第58話


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 「これからは連絡を取り合うことにしたわ」加納久美子は美術室にいた。波多野刑事とのやり取りを安藤紫に伝えたところだ。

「三月十三日の土曜日っていうのは確か?」

「うん。そう板垣順平の母親も言っていたから」

「あたし、黒川拓磨から訊かれたのよ」

「えっ、なんて?」

「三月十三日の土曜日は空いているか、って」

「ど、どういう意味?」

「わからない」安藤先生は強く首を振った。

「それで、どう答えたの?」ビックリだ。初めて聞く。

「もちろん、空いていないって言ってやったわ。もし空いていたとしても、絶対に正直には答えない。あの子は何を考えているのか分からないもの」

「正解だわ。つまり三月十三日にB組の生徒達が集まって何かやるのは、やっぱり彼が首謀者なんだ」

「そう考えて間違いないと思う。ところで西山先生は、どうなっちゃったのかしら?」

「すごく心配してる」加納久美子は責任を感じていた。

「連絡は?」

「ない。電話は繋がらないし」

「最後に話をしたのが黒川拓磨なんでしょう?」

「たぶん、そう。あたしが西山先生に彼と話をしてくれるように頼んだから。でも黒川拓磨は否定しているの。会っていないって。だけど体育の森山先生から話を聞くと、彼は嘘をついているとしか思えない。手塚奈々は、西山先生がB組の教室で倒れていたって言うし」

「黒川拓磨と殴り合いでもしたのかしら?」

「違う。東条先生が教えてくれたんだけど、西山先生はハチに刺されたって言ってたって」

「え、ハチに? この寒い時期に?」

「うん」

「保健室で東条先生に手当てをしてもらって、そのまま学校から姿を消したってこと?」

「そう」

「何があったんだろう」

「わからない」

「どうするつもり、これから?」

「黒川拓磨が通っていた前の学校に電話してみようと思う。彼の担任をしていた教師と話がしてみたい」

 今年に入って君津南中学で起きてる、ほとんどの事件に黒川拓磨が関係していると考えられた。前の学校での彼の様子が知りたかった。

「あたしが近くにいた方がいいかしら?」

「ありがとう。でも一人で大丈夫よ」

「わかった」

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