第66話
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もうダメだ。このままでは悪化していくだけだろう。
西山明弘は病院へ行く決心をした。虫に刺されてから十日ほど経つが症状は一向に良くならない。痒みは酷くなる一方で、全身に広がろうとしていた。
咬まれたところから肌は赤黒く斑に変色して、触るとガサガサと荒れて、まるで爬虫類か何かの皮膚みたいだった。
最初のうちは大家の娘が、献身的に痒み止めの薬を塗布してくれた。ところが症状が酷くなると、頼んでも拒否するようになる。最後は気味悪がって患部を見ようともしなかった。
頼れる人間は大家の娘だった。不味くても食事の用意はしてくれた。しかし今では、カップ麺がドアの外に置かれているだけになった。部屋に入ってこようともしない。もう顔を合わせたくないらしい。もはや、あの程度の女にも見放された格好だ。なんて様だ、このオレが。信じられない。これほど惨めな気持ちになったのは今までになかった。
医者に見てもらうしかない。薬局で買ってきた市販の薬では治せないと判断した。症状が少しでも良くなったら、一刻も早く黒川拓磨のバカに仕返ししたい。あの小僧、ぶっ殺してやる。
何日かぶりにレガシイを運転した。4サイクル水平対向4気筒の振動が、ハンドルを通して伝わってきた。世界的に珍しい独特のエンジンだ。高い買い物だったが後悔はしていない。いい車だ。アトランテック・ブルーパールという、ボディ・カラーも気に入っていた。
皮膚科の病院は五井の方まで行くことにした。地元近辺ではマズかった。知った顔に出会う恐れがあるのだ。以前に水虫の治療で近くの皮膚科に行ったところ、生徒の母親に会って、ヘンな噂を流されたことがあった。話が人から人へ伝わる途中で水虫が性病の治療に変わってしまう。否定したが、受け入れてくれたか自信がない。人は悪い方を信じたがるのだ。
国道127号線に出たところでカー・ステレオのスイッチを押した。レガシイを走らせて久しぶりに気分が少し良くなったからだ。音楽が聞きたくなった。
スピーカーから流れてきたのは、おニャン子クラブが歌う、『セーラー服を脱がさないで』だった。西山が好きな曲の一つだ。
初めて聞いた時は少なからず驚いた。こんな歌詞でよくON AIRできたなと思った。まるで全国の女子学生に、早く処女を失いなさいと奨励しているようなものじゃないか。
一度で気に入った。特に好きなフレーズは、「友達より早くエッチをしたいけど」という下りだ。オレの脳下垂体をジーンと刺激してくれる。何度でも聞きたい。こういう歌詞を書いた奴は天才に違いないぞ。
繰り返し繰り返し聞くうちに西山の頭には一つのアイデアが浮かぶ。それはバカでもいいから超セクシーな女をナンパして、そいつにセーラー服を着せてやろうという考えだった。
成熟した身体にセーラー服だ。これは、きっと合う。最高にエロチック。でもセーラー服は脱がさない。着たままがいい。その格好で、オレの核弾頭を搭載したミサイルを何発も撃ち込んでやる。格納庫が空になるまで発射しよう。超セクシーな女を破壊して破壊しまくるのだ。攻撃が終わった後には何も残らない。女は意識も体力も無くなって廃墟と化す。
色々と作戦を考えていく過程で想像は膨らむ。セーラー服の次は君津南中学の体操服を着せてやろうじゃないか。
超セクシーな女に、あの小さな赤いブルマーを穿かせるのだ。こりゃ、セーラー服よりエロチックなのは間違いない。これまでは、手塚奈々が授業で校庭をランニングするのを横目で見て楽しむだけだった。
きっと女は身の置き場もないほど恥ずかしがるだろう。そこでバッグに隠してあった高性能カメラを取り出して撮影を開始だ。お願い止めて、と女が泣き叫んでも無視。お前の恥ずかしい写真を職場の同僚に見せるぞ、と脅して更に恥ずかしい行為を強要する。
