五人パーティ結成
死者の領域である冥界とつながり、死の力をこの世界に送り込むことでその姿を大きく変質させてしまった全世界の地下に広がる地下迷路「死生混淆冥宮ラビリントス」。
十五歳の誕生日を迎えた全世界の若者は男女を問わずこのラビリントスに挑むことになる。もっとも単なる若造が徒手空拳で冥宮に放り込まれるわけではない。
私たちは「ソロモン王」と呼ばれる召喚技術のエキスパートによって、歴史上の英雄たちの力を与えられ、つい先ほど動く骸骨の怪物を一蹴することに成功した。
そしていよいよ私たちはラビリントスに挑むときを迎える――。
と私は思い、身構えていた。しかし壇上にいたソロモン王から出た言葉は
「ひとまずお昼休みになります。別会場のレストランで食事を取ってください」というものだった。
◇◇◇
そして私たちは最初に集まった公民館を後にし町で一番大きいホテルに移動した。着いた会場には和洋中の料理がずらりと並んだバイキング形式の昼食が用意されていた。
「すごいよーコレ。会場の端から端まで料理のコーナーが並んでるじゃん。エビチリとか麻婆豆腐とか熱々の奴が食えるみたいだし、寿司もその場で握ってくれるんだー。食べ放題だし食べられるだけ食べなきゃ損だよね」
なんて亜紀は盛り上がっていたけど、私としては豪華なバイキングを見てつい「最後の晩餐」なんて言葉が浮かんできてしまう。つむぎはきょろきょろと料理を物色してるから食欲自体はけっこうあるのだろう。このホテルに移動するまでつむぎには色々話しかけてみたけれど、常に挙動不審だった。
春からどこの学校に行くのと聞いてもどこに住んでるのと聞いてもいちいちスマホを見てから返答する。自分のことなんだからそんなもの見なくてもわかるだろうにと思うけど、彼女はこうしないと人と話せないのかもしれない。コミュ障って奴?
一方の亜紀は高校に入ったら吹奏楽部に入ってトランペットをやるんだとか夏までに絶対に彼氏を作るんだとか聞いてないことまでべらべらしゃべって、ホテルまでの道中はほとんど彼女一人がしゃべっていたような気がする。つむぎと亜紀、二人を足して割れば良い加減のコミュ力を持った人になるんじゃないだろうか。
たまたま会場で知り合った私たちだけどとりあえずは一緒に行動し、ご飯も一緒のテーブルで食べることにしたが、用意されたテーブルは五人掛けのものばかりだ。さっきの試験で二、三人のグループはあちこちに出来ていたが、五人のグループというのはほとんど出来ていない。次々と皆が席についていくと段々と無人のテーブルがなくなっていく。
「えー皆さん。この会場には人数分ちょうどのテーブルしか用意されていません。必ず五人でテーブルについてください」
あちこちで係員の人が注意を促している。
「どこも相席になるってことなのかな」
「そうでしょ。そしてそのテーブルについた五人のパーティでラビリントスに挑むことになるんだよ」
それ本当? と聞く間もなく次の瞬間、亜紀はカラミティジェーンに変身していた。
「ちょっと亜紀、勝手に変身しちゃマズいでしょ……」
「そんなことないと思うよ?」
亜紀は近くにいた係員に視線を送る。目が合った係員はにっこりと笑い「皆さん、別に変身したければしてしまって構いませんよ」と言う。
どうしようか、と思ってつむぎの方を見ると彼女はすでにアリアドネに変身していたし、会場のあちこちに英雄に変身している人の姿があった。よくわからないけど私も巴御前に変身してしまった。
「テーブルについた五人がパーティを組むことになるって話は本当なの?」
「本当だよ。だから変身したわけ。互いに手持ちの英雄の能力がわかっていた方がバランスの良いパーティが組めるでしょ。ちなみにテーブルについた五人でパーティを組むって話は去年ラビリントスに挑んだセンパイからの情報だよ」
「必ず五人パーティじゃないといけないのかな」
私は思わず近くにいた係員の方を見た。三十くらいのその男の人は「その通りですよ」と返事をしてくれた。
「ラビリントスには一人で挑んでもらっても構わないのですが、徒党を組んで冥宮に挑める最大の人数は五人。そうミノス王から通達を受けています。そして五人以上の人数で冥宮に挑んだ者たちには冥宮運営サイドからペナルティが与えられます。もっとも冥宮内で偶然出会ったパーティが一時的に協力することは認められているんですが、その辺は今回の試験にはあまり関係ないでしょう」
「なんで五人なんだろうね」
「さあ、よくわかりません。五という数字が神聖な数字だからという説もありますが、冥宮運営の考えてることは我々人間にはほとんど謎なんですよ」
そう言って係員の人は別のテーブルの人たちの方へ移っていった。
「本当に五人パーティで冥宮に挑むみたいだね。後二人はどうしようか。つむぎはどんな英雄と組んだらいいと思う?」
ホテルに着いてからずっと黙ったままのつむぎに話しかけると彼女は何か考え込むような表情を浮べていた。
「どうしたのつむぎ、何か気になることでもあるの?」
「……なんでもない。冥宮に五人で挑むならまず近接戦闘をこなせる者があと一人は必要だと思う」
「確かにそうだよねー。RPGでも戦士キャラが二人はいないと厳しいもんね。麻友ともう一人戦士系の英雄を入れてあたしの銃とつむぎの糸でサポート、あと一人は割とどんな英雄でもいいような感じかな」
私も亜紀の意見に頷く。戦士を含む二人組はいないかと探し始めると、すいませんここいいですかと男子二人組が声をかけてきた。二人とも既に英雄に変身している。
一人は小汚い着物を着て二刀流の木刀を持った剣士風で、もう一人は平安貴族みたいな恰好をしていた。
「えーと、あなたは宮本武蔵……ですよね」
「そうです。俺の英雄は宮本武蔵です……、っていかにも宮本武蔵って感じのコスプレですよねこの格好。ちなみに本名は阿部隆史って言います」
そう言って隆史君は笑った。恰好はワイルドだけど隆史君自体は童顔で可愛い顔立ちだ。
「そちらの平安貴族さんはどういう英雄なの?」
「俺の名前は道下正雄。俺についた英雄は紀貫之です」
「どんな人だっけそれ?」
「ちょっと麻友ってば教養ないわね。紀貫之って言ったら平安時代の歌人で土佐日記って日本最古の日記文学をものした人よ」
「ちなみに日本最古のネカマなんて言われてます。そして英雄としての能力は女の英雄になりすますって能力です」
「マジでネカマかよ!」
「とはいってもどんな女英雄にでもなれるわけじゃなくて近くにいる英雄の能力しか使えないんですけどね」
それでもけっこうスゴイ能力だと思う。私と亜紀は顔を見合わせる。英雄の能力的には戦士キャラの宮本武蔵と私たち三人の能力を状況に応じてコピーできる紀貫之、けっこう頼りがいのある仲間っていう気がする。
私たちが頷き合うと黙っていたつむぎも「私もこの二人でいいと思う」と言ってくれた。
そして私たち五人は互いの顔を見合ってにやりと笑い合った。
こうして私たちのパーティはひとまず結成されたのだった。
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