第9話


    09   

 

 「えっ、……こ、これ、彼が描いたの?」

「そう」

「……」

 中学生が描いたとは思えない重苦しい絵を前にして、加納先生は言葉を失った様子だった。

「どう思う?」安藤紫は訊いた。彼女の意見が聞きたい。

「……」聞こえてないみたいに黙っている。

「ねえ?」

「……、すごい」

「でしょう」

「中学生で……こんな」

「彼、絵の才能を持っているわ」

「この女の子って誰なのかしら」加納先生は独り言のように言う。

「……」描いたのは自分ではない。だから答えようがなかった。

「きっと誰か特別な子なんでしょうね。だって彼女の肩には傷があるもの」

「そうだと思う」安藤紫は相槌を打つ。

「兄妹っていうことはないわ、彼は一人っ子だもの」

「あら、そう」安藤紫は嘘をつく。その事実は、とっくに知っていた。

「ええ」

「……」もっと何か加納先生が言ってくれるのを待った。ところが三時間目の授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。

 「そろそろ職員室へ戻るわ」

「うん」会話が続けられなくなっていて、加納先生はホッとしたみたいだった。安藤紫は彼女を促すように応えた。「じゃ、またね」

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