赤いブルマー姿で……、そうだ、ついでに犬の首輪を身に付けさせて、図書館や郵便局の周りを歩かせよう。裸じゃないから法律には違反しない。だけど女は羞恥心で気が狂うほどだろう。その姿を一部始終ビデオに収めてやる。こういう事にかけてだったら西山明弘の想像力は誰にも負けなかった。
どころが、……ところがだ。肝心の超セクシーな女が一人も見つからない。ずっと探し続けた。でもセーラー服やブルマーを穿かせたいと思う女は、テレビや成人向け雑誌でしか目にしなかった。
大家の娘は、着ろと言えば素直に着たはずだ。だけど、あの女には似合わない。やっても意味がなかった。このオレが興奮するどころか逆に萎えてしまうのが分かっていたからだ。
時間が掛かった。バカで少しぐらいブスでもいいかな、と条件を下げてみたりした。それでもいなかった。
とうとう最初の一人を見つけたのは自分の職場で、驚いたことに想像もしなかったくらいに完璧な女だった。それが君津南中学で美術を教える安藤紫だ。
長い脚と悩ましい曲線を描く太もも、桃みたいに丸い尻、くびれたウエストに女らしさを強調している胸の膨らみ。成人雑誌のグラビアを飾ってもいいスタイルだ。顔は小さく雛人形みたいに整っていて、艶のあるワンレングスの黒髪に包まれていた。
なんて女だ。こんなに身近で、こんなに魅力的な女性に巡り合えるとは思わなかった。自分の幸運が信じられない。
ピチピチした尻を左右に揺らして歩く後ろ姿を見たら、男は誰でもその場に釘付けだ。 仕事へ行くのが楽しくなった。何かにつけて安藤紫先生と話をする機会を作り出す。どれほど自分がいい男であるか、一生懸命にアピールした。
職場にいても家にいても、西山明弘は安藤紫先生のヌードを頭に思い描く。ふくよかな胸はブラジャーを外した途端、ブルンと弾んで飛び出すじゃないだろうか。きっと乳首がツンと上を向いているに違いない。早く見てみたい。手で触れてみたい。そして口で吸ってみたかった。オレが巧みに舌を動かすと、安藤先生が上半身を仰け反らせて悶える姿を夢に見た。
彼女のセーラー服を着た姿や、赤いブルマーを穿かされて恥ずかしそうに歩道を歩く様子を想像しては楽しんだ。
こっちの好意が伝わるように優しく笑顔で常に接した。反応は悪くなかった。冗談にも笑ってくれた。ところが、いざ食事に誘おうとすると、何だかんだと理由を口にして、いい返事をくれない。プレゼントを買って渡したりもした。だけどデートの誘いは、のらりくらりとかわされる。それでも時々、オレに気があるような素振りを見せたりした。どうなってんだ。この女は一筋縄ではいきそうにない。西山明弘は悩んだ。これまで付き合ってきた連中とは違う。
オレのミサイルを喰らえば、今までの女は一度で豹変した。
「無理だわ。あたし、そんな恥ずかしい格好できない」なんて言っていたのに、すぐに同じ口から「お願い、もっとして」とか、「いや、まだ止めないで」なんて言葉が飛び出してくるのが常だった。
最初の恥じらいは何だったのか? あの、「待って、まだ早いわ」とか言って焦らせたのは何だったのか? 女って生き物は理解するのに難しい。
安藤先生だって一度でも身体を許せば、オレの凄さが分かるってもんだ。その時は、どうしてもっと早くデートの誘いに応じなかったのかと後悔するはずだ。
時間は掛かりそうだ。しかし西山明弘は諦めなかった。こんな特上の獲物を他の男に奪われてたまるものか、そんな気持ちだ。オレが見つけた宝物だ、誰の手にも触れさせたくない。
ところがだ、加納久美子先生の登場で固い決意が一気に揺らぐ。
西山明弘が何年も掛けて築いた、『自分が好む女性のタイプ』というイメージを根底から覆す容姿を持っていた。
