第41話
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とっさに、いい考えが頭に浮かんだ。
叫び声がして校庭に出てみると、二年B組の佐野隼人が倒れていた。みんなで声を掛けたが何の反応もない。目が死んだ魚のようだった。首は不自然な形で曲がっている。これは助かりそうもないと分かった。
救急車を呼ぶと直ぐに、安藤紫は担任の加納先生に連絡した。そのことを西山主任と高木教頭に伝えると、ふと思いついて一人で三階の教室まで足を運んだ。本当に窓から落ちたのか確認しようと思ったのだ。
暗い教室の隅で女生徒が倒れているのを見つけて、心臓が飛び出すぐらいに驚いた。近づいてみると、それが佐久間渚だと分かって更に驚く。まあ、なんてこと。
声を掛けてみると、返事が出来ない状態だった。うわ言で何か言おうとしているが聞き取れない。
ペナルティの白い粉を飲ませ過ぎた、と思った。これでは死んでしまう。生きたとしても廃人と同じだ。
意識はハッキリしたまま、様変わりした自分の醜い姿に苦しみながら生き続けて欲しい。お前の母親と祖母の行いの代償だ。家族みんなが辛い思いに打ちのめされたらいい。それが安藤紫の目的だった。
ベンツの男に結婚の意思がないと分かって、その腹いせに大目のペナルティを一度に飲ませた調子でやったしまった。
きっと佐久間渚は病院に運ばれる。医者は毒を盛られたと診断するだろう。警察へ通報されたら、自分が疑われるのは間違いなかった。
冗談じゃない。これは復讐だ。酷い目に合わされたから、それ相当の苦痛を相手に与えてやろうとしただけだ。何も悪いことはしていない。だから警察には捕まりたくない。自由のままでいたい。まだ素敵な男を見つけて幸せな家庭を築いていなかった。
いい考えが浮かんだのは、その時だ。すぐに安藤紫は行動に移った。
急いで職員室へ行って机の引き出しから、ペナルティの小さなビニール袋を取り出した。ハンカチで表面を丁寧に拭く。付着しているかもしれない自分の指紋を消すためだ。
親指と人差し指にセロテープを貼ってから、ペナルティを持って二年B組の教室へ向かう。佐野隼人のカバンを見つける。その中にペナルティを入れる前に、ハサミでビニール袋に小さくカットを入れた。カバンの中に少しこぼれていた方がいいと判断したからだ。
二人は交換日記をしていたが最近は上手くいっていなかったらしい。好都合だ。佐野隼人は佐久間渚に毒を飲ませた罪意識から自殺を図った、そういうストーリーを警察が描いてくれることを願う。死人に口なし。
安藤紫は工作が終わると、佐野隼人が倒れている現場に戻った。
「すいません。気分が悪くなってトイレに行ってました」みんなに聞こえるように言った。少し間を置くと西山主任に声を掛けた。
「あたし達で三階の二年B組の教室へ行ってみたらどうかしら。ここに何人も集まって救急車を待っていても意味ないもの」
「え、……そうだな。そうしようか」
安藤紫は後ろから付いて校舎の階段を上がっていく。完全に男の西山先生に頼っているという態度を装った。彼には、倒れている佐久間渚の第一発見者になってもらいたかった。自分は表に出たくない。警察の事情聴取なんか受けたくなかった。
刑務所なんか入れられたら人生は終わりだ。冗談じゃない。そんなこと絶対にイヤだ。素敵な男を見つけて幸せな家庭を築きたい。あたしには、そうなる権利があるんだから。
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