第10話俺と後輩と寝起き(後輩)

「起きろ、静香‼ 学校に遅刻するぞ」


 月曜日。俺は先日、休みの日に無理やり起こされた仕返しとして朝早く、静香を叩き起こしていた。


「お・き・ろ。お・き・ろ」


 だが、こいつの方がどうやら俺よりも深い眠りについている様だ。先ほどから耳元でスマホのアラーム音を響かせても大声を出しても一向に目を覚ます素振すら、なかった。


「こいつ。意外とタフだよな」


 そう言って起こすのをあきらめようと俺が、静香が眠るベッドから離れようとすると丁度いいタイミングでこの部屋に眠っていた後輩は声をあげた。


「わーい、せんみゃいだ」


 寝ぼけているのか、体を起こした静香は言葉がはっきりとしていなく、俺が自分の部屋にいることすら気にしていない様子だ。


「とりあえず、まだ寝ぼけてるなら顔でも洗って――」


 俺が起き上がった静香に目線を合わせるように声を掛けると静香は手を伸ばし、俺の首の後ろを押さえると強い力で自分の元まで引き寄せた。そして俺はその所為で、嬉しい恥ずかしい静香のおっぱいゾーンへと突入してしまった。


「お、おい‼ こんなところおばさんかおじさんに見られでもしたら、誤解されるだろうが」


 俺が何とかして抜け出そうと腕の隙間にうまい具合に首がはまってしまって、無理そうだった。

 ならばと、静香を今の状態から普段の少しあざとくて、ウザい状態に戻すしかないと思った俺だったが、この状態から抜け出せないことにはそれも不可能だ。そして問題がもう一つある。

 この状態が続いた場合。果たして俺は理性を保ったままでいられるだろうか。いや、そもそも理性は保ち続けないといけない。そうでなければ、こいつの事を好きでいる資格がないのだ。

 静香は昔から自分の胸が異性からの視線に晒されていることに気づいており、中学時代はよく俺に愚痴っていた。そして俺はその時にこう言ってしまったのだ。


『見た目だけで告白とかしてるやつは信じるな。絶対にそういう奴は最低な人間だから』


 今思えばあの時は、自分が高校生になったばかりだったせいか、少しだけ調子に乗っていた様な気がする。あー今すぐ殴りに行きたい、昔の俺。

 そもそもあの頃はそれほどこいつに好意らしい好意を見せたこともなければ、そもそも恋愛対象にすら入れてなかったような気がする。


「本当に自分でも気が付くのが遅すぎだよな。たった一言お前に好きだっていえばいいのに」


 俺はいつもの様に。独り言としてそう呟いた。寝ぼけているとはいえ、自分の意中の相手が目の前にいることも忘れ。

 だが、大丈夫だろう。静香の事だ、未だに寝ぼけたままだと言うことを俺は信じている。それにもしもこいつに聞かれていたとしてもその場合は……どうしよう。  あれ? よくよく考えてみたら、静香に好きなやつがいるってこの前聞いたばかりなのに、告白紛いの事をするのはどうなんだ。そもそも俺は本当にこんな棚牡丹的告白でいいのか?

 勿論。いい訳がなかった。俺は改めて自分がどんな告白をしたいのかと考えてみるも。


「ふん。我ながらアホ過ぎて呆れてくる」


 俺の頭に浮かんだ告白劇は基本的に上手く口で相手を乗せるまるで詐欺の様な手口だった。それじゃあ、ダメだ。例え時間を掛けたとしてもそれはきっと俺が納得しないし、静香はいい返事を返してくれない。なら一体、どういう告白をすればいいんだ。

 しばらく俺が悩み続けているとようやく、目が覚めたらしい。静香は自分が俺を抱き寄せていることを知り仰天していた。


「な、なんで私は先輩に抱きついてるんですか⁈ そもそもなんで先輩が私の部屋に」


 そう言って混乱する静香は滅多に俺の前では見せないキャラとなっていた。


「と、とりあえず、落ち着け。そして俺を解放しろ。でないと俺が窒息死する」


 混乱する静香によってさらに強い力で胸に押し付けられた俺は、何度か呼吸困難になり、危うく息を引き取るところだった。

 因みに静香の胸の感想としては、すっごく、柔らかかった。まさかこの世にあんなに柔らかいものがあるとは知らなかった。これはきっと俺の勉強不足に違いない。

 馬鹿なことを考えている俺を解放した静香は、自分のパジャマ姿を見ると慌てて隠した。なぜなら――


「いや、今更隠さなくても知ってるからな。お前がほとんど花とかがプリントされたお子様パジャマを着てることぐらい」


 基本的に静香はお子様趣味だったりする。いつもは俺にグイグイと来るが、家の中。特に彼女の部屋では大人しく、慌てふためくことの方が多い。


「それにしてもお前。ぬいぐるみとか俺に集めさせ過ぎだろ」


 静香の部屋のほとんどはゲーセンのクレーンゲ―ムなどの景品である動物やファンシーキャラのぬいぐるみであふれている。そしてそれらを取ったのは、勿論俺である。


「仕方がないじゃないですか。一つ一つ、先輩が頑張って取ってくれたんですから、捨てられません」


 静香はそう言うとベッドの近くに落ちていたペンギンのぬいぐるみを取り、それを抱えてにっこりと笑い、俺に伝えてきた。


「先輩。いつも私の面倒を見てくれたり、我儘を聞いてくれたりしてくれて。ありがとうございます」

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