背は高いが、バストもヒップも大きくない。スレンダーな身体だった。女らしさよりもアスリートみたいな感じが強い。しかし喋り方とか、物腰や仕草が堪らなくセクシーなのだ。それに加えて全身から醸し出す知的な雰囲気。きりっとした目鼻立ちから、それは強く窺えた。
新鮮な女だった。西山明弘の人生にとってニューヒロインの登場だ。知的が故に近寄り難さがある。バカな男じゃ相手にしてもらえないだろう。その点では有利だった。周りを見てもオレより賢そうな男はいない。
知性に溢れた女性に赤いブルマーを穿かせて辱めるのは、それは一味違う興奮が期待できた。加納久美子が手に入るなら安藤紫は諦めてもいい、そんな気持ちになった。
どっちかをモノにしたい。その為に努力してきた。思ったように事は上手く運ばなかったが。まだギブアップはしていない。いつか決定的なチャンスが来るのを待っていた。
それが、ここにきて得体の知れない虫に刺されて状況は悪化。仕事すら失うかもしれない危機だった。異常な痒みに苦しみ、体は全身が内出血するように赤紫に変色していた。一日も早く、この症状から抜け出したい。
完治したら真っ先にやることは黒川拓磨に仕返しすることだ。女どころじゃない。この西山明弘をコケにしたら、それなりの代償を払わす。やられて泣き寝入りするような情けない男じゃない。
五井にある皮膚科の病院は小さいところを選んだ。どこでも同じだ。込み合っていなくて、早く診察してくれたらそれでいい。
「どうしました」明らかに還暦は過ぎたと思われる医者は、診察室の椅子に腰掛けた西山明弘に訊いた。
こんな、よぼよぼの年寄りで大丈夫だろうか。受付にいた中年の女は、こいつの女房だろうと察した。夫婦二人だけでやっている皮膚科の病院らしい。寂れた感じだ。ちゃんと診察してしてくれるのか、少し不安になってきた。
「強い毒を持った虫に刺されまして……」西山は答えた。
「えっ、この寒い時期に? 一体どんな?」
「それが分からないのです。見たこともないやつでした」
「本当に虫なのかな?」
「そうです」
「じゃあ、刺されたところを見せて下さい」
「これです」西山はジャージ・パンツの裾を捲り上げた。
「えっ。……こりゃ、ひどいな」
「そうなんです。どんどん悪くなる一方で……」
「こんなに強い毒を持つ虫なんて、日本に生息しているのかな。私は知らない。で、刺されたのはいつですか」
「一週間ほど前です」
「ここまで酷くなるまで放っておいたんですか。そりゃ拙いな」
「いいえ、そういうわけじゃなくて……。市販の薬を使っていました。ところが一向に良くならなくて」
「症状が悪化してからでしょう? それじゃあ、意味がない。手遅れですよ。刺されたら、すぐに消毒しないと」
「えっ? し、しましたけど……」
「うふっ。していませんよ。見れば分かります」
「そんな、……医務室で消毒をしたつもりなんですが」
「勘違いでしょう。してたら、こんなに症状が悪くなるはずがありません」
「……」西山は怒りで顔が真っ赤になるのが分かった。しかし抑えられない。
あの東条朱里のメス豚め、オレを騙しやがった。沁みます、とか言ってオレに目を瞑らせて、消毒薬とは違う別の液体を落としたんだ。許せねえ。間違いない、あの女は黒川拓磨とグルだった。二人してオレをハメやがって。チクショウー。仕返ししなきゃならないバカ野郎が一人増えた。ぶっ殺してやりたい。
「どうしました?」
「あ、……い、いいえ、何でもありません」医者の言葉で我に返った。「で、どのくらいで治りますか?」
「……」
「先生?」
「何とも言えないよ」
「どういう意味です?」
「ここまで悪くなったら、……もう元通りには」
「刺された痕が残るっていうことですか?」
