第7話

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 霊感が強いとは知らなかった。それを隠して我々を油断させたわけだ。なんて女だ。危ないところだった。息子が次からは気をつけてくれることを期待する。

 この裏切り者の女教師と一緒に焼死だ。同時に女が手にしている忌々しい鏡も焼けて割れてしまえだろう。もう使いものにはならないはずだ。そして息子は生き延びる。老人との約束がすべて果たせたことになる。オレの役目は終わりだ。好きなだけ贅沢もさせてもらった。もう悔いはない。

 他人に預けた息子にも二ヶ月前に会って話をすることが出来た。素晴らしい子供になっていた。左の耳たぶが無かったのは、老人の魂を受け継いでいる証拠だ。   

 十四年前に、この子を手元に置くべきじゃないかと思ったが、それは正しかったようだ。礼儀正しさの中に隠れた狡猾さ、頭の回転の早さ、レストランで食事をしていて随所に現れた。このオレが電気屋へ行く道順なんか訊いていないことは初めから見破っていたにも関わらず一言も触れない。つまらない世間話に、ずっと付き合ってくれた。なかなかだ。『私がキミの本当の父親なんだ』と告白して強く抱きしめたい誘惑を抑えるのが大変だった。

 うっかり一言、「そっくりだ」と口にしてしまう。それほど十九年前に会った老人の姿に容貌から仕種まで似ていたのだ。瓜二つと言っていいくらいに。この息子の反応は早かった。何一つ聞き逃さない注意力を持っていた。すぐに「何でもない。忘れてくれ」と否定したが信じてないのは明らかだった。用心しながら喋らないと大変なことになりそうなほど賢い奴だ。

 だかららと言って、教室から出て行った息子を見限っているわけじゃない。あれも大変な能力を秘めた子だ。愛しているし、期待もしている。ただ自分の力を過信したり、見せびらかしたりすることに不安を覚えた。

 小学校の低学年で因数分解を解いてみせたり、流暢な英語を披露したりして周りを驚かせたことがあった。注目を集めて気を良くしていたのを強く叱りつけた。中学に上がると喧嘩沙汰を度々起こすようになる。生意気な態度が気に入らないと上級生たちから目を付けられるからだ。体の大きな連中を倒して、クラスメイトから賞賛を浴びているのを嗜めた。虚栄心は弱点になる。つまり油断に繋がるのだ。

 炎に包まれた男の意識が遠退いていく。生きたまま体を焼かれる激痛にも関わらず、その表情は安らかだった。

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