング (127,000)


フロリダ州

(a) マイアミ (359,000)

(b) オーランド (165,000)

(c) タラハッセ (125,000)


テキサス州

(a) オースティン (466,000)

(b) ダラス (1,007,000)

(c) ヒューストン (1,631,000)


ニューヨーク州

(a) オーバニー (101,000)

(b) バッファロー (328,000)

(c) ニューヨーク (7,323,000)


ペンシルヴァニア州

(a) ハリスバーグ (53,000)

(b) フィラデルフィア (1,586,000)

(c) ピッツバーグ (370,000)


イリノイ州

(a)シカゴ (2,784,000)

(b)ペオリア (114,000)

(c)スプリングフィールド (105,000)


カリフォルニア州

(a)ロスアンゼルス (3,485,000)

(b)サクラメント(369,000)

(c)サンフランシスコ(724,000)



 正解は末尾に掲載した通りだが、この集まりでの成績は案の定、正解率の低い結果だった。もっとも、これをアメリカ人に試しても満点を得る者は余程の博識者であろうが。

 今日アメリカで人口が多い十大都市は、東海岸から順に、ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴ、ダラス、ヒューストン、サンアントニオ(テキサス州)、フィニックス(アリゾナ州)、サンノゼ(カリフォルニア州)、ロスアンゼルス、そしてサンディエゴ(カリフォルニア州)だ。このうち州都はアリゾナ州のフィニックスだけだ。

 数年間ニューヨークに駐在した某日本人ビジネスマンは、日本に帰任しても駐在事務所の所在地だったマンハッタンのあるニューヨーク市を州都と信じていたという逸話がある。

 日本で知られる大方の町が州都でなく、例外はボストン(マサチューセッツ州)、アトランタ(ジョージア州)など数少ない。世間に余り知られていなくて人口が少ないほど州都の可能性が高いという、日本とは正反対がアメリカの県庁所在地となる。


 日本の県庁所在地もアメリカの州都も三権の所在地であることには違いがない。なぜ、日米の間でこのような差異が生じるのだろうか?

 日本では県内で最も大規模な町に県庁があるのは、行政が跳び抜けて大きな役割を果たしている「お上の国」だからに違いない。許認可を必要とする範疇がアメリカに比べて格段に広く、しかも書類の送付ではことが敏速に処理できないケースが多い。

 役所の近くに社屋を構え、緊密な関係を持つことが円滑な業務を進める上で好都合を生む。行政が何にでも手を突っ込むために情報も行政に近いところに集まりがちだ。こうして企業は県庁所在地や首都圏に居を構え、人も当然ながら右へ倣えとなる。


 アメリカでは政府が関与する分野が限られていることと、許認可も書類の送付で事がすむ。最近ではほとんどがインターネットを利用したネット上で処理されている。国民全員が確定申告書を提出しなければならない納税にしても、既に九割は電子ファイリングと呼ばれるネット上での処理になっている。

 更に、役人に対する市民の姿勢の違いが考えられる。特定の職に必要とされる資格試験はあるが、国家公務員や地方公務員を採用するためだけの試験は存在せず、上級職やノンキャリアという概念もない。

 公務員はごく特殊な職種を除いて優秀な学卒が熱望する職ではなく、上級試験に合格すれば一生が保証される官僚社会の日本とは大きな違いがある。ホワイトハウスの高級官僚にしても、多くは民間人が乞われて務めているのが実情で、政権が代わればいそいそと元の職場に戻るのが常だ。


 アメリカでは首都のみならず州都であっても企業や人が集まる理由が存在せず、その結果、クイズの正解のごとく世間では余り知られていない地に州都が置かれたままになっている。これらの州都もかっては相応の規模だったが、人為的に定めた州都が商業や工業の最適地であることは珍しく、今となっては州都は地方都市にすぎない例が大半となったのだ。

 州都はその州の中央部に位置することが多い。議事堂を州の中央部に設けたところに、議員が各地から集まる議会を最も重視する立法重視の国らしいアメリカの特徴が出ている。

 中央部に位置しない例外がホワイトハウスや連邦政府の省庁がある首都のワシントン特別区だ。これは独立直後は州が東海岸に集中していたからで、南北双方の妥協の産物として、当時は湿地帯で誰も住むことがなかった現在の地が選ばれたのだ。おかげで今では西海岸や西部州選出の連邦議員たちは選挙区との往復に成田からバンコックに匹敵する長距離飛行を強いられている。

 鎖国を解いた日本が短期間に列強に伍すことができたのは、その強力な官僚に支えられた中央集権があったためだが、その結果、県庁所在地や首都圏への集中、そして中央と非中央の格差を生んだことになる。

 


クイズの正解:c、c、a、a、a、c、b


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