「だろうな」
「痒みが酷いんです。それは治りますか?」
「痒み? 痛みじゃなくて?」
「はい。刺された直後は物凄い痛みに襲われましたが、今は痒くて夜も眠れ--」
「あれっ」医者は西山の言葉を遮った。「ちょっと待って」おもむろにトレーからピンセットを手にすると、それを患部に近づけた。見ている前で荒れた皮膚の一片を取り除いた。
そのまま医者はピンセットの先を正面に持ってくると、反対の手で老眼鏡を調節しながら凝視する。「うわっ。こりゃ、凄い」
「……」そんなモノを見て何を驚いているんだ、この年老いた医者は? この病院を選んだのは間違いだったかもしれない、と西山は思った。
「見てごらんなさい」ピンセットの先を西山の顔に近づける。
「はあ?」そんなモノ、見たくない。
「よく見て」
何の意味があるのか分からない。それよりも、この痒みを早く何とか〡〡。「げっ」
自分の皮膚だった一片に何かが動いていた。よく見ると糸状の小さな虫だった。何匹かいる。なんて気持ち悪い。「これは……、これは一体なんですか?」
「幼虫だな」
「ど、どうして、……こんなところに」
「どうやら、キミの体の中で生息しているらしい」
「そ、そんなバカなっ」
「刺されたところを見てごらん」
「え?」信じられない気持ちだったが、医者の言葉に従った。「うわっ」その通りだった。刺されて化膿した回りに糸状の虫が蠢いていた。
「痒みの原因は、それだな」
「え、これが?」
「そうだ。つまり、その幼虫たちがキミの皮下組織の中を動き回ることによって、痒みが生じるということさ」
「……」
「キミが興奮したり、激しく体を動かしたりすると強い痒みが襲ってこなかったかな?」
「……」
「どうだ?」
「……確かに。言われて見れば、そうです」
「やっぱりな」医者は自分で納得するように大きく頷く。「血行が活発になれば、同時に幼虫たちも刺激を受けて活動が激しくなるということだ」
「……」
「痒みを抑えるには静かにしているしかない」
「そんな」
「キミを刺した虫は毒を注入したんじゃない。キミの体の中に卵を産み付けたらしい」
「そんな事ってあるんですか?」
「あるよ。聞いた話なんだが……」医者は前屈みの姿勢に疲れたのか、椅子に座り直すと続けた。「私の父親は太平洋戦争でニューギニアの密林地帯まで連れて行かれたんだ。そこでは人間の目を狙って卵を産み付けようとする虫がいたらしい。刺されたら次第に視力が落ちて、いずれは失明する」
「……」
「キミを刺したのも同じような種類じゃないかな。どんな虫だった?」
「ハエみたいに黒くて小さくて、……そいつの背中には黄色いラインがありました」
「え、黄色いラインだって?」
「はい」
「ふうむ。そういうのは聞いたことがないぞ」
「……」
「珍しい。もしかして新種かな?」
「どうしたら殺せますか? この虫は」
「蚊は血を吸って栄養分を奪うけど、この虫は人間の体に寄生するなんて……」
「もう痒くて、痒くて我慢できないんです」
「古い映画になるが、リドリー・スコット監督の『エリアン』を観たことがあるかな?」
「は、……はい」いきなり何だよ。どう、それが痒みと関係しているんだ。「宇宙船の中で怪物に襲われるやつでしょう」
「その通り。素晴らしい映画だった。わたしが面白いと思う作品の一つだ。まあ、しかしだな、シルビア・クリステルの『プライベート・レッスン』には及ばないが。彼女の代表作と言えば『エマニエル婦人』かもしれないが、わたし個人としては--」
「わかりました、わかりました。それで痒みを、なんとかしてくれませんか。すぐに」
「あの映画を思い出してほしい」
「どっちの映画を? なんで?」西山は声を荒げた。しつこい。映画の話をしに五井まで来たんじゃない。オレは治療に来たんだ。
「もちろん『エリアン』の方だ」
「何か関係があるんですか、治療と?」
「どこでエリアンは成長したんだい?」
「え」
「初めからモンスターだったわけじゃない」
「……」
「卵から飛び出して乗組員の顔面に張り付き、彼の体内に寄生したんじゃなかったか?」
「……」それと、これと……。まさか。
「同じことが、キミの体の中で起きていると考えて間違いないと思う」
「そんなバカなっ」
「否定したいキミの気持ちは分かる。だけど現実に向き合わないとダメだ」
「この虫がオレの体を食い尽くすって言うんですか?」
「かもしれない。しかしだ、この小ささから考えると、そうはならないだろうな」
「どうなるって言うんです?」
「キミの体の中に棲みついて養分を吸収しながら成長する。やがてサナギとなり、時期が来れば成虫になって飛び立って行くんじゃないかな」
「ふざけんなっ。こ、殺して下さい、早く」
「待ちなさい。この虫の正体が分からないんだ。治療したくても方法が分からない」
「何か殺虫剤がないんですか?」
「あるにはあるが、……しかし」
「お願いです、それを使って下さい」
「でもな、キミも死ぬことになる危険性があるんだ」
「え、……」どうして?
「キミに害を与えずに、寄生した虫だけを殺そうとするところに問題があるのさ」
「……」
「強い塩酸をかけたり、火で焼いてしまえば、きっと虫は死滅するだろう。しかしキミも命を落とすことになる」
「つまり今のところ、治療の方法がないってことですか?」
「そうだ。この虫はキミの体の中の奥深くにまで侵入しているみたいだしな」
「……」こりゃ、もう絶望的だ。
「そこでキミに提案なんだが……」
「はい」
「この幼虫が成虫になるまで待てないか?」
「待つ? どうして」
「成虫になれば、それを研究して殺す方法が分かるというもんだ」
「そ、それまでオレは痒みに耐えなきゃならないんですか?」
「仕方がないだろう。こんな不気味な虫に刺されてしまったのが悪いんだよ」
「……」
「わたしが全ての治療費を負担しよう。痒みは少しでも症状が軽くなるように手をつくす。その代わり、この虫が新種だったら学会で発表させてほしい」
「いやだ」こんなクソ虫に自分の大切な体を蝕まれるのを、ただ見ているなんて。
「しかし他に何か方法があるだろうか。ここは冷静に考えた方がいい。別の見方をするんだ。こんな珍しい虫に卵を産みつけられて幸運だった、と。だってキミが最初の一人かもしれないんだから。成虫になった姿を見てみたいと思わないかい? 学会で発表することになれば、もちろんキミの名前も大きく出ることになるだろう。その為なら少しぐらい痒くたって我慢できるはずじゃないか。どうだろう?」
「いやだ、絶対にいやだ」
「まあ、待ちなさい。そう早く結論を出すことはない。気持ちを落ち着けてからでも遅く--」
「帰る」
「なに?」
「もう帰ると言ったんだ」
「待ちなさい。早まっちゃいかんよ、キミ」
「うるさいっ」
西山明弘は立ち上がると、医者の制止を振り払って診察室を飛び出した。金は払わない、保険証もそのままだ。駐車場でレガシイを急発進させた時、病院から医者が追いかけて来て危うく轢きそうになった。
エンジンをONにさせたと同時に、ステレオのプレー・モードにスイッチが入った。おニャン子クラブの曲が入ったテープが運転席にチャラチャラした音楽を流す。『かたつむりサンバ』だった。耳障りだ。今は、そんな気分じゃない。最初の信号待ちで西山はイジェクト・ボタンを押すと、出てきたミュージック・テープを窓の外へ投げ捨てた。『セーラー服を脱がさないで』を二度と聞くことはないと思った。
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